住吉 良平 27
事務所に戻ると入れ替わりで大地がギャラ交渉に出ていく。
事務所には百合子と二人きりになって沈黙が流れる。
大地がいるから間が持つが、二人では難しい。
百合子は黙ったままパソコンを睨んでキーボードを叩いている。
良平にとって技術的な事は全く分からないので、何をしているか聞くことも難しい。
「あの」
百合子が打つ手を待ったく緩めずに話しかけてきた。
「立ってないで座って。」
良平は立ったまま壁にもたれかかっていた。
椅子を引っ張り出して座る。
「物好きだね。劉一さんが死んだとこ見てたのに。」
どう答えようか迷った。
自分の異常な性癖を話すわけにもいかないし。
ファイトマネーで簡単に稼ぎたいと適当に誤魔化す。
「あたし、と、父はね」
百合子が打つ手を止める。
「自衛隊で中国の支援キャンプ参加してたんだ。
技術班でね。
父が何年も国境付近にいてさ。
母がそのまま浮気して離婚。」
こっちを振り向かず話し続ける。
「自衛隊に入るつもりなんて毛頭なかったのに、
母と離れるために高校出てすぐ働けるの職業探したんだけど、思いついたのが自衛隊でさ。
受けてみたら簡単に受かっちゃって、二年も働いたらすぐ父と同じ部隊に所属させられたの。
ま、配慮だろうね。
中国はほんと酷くてさ。
分裂した国同士でしょっちゅう小競り合いしてて、国境付近の一般市民守るためにパワードスーツのメンテナンス保守をメインでやらされてたんだ。
ほんと色々あったんだ。」
ふふっと笑う。
「結局二人して退役して自動車の修理と車検屋さん始めたんだけどさっぱりでさ。
借金だけが膨らんで今回のことも渡りに船だったのよ。」
なんでそんなことを自分に話すのか聞いた。
「あなたも死ぬかもしれないと思ったら…、ちょっとね。
なんだろう?
あなたのことを聞こうと思ったのに、自分のことを話しちゃった。」
良平の方を振り返って見つめる。
「死なないように全力でサポートしたげるよ。
分かってても死ぬとこは見たくないしね。」
ありがたい言葉だったが、自分にとっては既に生き死に興味はなく、
あの瞬間を体験する事だけに全力を尽くすつもりだった。
そのために協力してくれるというならありがたい。
「缶コーヒー、冷蔵庫に入ってるから飲んでね。」
おぅ、と返事をして冷蔵庫から二つ缶を取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます