テレパシーの時間
おかえり、と言うのも、おやすみ、と言うのも違う気がした。
パピコは、意識が遠のくまで、静かに、執念深く宇宙人の正体を問い詰めたが、サリーは知らないの一点張りだった。そこまではサムも教えてくれなかったという。
翌朝、玉子焼きの香ばしい香りでパピコは目が覚めた。
サリーがパピコのためにお弁当を作ってくれていた。
パピコはサリーのヒモ復活を静かに喜んだ。夕べの話があまりにも衝撃的で、サリーの狼疑惑など、二の次となった。
この宇宙人問題が解決したら、じっくり話を聞くとしよう。それでいいね? サリー。
行ってきますのキスの際、パピコはテレパシーでそう言ったが、サリーは気付いてくれただろうか?
キスの後、じっと目を見つめてテレパシーで問いかけると、頭をぽんぽんしてくれた。パピコの中のモーツァルトが爽やかな朝を創りだすと、体が勝手に感激の舞を披露してしまう。
ここでサリーが愛の鉄拳でパピコを追い出してくれればよかったのだが、手拍子でパピコを乗せるため、大学の講義に遅刻してしまった。
教授の声だけが虚しく響き渡る教室に、にゅるっと侵入する。
感激の舞で汗だくのパピコを見て、あちこちでヒソヒソ組が現れた。
空いていた一番前の席に座り、ヒソヒソ組のメンバーを、逆恨みを込めて確認すると、その中にサムがいた。バチッと目があったサムは、端正な顔を歪めて目をそらした。
一足先に冬服に身を包むサムを見て、パピコは教授の話がいまいちなことを悟る。
たしかに、名だたる音楽家たちの人生を話すのに、その覇気のなさではがっかりする。本人たちも、笑ってしまうほどに感心度ゼロ口調で自分の人生を語られるのは無念だろう。この教授は、生徒に陰で省エネ教授と揶揄されている。
だけど、万一教授が宇宙人だとしたら、心穏やかでいられる。
人間ではないのだから。この一言でこの省エネ問題も片付けられるだろう。
サムの好きな人が、女だとは限らないし、同じ生徒だとは限らない。
壁のある相手だから、サリーに誰だか打ち明けられなかったのかもしれない。そう考えるとしっくりくる。
チラッとサムを見る。キラッキラした目で、教授を見ていた。
これはもう、決まりでしょう。
パピコは確信した。
言い逃れはできませんことよ?
口角をあげながら、パピコはサムに償いテレパシーを送る。
ねえ、サム。あんたは誰にも言えない恋をしてたんだね。
何も知らずに、サリーと上手くいかないこととか、色々愚痴ってごめんね。
それも意味不明な表現で愚痴ったりして、ごめんね。
今なら、理解に苦しむよって言って聞き役を降りたがってた君の気持ちも分かるよ。
「君はいつになったら教科書を開くのかね」
パピコは無機質な声色が自分に向けられていることに気づくまで、少しばかり時間がかかってしまった。
あらあら、ごめんなさいね、聞いてるふりぐらいはしないとよね。失礼しましたわ。パピコは省エネ教授こと宇宙人に余裕ぶっこきまくったテレパシーを送る。
佳境に入ったベートーベンの人生が、チャイムにより呆気なく打ち切られるような味気ない講義が終わる。
パピコが向かう先は、もちろんサムのところだ。
そこで早く答え合わせがしたい。
パピコはサムを、そっとロックオンする。
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