第43話 ミッションコンプリート

 カラスがくあくあと鳴いてるし、ミオがやる気のまるで感じさせない拍手をしている。一体何事なんだ?

 冷や汗だけが出てくる俺だったが、何が起こっているのかまるで分らないから聞くしかねえ。

 

「おめでとうって?」

「五十万ゴールドの売上を達成したからですが?」


 またまたあ。客足は無しだぞ。

 つまり、売上も無いのだ。


「冗談はいいとして、まあまた明日かな……」

「私は冗談など言っておりませんよ?」


 その冷淡な目線……怖いから。やめてええ。


「えっと、俺が売った?」

「そうですね。一応、良一さまがやられたことです」

「ん?」

「……」


 何か喋ってくれよおお。

 

「おい、青木。ここを喫茶店にするとかで邪魔だからと魔法スクロールをどうしたのか覚えているか?」

「あ、うん。そういや、マーケットプレースに出したわ……あ!」


 売りに出すために店の奥のストックヤードに全部突っ込んだんだけど、どうなったんだ?

 俺は慌ててストックヤードを確認してみると……。

 

「全部無くなってるううう。これか、まさかこれなのか!」

「はい」


 後ろから感情のこもらないミオの声が響く。


「まあ、もう少し楽しめるかと思ったが、達成してしまったから仕方ねえ」


 カラスが頭にとまる。

 

「じゃあ、カラスの目的も果たされた?」

「んー、それなりに楽しんでくれたんじゃねえか? そうだな。長めのバラエティ番組一本分ってとこか」

「それ……一時凌ぎなんじゃあ……」

「お前はきっかけだ。これであいつらが『可能性』に気が付いてくれればいいんだがな。くええ」

「そ、そうか……」


 ふう。ミッションは一応クリアなのか? かなり納得できないが……。

 

「良一さま、また来ましょう」

「そ、そうだな……このままじゃあ終われねえ」

「そいつは助かるぜ。待ってるぞ。青木」


 カラスがくええと鳴き、止まり木に移動する。

 

 ◆◆◆

 

 いつものアンティーク喫茶店に戻った俺はミオが持ってきてくれたコーヒーを飲みながら今回の起こったことを思い出していた。

 結果的にクリアはできたんだが……まあ、そのことはもういい。

 カラスとミオの目的は一体何だったんだろう? 話が余りに壮大過ぎてよくわからなかった。

 

「良一さま、約束です。この喫茶店について聞きたいことが在れば何でも聞いてください」

 

 ミオがテーブルの前までやって来て、ペコリとお辞儀をする。


「異世界に逝けるのは何でなんだろう?」


 俺は根本的な不思議を尋ねてみることにした。

 

「それは……」

「それは?」

「秘密です」


 えー。そんなあ。

 ずっこけて机に突っ伏す俺。

 

「ん」


 何だか背中にひと肌な暖かさを感じるぞお。なんだかいい匂いまでするし。

 顔を横に向けると、俺の肩に乗ったミオの顔が!

 な、何だとお。ぎゅーしてあげるから誤魔化そうと言ったってそうはいかないぞ。

 

「うああ、耳に息を吹きかけないでえええ」

「息じゃなければいいんですか?」

「ハムハムもおお。お、俺は負けねえぞおお」

「相変わらず面白い反応をしますね」

「む、むうう」


 がばああっと立ち上がるとミオが俺に押し上げられた形になるけど、よろめきもせず凛と佇んでいる。


「そういや、ミオ」

「はい」

「俺と一緒になってくれるの?」

「……あれは言葉のあやです」

「やっぱりそうかよおお」

「ダメですよ。自分の目的を達成してから誘わないと」

「え? それって」


 ミオは何も言わず踵を返すと、カウンターの奥に引っ込んで行った。

 そうだな。俺はまず就職活動を成功させるのだ。明日、面接がある。まずはそれを乗り切って雇ってもらう。

 よおおっし。頑張るぜ。

 

 あれ? 俺さっきまで他の事を考えていた気がする。何だっけ。

 

 ◆◆◆

 

――青木の自宅

 ん、家に帰ってすぐに風呂に入りコーラをぐびぐび飲んで喉があああ。とかやってたらパソコン机の上に見慣れないお手紙を発見した。

 俺の家に似つかわしくないアンティーク調で金縁が施されたそれは、封を切るのも躊躇するほどだ。

 宛先を見てみると、俺の名前だけ記載されていた。

 

 不思議なこともあるもんだなあと最初は思ったんだけど、すぐにこれはミオかマスターが置いていったのだろうと確信する。

 開けてみよう。

 

『良一さま、異世界逝き喫茶について簡単にご説明します』


 と丸文字で記載されたお手紙が出て来たぞ。

 これはミオの字かなあ。見た目とは裏腹にこんな字を書くんだ。可愛いー。

 しかし、書いている内容は全く可愛くなかった……。こんな事実知りたくないほどに……重い、重いぞ。

 

 異世界逝き喫茶は幾千もの世界と繋がっており、理由は様々だが深刻な事態に陥った世界の手助けをしている。

 いつもは世界と世界の狭間に異世界逝き喫茶はあり、俺の住む現実世界と至近距離に位置しているらしい。

 その辺、良くは分からないけど何やら壮大なお仕事をミオとマスターがしているってことだ。

 俺を見かけたのはたまたまで、何だかへこんでいたし異世界へ逝くことを切望していたから、ミオたちが異世界逝き喫茶店に導いてくれた。

 そして、俺の勇敢な活躍を見て一つの可能性を感じたとのこと。それで、俺は何度も異世界逝きを体験できることになったのだった。

 

 詳しくはミオにもう少し聞いてみないと分からないけど、ミオが俺を気に入ってくれたってことだよね?(ミオの手紙には「マスターが」と何度も書かれていたけど)

 

 俺の結論としては、就職活動をしながらこれまで通り異世界逝きをしていこうと思う。そして……ミオと……ぐふふ。

 お色気妄想に気をよくした俺は、残ったコーラを一気飲みする。

 

 むせた……。

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