プロポーズ大作戦の時間

 アタルのフルートが聞こえてきた。

 たしか、この曲はG線上のアリア。

 パピコは、涙を拭いて、音の鳴る方へ、足音を殺して歩んでいく。


 パピコが最後だったらしく、サム&ムーは、ぼーっとした顔のまま、宙を見つめていた。


「俺が来た時にはもう、二人とも気絶してたんだ」


「フルートで起こしてあげてたのね」


 パピコは、寝室を二人に行かせたことを、後悔した。

 きっとあのエグい指にやられたに違いない。


「収穫は?」


 アタルに聞かれ、パピコはゆっくりと首を振る。


「そうか。ヘックシュン」


 アタルの鼻水を見て、パピコはポケットからティッシュを取り出そうと、手を突っ込んだ。

 固いものが手に当たったので、なんだろうと見てみると、指輪が入っていた。


「お前、それ・・・・・・」


「どうして?」


 パピコがプチパニックに襲われていると、宙を彷徨っていたサムが、急に我に返った。


「盗ってこられたの!?」


「これなの!?」


「よし、あとはここからでるだけだ。急ぐぞ、離れるな!」


 アタルはそう言って駆け出すと、つるんと滑った。

 エナメルのカバンが落ちていた。


 ムーが拾おうとしたところを、サムが腕を引っ張る。


「それよりもっといいやつをお前にやるから、行こう」


 パピコは、ちょっぴりジェラシーのような、羨ましいような気持ちで後ろから見ていた。


 一行は玄関から靴を履いて家を出た。

 パピエル、ありがとう。

 パピコは、家を振り返って心の中で感謝した。

 あの時、パピエルがパピコのポケットに入れてくれたのだ。

 私の双子は、そういうやつだ。


「ねえ、二人を先に行かせてあげようよ」


 穴に入るとき、パピコはこっそりアタルに耳打ちをした。

 なんとかして、二人きりにさせてあげたかったのだ。


「わかった」


 パピコの意図を汲み取ってくれたアタルが、サム&ムーを先に行かせてくれた。

 パピコとアタルは、二人で星空を見上げる。


「アタル、星占いができるよ」


「ああ、そうだな」


 しかしアタルは、星占いをする気配がない。

 夜の匂いが二人の鼻をつく。


「ヘックシュン」


 パピコは自分のカーディガンを、アタルにかける。


「帰ったらあったかいスープを作るわね」


「それより、耳かきして」


 ふふっとパピコが笑う。


「いいよ。その代わり、アタルに一つお願いがあるんだけど」


「なんだ?」


「私の家族のこと、何も聞かないでほしい」


 その時、流れ星が見えた。


「タイミング悪いな」


 アタルが言った。


 すると、穴の中から、絶叫する声が聞こえた。


「結婚してください!!!!!」


 パピコとアタルは顔を見合わせた。


「ねえ、星のカケラを集めてきてよ」


 パピコが大真面目に言うと、アタルは、「探してみる」と笑わずに応えた。

 二人を祝福するために、上から星のカケラをまぶしてあげよう。

 その思いをアタルに伝え、アタルにそのまま託した。


「お前、俺を置いていく気か?」


 穴の中に足を入れると、アタルが信じられないという目をパピコに向けた。


「私は直接顔を見て二人を祝福するから、バックアップお願い」


 そう言うと、パピコは穴の中に入った。

 パピコは二人にすぐに追いついた。

 サムは帰るまでプロポーズを我慢できなかったらしい。


「おめでとう」


 パピコが笑顔で二人に近づくと、


「ああ、まぁ・・・」


 と、歯切れの悪い返事が返ってきた。

 あれ? どうも雲行きが怪しいぞ?


「え? 違うの?」


「指輪をムーに渡したのはいいけど、俺の分がないんだ」


 あの指輪は、ムーの薬指で光っていた。


「まだ私の家族が持ってるってこと?」


「そうなんじゃない?」


 サムがパピコに恨めしい目付きを向けて言う。

 そんなはずはない。

 だとしたら、パピエルは二つとも私のポケットにいれてくれているだう。

 ということは・・・?


「三浦さん?」


 すると、上から星のカケラがちろちろと降ってきた。






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