012

「今回はなんていうか、すごく、趣向を変えたんだね」

「そうかな。なんか変だったかな」

「全然、別人が書いたみたいになってて、驚いたよ」

 それもそうだ。あの作品は字数こそ僕が稼いでいるが、話の内容も書き出しも僕の編集が大体作ったのだ。

「〇〇さんの作品みたい」

 ずばり、僕の編集の名前だった。彼女は決してはっきりと口にはしないが、僕には僕の今回の作品が彼女の求めていたものとはまったく違ったものだったのだろうということが、雨降り前の空気が服にまとわりついて重みを増すみたいに、じっとりと沁み込んでわかった。

「ねえ、私の作品に、君は一度も感想とかを言ったことはなかったけど、君はどう思ってたの」

 Aはピーチウーロンの大きなグラスを今にも手から滑り落としそうな華奢な白い両手で持って口につけながら、ぼんやりとフライドポテトが入った大皿を見るともなく見ながら、話した。僕の方を見ないまま。

「すごく良いと思ったよ。冒頭のところとか舞台設定がすごく形よくまとまってて、すんなりと頭に入ってきたよ」

 それが僕の思いついた精一杯の感想だった。彼女の話は何回も読んだし、全部読んだ。けれど何かアドバイスやアイデアを送ろうと思っても、何も思いつかなかった。それどころか、感想すら浮かばなかった。授業で見たビデオの感想文なら、すぐに書けるのに。

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