014

「なあ、気付いてるか。もう一人の僕よ。僕が捨てたものは何かってさ」

 彼が言った。僕はその言葉につっかかりを覚えた。

「君が捨てたもの」

 捨てたのは、僕の方だろう。僕が君を捨てたんだ。辛いこと、悲しい思い出、恐怖、そういうものだけを全部切り離して。

「君が何を捨てたって言うんだ。僕がでかけている間に君がひっそりと家で何かを捨てたっていうなら、僕はそれに気づいてないよ」

「本当に何もわかってないんだねぇ、もう一人の僕は」

 僕は首をかしげることしかできない。彼が何を言っているのか少しもわからない。

「捨てられたのは君の方だ」


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