第24話 儚き希望2
「結論自体に違いはないのだが、非実領域にある何か、それが持つ力は、それが及ぼした結果から考えられるよりも遥かに小さなものではないかと考えられる。その様に推測している」
「顕微の装置でしか見えぬ程の命しか奪う事が出来ぬ…、と……」
「その通りだが……。先程の小蟲の話は、少し途中を
「なんだかよく分からんが、期待していいのか?」
「それが分からんのだ。まぁとにかく説明しよう」
「あぁ、頼む」
「まだ確証はないが、その装置で見える範囲の蟲は直接死滅したのではなく、さらに小さな蟲が、仮に小の蟲と極小の蟲と区別するが…、顕微装置ですら見ること叶わぬ極小の蟲が死滅した結果、小の蟲も死滅した…と、考えている」
「その理由は?」
「庭の土を非実領域の土と混ぜても、小蟲共は問題なく生き続けるのだが、庭の土から小蟲だけを取り出して、非実領域の土に移すとやがて死んでしまうのだ」
王は眉根を
イシュトバルトは続ける。
「一応、確認のために、薬瓶ごと一刻ほど煮沸した庭の土に小蟲を移してみたが、その場合にもやがて死んでしまった」
王の眉間の皴が深まる。
「そこで、顕微装置でも見る事の叶わぬ極小の蟲がいると仮定する。小の蟲はそれら極小の蟲を捕食するのか、何らかの形で共生しているのか…、まず極小の蟲が死滅すると、小の蟲も永らえること叶わず死滅する。そのように考えると一応の説明はつく」
………
暫らく考えて、王が口を開く。
「土を混ぜても問題がないという事は、非実領域の土自体が問題とは考え難い」
イシュトバルトが頷くと、王は続けた。
「煮沸した土は非実領域の土と同様、小の蟲を殺す」
イシュトバルトは再び頷く。
「そこで、さらに小さな極小の蟲、顕微装置でさえ見えぬ極小の蟲がいると仮定すれば…、非実領域ではそれが死滅し、煮沸した庭の土でももちろん死滅し、その結果小の蟲も死ぬ……。庭土には小の蟲もいるが、極小の蟲もいる。庭土ごと非実領域の土に混ぜてしまえば、問題なく小の蟲は生き続ける……」
「非実領域の土も水も風も、命を害する何か、小の蟲を毒する何かを含んではいない。小の蟲が絶え果てたのは、命を奪う何かがあったのではなく、あるべきものが無かった事による。生き続けるに必要な物、恐らくは餌が失われ、餓死したのだ。それが、極小の蟲だと仮定したが………」
「まぁ、先程告げた結果と大きな違いはない。違うのは奪われる命の大きさだ。これは、あくまで仮定の話で、加えて、彼の地で失われるのが小の蟲の命でであろうと極小の蟲の命であろうと、大した違いはないのかも知れん。どちらにしても、命を奪う原因は見当すら付かん。それでも、この仮定が正しければ、希望が僅かながら大きくなる」
王は目を輝かせてイシュトバルトを見つめる。イシュトバルトは僅かな希望を改めて口にする。
「非実領域におけるこの現象は、人ばかりかこの世の生きとし生ける全ての命を脅かす。だがその力は極めて小さく、目に見えぬどころか顕微の装置を用いてもさらに見る事叶わぬ極小の命しか奪う事ができぬ……、という事になる」
「やがて実となるべき物、子となるべき物、やがて生れ出るはずの命を奪うこの
「念のため付け加えておくが、何らかの毒の可能性は現状ではやはり排除している。小の蟲に影響なく、極小の蟲を排除する毒、そういう毒の可能性を再考する必要が出てくるのだが、それだと庭土を混ぜた際に小の蟲が生き続ける事に説明がつかないからな」
「ふむ、その辺は任せた。俺が原因について考えても全く意味がない事がよく分った。俺は対策だけに集中しよう。齎される被害は甚大だが、そもそもは微小な力しか持たぬ、この厄介者に抗する盾を見付けてくれ。お前が見つけたその盾を俺が掲げてこの国を守る」
「あぁ。今後、何らかの知見が得られた時、この力が小さければ小さい程、それを御する
「儚いな……。しかし、勇気づけられた。感謝する、イシュト」
…………
「お話はお済みになりました?」
「ラートリンドか、待たせてしまったか?」
「いえ、今お食事の準備が整ったところです」
イシュトバルトは王の顔を見て、頷くのを確認してから答えた。
「それじゃあ、食事にしようか」
「今日はお祝い」
マンマルがそんな事を言う。
「ん? 何の祝いだ?」
「キーリスの怪我が治ったお祝いじゃないの?」
「………そう…だな。キーリスが生き抜いてくれた事。俺をマンマルと王都まで連れて来てくれたこと。俺の弟子になってくれたこと。感謝せねばな。今日はキーリスの快気祝いだ」
「はい」
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