目録番号008 捻くれた縦笛

 それは、救済か? 断罪か?


 笛の音高らかに笛吹き男パイドパイパー


 ほぉら、耳をすませば、聞こえてくるだろう。

 無垢な子どもたちの呼び声が。


   助ケテ、助ケテ、僕ラヲココカラ連レダシテ

   助ケテ、助ケテ、僕ラヲドコカニ連レテッテ



 それは、救済か? 断罪か?


 笛の音高らかに笛吹き男パイドパイパー




 ♫♫♫


『今日の特集は、少子化に追い打ち! 死産率急上昇の謎!! 専門家の……』


 街頭ビジョンに映る厚顔無恥の女性キャスターアルルカン


 信号待ちのママには、きっと他人事。

 どんなにエラいセンセイが、難しい言葉で説明してくれても、ママにもボクにもわからない。

 そもそも、少子化がなんだというのだ。

 ボクは、ちゃんとここにいる。

 社会の問題は、まだまだ他人事。

 ママもそう――


「ああっ! どうして繋がらないのよ!!」


 何度かけなおしてもつながらない相手を口汚く罵るママ。


 ママにとって大事なのは、ボクのパパ。

 パパを繋ぎ止められなかったら、ボクはいらない子。


   ――――いらない子。


   助ケテ、助ケテ、僕ラヲココカラ連レダシテ

   助ケテ、助ケテ、僕ラヲドコカニ連レテッテ


「こんなことなら、妊娠なんか……」


 いらない子。


 ボクは生まれてないのに、いらない子。


 聞きたくないよ。

 ママの汚い言葉なんて。


   助ケテ、助ケテ、僕ラヲココカラ連レダシテ

   助ケテ、助ケテ、僕ラヲドコカニ連レテッテ


 笛の音が聞こえる。


 素敵な綺麗な笛の音が――




 街頭ビジョンの女性キャスターアルルカンの目の前で、またほんの少しだけ死産率の数字が増えようとしていた。








 それは、救済か? 断罪か?


 笛吹き男パイドパイパーが連れ去った子どもたちは、どこに行ってしまったのか。


 教えておくれよ、笛吹き男パイドパイパー

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