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 居酒屋での僕はベストを尽くしていたと思う。酔っぱらった客は曲者ばかりで、ときに大声を出されたり理不尽な要求をされたり他の客の迷惑になるようなことをされたりした時には、飲食店、とりわけお酒を出すところの勤務は少し難しいなと思ったけれど、それでもその度に上手く対応できた。仕事を評価されてか、回数を重ねるごとにだんだんとできることも増えて一般業務に近づいたのか、日が進むごとに僕の仕事の量は増えていき、またひと月立つ頃には僕が一番最後まで店に残り店を閉めるのが当たり前になっていた。一番新人が一番多くの雑務をするのは当然だと思っていたので、特にそれを理不尽に感じることはなかった。


 僕が二人になって、そうして大体二ヶ月経った夏のある日、スマートフォンの機能のひとつ、日ごろ全くと言って差し支えないほど使わないEメールに、反応があった。受信1。何だろうと思って開くと、そこには酷く曖昧とした名前とあまり気乗りしない用件が書かれていた。それはサークルのイベントの連絡だった。

 というのも、サークル活動は今の僕にとっては非常に微妙な位置づけにあった。僕は自分がサークルに居たこと自体は憶えているのだけれど、サークルのイベントの連絡をしてくれたメールの送り主同様、記憶がどうにも曖昧ではっきりしないのだ。憶えている以上は僕から切り離されなかったということなので、悪い思い出ではないのだろうけれども、思い出せない以上は、そういうことなのだろう。


 そういうわけで僕はサークル活動をやや敬遠していて、一人の頃から僕はサークル活動をサボっていたらしかったこともあって、サボタージュを継続していた。けれどもメールを見た途端、なんとなく曖昧なままで居ると言うことが、もやもやとして気にかかる。元々白黒はっきり分けた僕だ。そういう性分なのかもしれない。僕はサークルのイベントに顔を出すことにした。

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