目録番号010 美しき皇帝の肖像 〜序〜

 彼の国には、神がいた。

 今でも、いるやもしれぬ。彼の国が、この地平の彼方にまだあるならば。


 彼の国は、常春の地上の楽園。

 彼の国を訪れた旅人は、誰一人として、帰ってこない。


 あゝ、聞こえるか!

 帰らぬ旅人を想う恋人の嘆きが!


 ――讃えよ、讃えよ、神を!

 ――――讃えよ、讃えよ、美しき皇帝を!


 あゝ、届かぬのか!

 旅人はもう神の下僕しもべとなってしまったのか。


 ――讃えよ、讃えよ!

 ――――讃えよ、讃えよ!


 もし、あなたが悲嘆にまみれた人生を見切りをつけ、彼の国へ探し赴こうと言うならば、止めはせぬ。

 止める理由もない。


 だが、覚えておけ。

 彼の国の美しき皇帝には、気をつけよ。

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