地球が制服を着た時間

 パピコは時間も忘れてサムのこれまでのいきさつに聞き入った。

 宇宙語だったはずの炭水化物メロディーは、壮大なオーケストラに変わっている。自分の脳内で流れている音楽なのに、お金を払わなくていいか心配になるほどにプロも唸る演奏だった。


 サムは、宇宙人と人間の架け橋となるような音楽を創ることを目指して宇宙から音楽留学に来ていた。


 サムの話によれば、宇宙には人間をよく思っていない連中がいて、それだけならまだしも、人間を危険分子とみなすそそっかしい者までおり、サムは音楽の力で、そいつらを食い止めようとしているという。


 パピコにとって、これまで気にしたことのなかった影の薄い存在だったサムだったが、大きなテーマを背負って生きていたことに、パピコは驚き、感心を覚えた。


 その一方で恋愛感情が芽生えていたムーには、サリーに相談した後、自分の身分を明かしたらしい。すぐには信じなかったムーも、紙切れで切っても一向に血が出ない指を見たり、全身がエナメルのような肌触りだということを確認するうちに、真実を受け入れるようになったという。


 それでもいい、それでも一緒にいたいと言われ、サムの目からは、出ないはずの水分が出てきたというからびっくりだ。


 こうして炭水化物メロディーは、しんみりとお茶の間を温めるようなクライマックスを迎えた。


 パピコはたまらず1000円札を握りしめたが、実際のコンサートではないので1000円札の行き場がない。


「宇宙速報、教えてね」


 パピコはそう言って、ひらりひらりと手から1000円札が落ちるのも気にせず、サムにインスタグラムの裏アカウントを作らせて、その場でフォローした。1000円札を拾って渡してくれるムーの正義感など目もくれずに。


 そして授業を終えたプーと合流して、弁当を食べながらこそこそサムのインスタの裏アカをチェックすると、服屋に見立てた宇宙の中に、無地の緑の中に、墨汁のようなものがところどころ垂れており、シルバーのトゲが整然とたっている特殊なスカートをはいた地球があった。


 ハッシュタグには、制服とだけ書かれている。


「見ちゃった」


 プーがぼそっというので、パピコの心臓がスタッカートで飛び跳ねた。


 だがプーは、パピコの携帯ではなく、お弁当の中身を見ていた。


 正確には、サリーが作ってくれたオムライスだ。もっというと、ケチャップで書かれた『あいしてる』


 残念なことに、サムのインスタの後に見るそのメッセージは、パピコには麩のように軽く感じた。

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