015

「何もかも君の方が圧倒的に少ないんだよ……わかるかい。君は空っぽなんだ。だからそんなに身軽で居られるんだよ」

「いや、何を言っているんだい。全然わからないよ。大学に行っているのもサークルに出ているのもバイトに行っているのも、銀行に行ってお金をおろしてご飯を買って食べて生活費を払っているのも、全部僕なんだぜ。それに僕ははっきり覚えてるんだ、自分から自分の嫌な部分を切り離したいって願ったこと。僕が切り離された側だとしたら、僕が嫌な部分だったってことか」

「そうは言ってないよ。どっちが嫌な部分かって言われれば、それはまあ、僕の方だろうさ。僕が言っているのは、君の方がずっとずっと、僕より何もかも、少ないってことだけさ。例えば記憶とか、ね」

「Aさんやサークルのこと」

「そう。言い換えれば、嫌な部分を取り去ったら、ほとんど何も残らなかった、ってことかな。まあ、半分嘘だけど。ねえ、君はバイトの最中辛いと思ったことはなかったかい。授業で隣の見ず知らずの人と話すとき、苦痛じゃなかったかい。サークルに行くときに、息苦しいと思わなかったかい。僕はね、思っていたんだよ。いつだって苦痛だった。いや、もう一人の僕が文字通り無神経に休むことも知らず突っ走るもんだから、人よりも多分ずっと、凄惨な感情を味わっていたんだと思うよ。君が起きて活動している間、僕も起きていたさ。君が起きて活動している間、本当は君が感じるはずだった全ての感情を、僕がここで、感じていたんだよ」

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