マイ☆プリンセス、パピコの時間

 パピコは生まれて初めてのギャルメイクを施された。

 鏡に映る華美な顔に、一度は言ってみたかった台詞を口にする。


「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しい人はだ~れ?」


「ふふっ喜んでもらえてよかった」


 パピコをメイクで今時ギャルに変身させたムーが頬を緩ませる。


「これならサムどころか、アタルまで分からないわね」


 パピコは得意気に鼻を膨らました。


「本当に。ついでにその姿でアタルの気持ちを確かめたらいいのに」


 パピコはそれには答えずに、マスクをして、弱々しい声を出す。

 声でバレないよう、風邪をひいてる設定で押し切る予定だ。


「頼んだよ、パピコ」


「任せて! そっちもお願いね」


「もちろん」


 お互いが任務を遂行するため、一旦解散した。それぞれの持ち場につく。パピコは自分の持ち場である、サムの居場所を突き止めるため、大学内を捜索した。


「あの、おひとりですか?」


 バイオリンを手にした、一人の若造に声をかけられた。


「二人羽織に見えますか?」


 パピコはけだるそうにあしらう。ターゲット以外に興味はない。


「よかったら、僕とお茶でもどうですか?」


 パピコは、思案顔で言った。


「ええと、それってつまり、ナンパですか?」


「はっきり言うんですね、まぁ、そうです」


「おめでとうございます! パピコ史上、記念すべきナンパ第一号でございます」


 パピコが高らかに宣言すると、ナンパ師は少しのけぞった。


「さあさあさあ、さっそくお茶でも行きましょう!」


「え? ナンパ師についていくの? 初めてなんでしょ? 大丈夫?」


 なんたることか。あろうことかパピコはナンパ師に気を遣われてしまった。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ」


 パピコは強引に、大学内のカフェにナンパ師を連れて行った。


「私をナンパした経緯を教えてくださる?」


 パピコは相手の望み通り、なるべくクネクネしながら訊ねる。


「その、見た目がゴージャスだったから、つい・・・」


 ナンパ師は、ナンパした時の勢いがなくなり、申し訳なさそうに答えている。


 パピコはお冷を持ってきた学生ウェイトレスに、ショートケーキを頼んで、二人きりの空間を演出した。

 ナンパ師は、まさかの状況に戸惑いながらも、パピコの取り調べに律儀に答えていく。


「それで、あなたは私をどうしたいの?」


「えっと、とりあえず番号を聞いて、後日ご飯でも誘おうかなと」


「なるほどね。貸してごらんなさい」


 パピコはナンパ師からスマホを取り上げ、自分の番号を登録した。

 登録した名前を見て、ナンパ師の顔は青ざめていった。


「マイ・プリンセス、パピコ・・・?」


「ムーがしくじったら、私はもうすぐフリーだから。私は晴れてあなたのものよ」


 ウェイトレスがショートケーキを運んでくる。

 パピコはマスクを外し、その時初めて、風邪をひいている設定だったことを思い出した。

 あれほど練習したかすれ声を、今更出してみるが、その前の発言から、ナンパ師は奇妙な目つきでパピコを見ている。


 パピコは、なんとかごまかそうと、片目をつぶってみる。


「あ、バイトの時間だ」


 パピコのウィンクをまともに見たナンパ師は、どこかで見かけたお笑い芸人の去り際のように、慌てて店を後にした。


 店を出たナンパ師は、電話をかけた。


「もしもし。少し時間がかかりそうですが、必ずあなたのところに連れ戻します。ええ、彼女のいるところは、ここじゃない」

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