第38話 その怨霊……差し押さえます
「では、行きましょう。同志」
「あ、この屋敷は?」
「何を言っているんですか。基地は同志の結界で怨念は入ってこれません」
「そ、そうだったね……」
何か俺、すごくね。陰陽師って設定だけなんだけど……。
ともあれ、この基地……じゃねえ、屋敷は安全ということだな。
屋敷を一歩出ると、木々の合間から色とりどりの風船が宙に浮いていてこちらを伺っていた。なんぞあれ?
――ダダダダダダダダ
その時、突如ものすんごい銃声が鳴り響く。音と共に、風船がパンパン割れて、ついでに木の枝もバンバン吹き飛んでいく。
「同志、油断してはなりません」
サブマシンガンを構えたままの
しかしだな、さっきの銃声で耳がキンキンしていて……彼女の声を聞き取ることもしんどい。
「い、いきなり何をしてるんだよ」
「怨念に情けは無用です。接敵即銃撃です」
「……風船に……」
「何を言っているのです。同志。人の姿とはいえ、同志ともあろう方が躊躇するわけはありません!」
な、なんだかすごい人みたいに扱われているけど、俺にはアレ、風船にしか見えないんだよね。人の姿なんてしてたら、撃てるわけねえだろ。
たかが風船を割るのに銃器とかやりすぎだって。
ってえええええ。
「
「上を見てください」
あ。なんか大きなバルーンが浮いてるね。
「それでも、それはやりすぎだってえええ」
「これでも足りませんよ。発射します」
爆発音がして、赤い光と煙と共に砲弾がバルーンへ炸裂した!
「同志、伏せてください」
応える前に
次の瞬間、腹に響く爆発音がドカーンとお!
や、やり過ぎ。やり過ぎだって。相手は風船だぞ。
顔を上げ目をこすり手榴弾が爆発した方を見やると、もちろん風船は跡形もなく吹き飛んでいる。
「同志、怪我は無いですか?」
「あ、うん」
風船からは怪我しないだろうけど、
こ、ここは、何とかして彼女をとめねば。
「
「同志自ら……」
至近距離にある
「オレンジ……」
「コードネーム、オレンジ……同志……」
いや、そういう意味のオレンジじゃあなくてだな。むぎゅっとほら、いや彼女に面と向かって説明できねえ。
なんだか彼女、恍惚とした顔になってるしい。
ほおと熱い吐息が耳にかかるう。
「武器を」
「はい。同志!」
こ、これは……なるほど。これなら風船を倒すにちょうどいい。
◆◆◆
そんなわけで萃香と一緒に屋敷から少し進み木々の中に入る。
おー、いるわいるわ。色とりどりの風船たちが。全く怖くない。むしろ、これに真剣になる方が負けな気がする。
「じゃあ、やるよ」
「同志、お気を付けて」
見送るのかと思いきや、萃香は目をキラキラさせて何かを待っているようだ。はて?
「
「同志、い、いつもの決め台詞は……」
え?
そんなん無いから!
しかし、こんな目で見つめられると言わねえわけにはいかねえ。
「その怨霊……差し押さえます!」
バーンとカッコいいポーズを付け加えてみる。
は、恥ずかしい。
しかし、
「す、素敵です……同志。体が熱く……」
あ、あかん。これは触れたらあかんやつやで。
俺はハアハアしだした
んじゃま、風船をパーンしますか。俺は先程
こいつは人に向けたらダメだからな。
なんて考えながら容赦なく風船に向けて釘を放つ。
パーンといい音が鳴って風船が割れる。
パーン、パーン、パーン。
次々と風船を割っていく俺。
すると、ボスっぽいでっかい風船が空からゆっくりと降りてきた。
いや、大きくても風船は風船なんだよな。
はあーと息を吐き、釘を発射すると大きな風船はあっさりと割れる。
これで終わりかな……。
くるりと踵を返すと萃香が俺の胸に飛び込んできた。
「さ、さすが同志です! もう、熱くて……」
「お、おう」
どんな嗜好なんだよおお。釘打ち機で風船をパーンさせるので大興奮とかちょっとどうなのお。
で、でも、
い、いかんいかん。
ここで調子にのると……。
俺は首をブルブル振って、
「同志、オールグリーンです。怨霊は一旦引いたようです」
「そ、そうか……」
「威力偵察を終えます。帰還しましょう」
「お、おう。手?」
「ダメですか?」
潤んだ目で見ないでえ。
わ、分かったから。俺は
と、とにかく帰還だ。
――基地
屋敷に戻ると待っていたかのように庭の池が映像に変わり、ウサギが「よくやった」と長い耳を捻れさせながら褒めてくれた。
一方、
こ、これ、もうゴールしてもいいよね?
ふらふらーとなって
「同志の念をいただきたいです」
「え、むぐ」
こ、これは魔力供給、魔力供給だ。お、落ち着け。
しかし、俺の本能は勝手に彼女をその場で押し倒してしまう。
「こ、ここでですか?」
口を離した萃香はぽーっとした顔で首をコテンと傾けた。
も、もうたまらん!
「
「同志、もう、限界です……
ペタンと座る萃香をギュッと抱きしめ、今度は俺から彼女の顔へ唇を近づけ……。
「ぬあああ! ミオ、帰る、帰るううう」
俺は腰を抜かしてあらん限りの力を込めて叫ぶのだった。
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