住吉 良平 20

 壁を背にして立っている劉一を相手は容赦無く殴る。

鈍い音が絶え間なく続く。

壁に貼り付けられているかのように絶え間なく殴り続けられ、ビクンビクンと手足が震える。

客席からもうやめてーという悲鳴が上がった。

それでも殴る、殴る、殴る。

既に歓声よりも悲鳴が大きくなった。

ピタリと止めると劉一は崩れ落ちる。

相手も肩で息をしていた。

その時点で劉一がもう死んでいることは間違い無かった。

十分呼吸を整えた後、劉一の足首を掴む。

ひと一人の重さを軽々と持ち上げた。

持ち上げられた劉一は人形の様に見える。

関節部や首元から細い筋のように血が流れ落ちる。

その姿勢のまま相手はしばらく立っていた。

足元に血だまりが出来ていく。

全く動かないことで客席がざわつき出し始めた。

急にクルリと向きを変えるとまるでボールを投げる仕草で足首を掴んだ劉一を思いっ切り投げた。

投げられた劉一は大の字になったまま飛んでいき、天井に激突した。

ドォン!

大きな音が鳴り、血が天井に広がった。

勢いを失った劉一がゆっくり落下し、今度は地面に叩きつけられ血だまりを作る。

会場が静まり返る。

「おおらああああああぁぁ!!」

対戦相手が大声で叫んで両手を上げた。

それを機にして歓声が沸き上がる。

今まで以上に、もはや悲鳴にも聞こえるレベルの歓声だった。

竜馬は腕を組んで相手を見ていた。

怒りや焦燥ではなく、安堵の表情があった。

大地と百合子は途中から絶句して呆然と眺めるだけだった。


良平は…

早くこの歓声を”自分に”浴びせてほしい。

早く、早く、今すぐ、今でもいい。

注目されたい。

ありったけの称賛と罵倒をくれ!

…心と下腹部の高揚で半ばトランス状態になっていた。



コロッセオ最初の試合が終わった。

試合を見た者の心に良いも悪いも深い爪痕を付けた。

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