017
「ベストな振る舞いをしてごらんよ。Aにね。君にできるかどうかは僕にもわからないけど。でも小説を好きだと言われたとき、そして君に小説が書けなかったとき、僕はひっそりとここでほくそ笑んでいたよ。布団にくるまってね。汚点の切り離しは失敗したんだ……ってね。いいかい、君が切り離したと思っているのは感情だ。汚点じゃない。あるいは感情そのものがまるごとどうしようもない汚点だったか。それから僕に言わせれば、切り離されたのは僕じゃない、君の方なんだ」
「それから、ああ、君は憶えていないだろうけれど……五月の中頃、これ以上授業に欠席すると前期の単位を失って大学を除籍になってしまうって頃に、それでも大学に行けそうになかった君が、というよりは一人だったころの僕らが、何かしらのオカルトに手を染めて無理矢理二人に分離したのがことの発端だよ。つまり一人だった頃の僕は心療内科に通わなきゃいけないような精神弱者だったっていうのに、二人になってから、僕は君がしてきた色んな無茶のつけをここでたった一人で背負わされ続けてきたってこと。これがどういうことかわかるかい。気が狂うような苦痛さ。自分じゃない誰かが君の身体を乗っ取って、痛みを感じないのを良いことに好き放題やってくれたって思ってくれれば良いよ。たった一人で、この狭い部屋で、何度も死のうと思ったけど死ぬ気力すらなくなったよ。でも君が挫折したのを見て、べらべらお喋りしちゃうくらいには元気が出たけどね。憶えてないだろうけれど、君は元々お喋りだったんだよ。もっとも、一人だったころは誰とも喋らなかったけどね。精神を病んでたしから。けど、Aとは喋ってたね」
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