住吉 良平 17

 一気に空気の波が押し寄せる。

会場の異様な熱気とつんざく様な歓声で体ごと振動する。

丁度反対側の扉から対戦相手も入場しようとしている。

会場を見渡すと観客席がぎっちり立ち見でいっぱいになっていた。

全員がしばし立ちすくむ。

ただ、一人だけ違う理由で動けなくなっている者がいた。

良平だった。

良平は熱気と歓声を全身に受けた瞬間痺れる様な感覚を受けた。

自分がどうしてこのチャンスにしがみついたのかも分かった。

快感のためだ。


良平は中学校でサッカー部に入部した。

元々運動神経が良かったためか2年生になったころには既にサッカー部のエースとなっていた。

良平自身はそこまでサッカー熱があったわけではなかったが、それなりに努力すれば結果もついてきていたので楽しかっただけだ。

高校は富山県でスポーツに力を入れている学校へ推薦で入った。

沢山の部員がいる中では良平は平均よりもやや上程度の実力だった。

才能が開花したのは2年生の夏インターハイで県大会を順調に進み、準々決勝になった時、それまで観客など殆ど居なかったのに生徒、保護者、OB達が試合を見に来たのだ。

自分だけを応援してくれているわけではないが、大声の応援が良平を異様に興奮させた。

その時は知覚してなかったが、声援を受ける快感が性的興奮に繋がっていたのだ。

そういう時、良平は異常なほどの運動量とフィジカルの強さで活躍出来た。

その後決勝に行くと観客はもっと増えた。

試合ではとにかく動いて動いて動きまくった。

歓声を受けて良平は絶好調で疲れを感じず大活躍した。

パスの精度もシュートの精度も、ゴール前の位置の取り合いでも全く負けなかった。

声援をもっと浴びせてほしい。

ただそのために全力を尽くした。

しかし、ボールを取り合っている際相手選手の肘が良平のほほに当たった。

その瞬間異常なほど強く怒りが込み上げ、気が付くと相手を殴り飛ばしていた。

顎に綺麗に入ったのか想像以上に吹っ飛び動こうとしない。

悲鳴が上がる。

気付いた相手チームからのブーイング。

それすら快感に感じる。

すぐに審判がやってきて退場を申し付けられた。

夢のような時間が終わるのを感じ一気に沈み込んでしまった。

ベンチでコーチに叱責されても上の空だった。

終わった。

部は順調に勝ち、インターハイにも進んだが良平は問題を起こしたため、それ以降試合に出させてもらえなかった。

部に居辛くなったから、という理由で退部したが、本当は試合に出て声援を得られないから、というのが大部分だったかもしれない。


これは劉一の試合であり自分には興味が向けられていない。

本当の快感は次にお預けだ。

今はまだ我慢して溜める時なんだ。

良平は深く深く呼吸した。

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