住吉 良平 9
良平は髭面のおっさんに案内されて事務所というプレートが張り付けてある扉の中に入る。
工場よりも多少狭い程度の部屋の大きさだった。
元は本当に事務所として使っていたのだろうが今は机を隅に追いやって床には色々な部品や工具が散乱していた。
「わしは那賀 大地。この自動車整備工場の社長だ。今事務所の中でパワードスーツの調整やってんだ。」
大地はにやりと笑って壁まで歩いていく。
壁にはパワードスーツがかけられていた。
ヘルメットから上服、手袋、ズボン、ブーツと上から人が着る順番に揃っている。
「あんた誰?」
気が付かなかったがスーツの下に小さく丸まってみかん箱に載せたノートパソコンのキーボードを叩いている女性がいた。
こちらを一瞥もしない。
戸惑っていると大地が答えた。
「竜馬さんの仕事手伝ってくれた人。スーツに興味あるんだとさ。」
「ふーん…。せっかくいるんだから手伝ってよ。」
相変わらずこちらを振り向かずキーボードを叩き続けている。
「じゃあ、父を手伝ってやって。触れるしいいでしょ。」
動けなかった良平ははっとした。
「おお、手伝ってくれたら助かるなぁ。実は結構予定日ギリギリでね。」
大地が工具で何かの機械のボルトを締めながらこちらを見て言う。
「お願いします。」
緊張しながら大地のそばに座り込んだ。
「あたしは百合子です。そのおやじの娘。パワードスーツのプログラム部分担当してます。あと、この工場のおやじ以外の唯一の従業員です。」
近寄ったことで横顔が見えた。
身長が小さいのか猫背で丸まっているととても小さく見える。
髪は肩より少し長い位で眼鏡をかけている。
横目でこちらを見て薄っすらと笑った。
凛々しい整った顔立ちだった。
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