ハロウィンの時間
サリーがその言葉を自分なりに理解するには、気が遠くなるほどに時間がかかった。
それでもサリーは、コーヒーに牛乳を入れて飲んだり、ハチミツを加えて飲んだりして、なんとか自分の中に染み込ませてみた。
ハロウィン当日。ご馳走を作り終えたサリーは、時計を見た。
招待客が来る時間までまだ余裕がある。
ほっと一息つき、ソファーの上に転がっている孫の手に手を伸ばすと、手長猿のように、パピコがサリーの腕にぶら下がってきた。
「何をする!?」
サリーは思わず、味方の武士に欺かれた武将のような声を上げる。
筋トレ離れでなまった体は、すぐに悲鳴を上げた。
「私の衣装はどれ?」
サリーが提案した仮装の衣装交換だが、パピコの方も乗り気でいてくれているらしい。
久しぶりの“らしさ”に、サリーは思わず涙ぐむ。
全身スパゲティーの衣装を渡すと、パピコは鼻歌混じりに着替えていた。
「ハンバーガーと寿司の衣装もあるから、好きなの選んで」
サリーがそう言うと、パピコはよりいっそう喜んだ。
「俺のは?」
「ないよ。ていうか、自力で変身できるでしょ?」
涙が引っ込んだ。
「は? なにそれ。ないんならハンバーガーの衣装着ようかな」
「とぼけないで! 今日はありのままのあなたでいてよ」
どうして用意されてない上に怒られなきゃならないんだ。
こうしてサリーは理不尽さに鬱憤をため、険悪なムードのまま、冷蔵庫からコーヒーと牛乳の在りかを探したのだった。
8時を回り、一組のカップルが、招待状を持ってやってきた。
男の方は、仮装をしてはいたが、紛れもなくあの男である。
その男の腕をとる女の子を見て、サリーは思わず後ずさりをする。
宇宙人ってのは、この子のことなのか。
しかし、男の方が宇宙人の仮装をしている。
これは・・・突っ込みまちなのか?
「サム、綺麗よ」
あろうことか、パピコはサムの姿を見てうっとりしているではないか。
パピコの言葉で、強張っていたサムの顔は、少しだけ和らいだように見えた。
その顔を見て、宇宙人の女の子が微笑んでいる。
サリーはサムとぎこちない挨拶を交わし、サムからガールフレンドの紹介を受けると、二人をリビングに招き入れた。
こうして独特な緊張感をはらんだハロウィンパーティーが始まった。
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