住吉 良平 7
結局良平は言われるがままに手伝ってしまっている。
取り立て人の雰囲気からどう見ても堅気の人ではないので逆らったらどうなるか分からなったからだ。
ただ、同時に好奇心もあった。
さっきの話を聞く限りでは、昼間に聞いた新しくやる興行プロレスの関係者のようだし、普通に生きているのでは関われないような舞台裏を覗けるんじゃないかという期待がある。
大人しくなった中国人を昔どこかで見た捕らえられた宇宙人の写真のように取り立て人と左右から手を持って引きずっている。
明かりが消え、間接照明のみで薄っすらと浮かび上がる通路を取り立て人に指示されながら進む。
引きずる音、すすり泣く音、靴音、上がった息。
人と行き違えることもあるのだが、この光景を見ても見ぬふりをしている。
中国人は全く歩こうとしないので体力を消耗し、汗が滴ってきた。
どれくらい歩いたか、エレベーターまで来ると、取り立て人は下降のボタンを押した。
いつもは中々移動には使えないエレベーターも深夜人がいないとスムーズにやってくる。
開いた扉の中から漏れた光は浮島が出来るようにぽっかりと自分たちと足元を照らす。
眼で合図され乗り込むと取り立て人は無言で5階のボタンを押した。
地下都市は横に非常に広い設計で、現状の大阪第一地下都市では5階が最下層だ。
良平は必要がなかったため、殆ど地下5階へ下りたことがなかった。
「ほんと、手伝わせてすまんな。別にお前に何するわけでもないから安心してくれ。」
エレベーターの中で取り立て人がにこっと笑って言った。
「いえ・・・、ええ。」
眼をそらして曖昧な返事をする。
汗を拭いて息を整える。
緊張からか、疲れているのに足がふわふわする。
ここから自分の人生少しは変わるのだろうか。
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