痩せ我慢の時間

 家に帰ってくるやいなや、パソコンを開くようになったパピコを見て、株でも始めたんじゃなかろうかと、サリーは愛しのハニーに疑惑の目を向けていた。


 ただいまのタックルも、最近は激しさがみられず、ひどいときにはよろけて当たる程度になっている。心ここにあらず、というのが腰の入ってないタックルでサリーに伝わってしまっている。


 パソコン画面ばかり食い入るように見ているので、サリーは目に優しいブルーベリーを使ったデザートを作りながら、どうにかして自分に気を向ける方法はあるかと宙を睨んでいた。


 だが、うまい料理が出来たぞ♡ と声をかける意外になかなか思い付かない。なぜなら、今まではそれで万事が全て、丸くおさまっていたからだ。


 つまり、今は飯で機嫌が直らないという、パピコの生態を塗り替える事態が起こっているのだ。


 こうなってくると、何にそんなに夢中になっているのかが気になるところだが、サリーが後ろから盗み見ようとしても、パピコが顔色を変えて吠えてくるので、サリーにとっては悶々とする日々が続いている。


 ブルーベリーを鍋で煮るのに、思ったより時間がかかっている。

 テレビをつけると、地元のニュースをしていた。

 今週末に控えたハロウィンに向け、デパートでのハロウィン商戦が加速していると、好青年と呼ばれそうな若手アナウンサーが話している。


 これだ。


「ハロウィンパーティーでもする?」


 サリーの粋な提案に、パピコが振り替える。


「仮想するってこと?」


「うん、お互い相手に来てほしいコスチュームを用意しよう」


「オーケー」


 すぐにパソコンに向いてカタカタし始めたパピコの大きな背中を見て、サリーは痩せ我慢をして、何度も自分に同じ言葉を言い聞かせる。


 週末にはギュッとしてやるからな。

 ギュッとしてチュッとして、イチャイチャパーティー。

 ギュッとしてチュッとして、イチャイチャパーティー。


 自分から自分への豊かなリズムのプレゼントのおかげで、情緒が乱れることなく、腕前がぶれることなく、ブルーベリーのジュレが完成した。


「そこ置いといて」


 ご飯にしようとサリーが言うと、パピコはそっけなくそう言い、立ち上がった。


 チャーンス!


 突如訪れたチャンスタイムに、サリーの頭は一気に逆上せ上がる。


 サリーがチラッとパソコンの画面を見ると、そこにはハロウィンパーティーの招待状があった。


 サリーの中から音が消えると、流しの向こうから、印刷機が稼働する音が聞こえてきた。


 

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