第37話 同志
「えっと、何か急いでる?」
「同志、まずは着替えてください。それではダメです」
「う、うん。ま、待って。俺のズボンに手をかけないでえええ」
「何を恥ずかしがっているんですか……全く……。後ろを向いてますのでとっとと着替えてください」
急がないとマジで脱がされる。着替えろったってどこに服があるんだ?
「同志、何をやってるんですか」
「ぬあああ!」
な、何なんだよお。これ。
それに……この服……何なんでしょうか。迷彩なんですけどおお。
「これ、着るの?
「はい。同志はこれです」
なんだか釈然としないまま、迷彩柄の軍服のような服へ着替える俺。
「では、行きましょう」
「ちょ、待って、まだベルトが」
屋敷の長い廊下を進み、中庭に出る。中庭には鯉が泳いでいそうな広めの池があり、小さな橋と灯篭まで備えていた。
風流でよい。なんて思って池を見つめていたら……。
「遅いぞ、同志青木」
「どええええ」
渋い声がしたかと思うと、水面が急に映像に切り替わったあああ。
これ、本当に古代日本? 何か違う、たぶん違ううう。
落ち着け俺。さっきから驚いてばかりでだが、一旦落ち着かないと。深呼吸をして素数を数えるんだ。
二、三、四、五、七、八……あれ八は違うよな?
ともあれ、間違えたことで落ち着いた。いいぞ、素数。さすが孤独な数字。
「同志青木、指令だ」
俺の落ち着きタイムなどもちろん待ってくれない水面から響く渋い声。
そういや、どんな顔してんのかハッキリみてなかったな。
どれどれ……
「どえええ!」
「同志? どうされました?」
「あ、いや、うん。ウサギが……」
「何かの暗号ですか? まさか、同志閣下からの直接指令!」
頰を紅潮させて興奮しだした
「そのような指令は出ていない。同志青木。マップを出す」
アッサリと否定した渋い声のウサギがなんか言ってる。
そうなのだ。水面に映っていたのは飼育小屋にいるような白いウサギだったのだ。
あ、映像がウサギから地図に切り替わった。これ、ここの周辺地図かな。真ん中にあるのがこの屋敷で……周囲は木々と所々に住居ってところか。
「君に出す指令は、威力偵察だ。周囲の怨霊を抹消し、ここに帰還しろ」
「え……」
それ、威力偵察じゃねえよ。
って突っ込むより前に池の岩がギギギと上へせり出してくる。
「武器だ。使いたまえ。オーバー」
「オーバー……」
つい言葉を返しちまったけど、そうじゃねえ。そうじゃねえんだよお。なんだよこのゲリラ組織みたいなノリは。
俺はお札で悪霊を除霊しにきたんだぞ。平安貴族みたいな服を着て、こうお札を飛ばして……だな。
「どうしたの?
「同志、
「さ、さいでっか……」
え、ええっと。件の岩に近寄ると、それがパカンと開いて中から……。
「お、おおい。これ本気やんけ!」
「サブマシンガン、グレネードランチャー、拳銃、手榴弾ですね」
澄ました顔であっさりと言ってんじゃねえうお。あ、澄ました顔は凛として可愛いです。
「どうしました? 同志?」
「あ、いや。君は可愛いなーと」
「っ! そうやって誰にでも言ってるのでしょう。それより同志。武器の準備を」
「んん?」
ついつい現実逃避して本音が出てしまったが、萃香は多少動揺した程度で、俺へ栞のようなプラスチックの板の束をドサッと手渡してくる。
「ん?」
「口説くのはもういいですから、はやく除霊の念を詰めてください」
「あ、はい」
お札だ。やはりこれでないとな!
ええと、どうやって念とやらを詰めるんだと思い、一枚を手にとって眺めるたら突然ボンヤリとお札が光り、すぐに光は収束して消える。
すると、お札には何やら文様が浮かんでいた。
「さすが同志!はやいです」
「あ、うん」
お札を掴んで見つめるだけなら俺にでも余裕だ。
よおし、じゃんじゃんやるぞ。
「同志、そのまま聞いてください。ご存知の通りこの基地の周囲は敵の勢力圏です」
聞いてねえ、聞いてねえって。最前線ってレベルじゃあねえぞ。
いまそれ以外にも聞きたくない単語が混じっていたような。
「萃香、屋敷の周囲にどれくらい悪霊がいるの?」
「基地にはレーダーがあります。レーダーの反応を見ましょう」
やっぱり基地って言ってるうう。
それに……。
「レーダー……」
何それ……。
「同志、もう終わられたのですか?さすがです」
「うん」
「池を見てください」
池には周辺地図が映っていた。と、そこへ赤い点がポツポツと……。
お、おおい! 真っ赤っ赤やんけえええ。
俺が驚きのために腰を抜かし口をパクパクとしていると萃香がのしっと俺に前から覆いかぶさってきた。
「了解です。同志」
萃香はパクパクから開きっぱなしになっていた俺の口に唇を合わせる。
な、なんなのお。俺が誘った? そして、誘いに乗った
なんかもうよく分からんが、ここで乗らねば俺じゃねえ。
ガバッと逆に華奢な
「完了です。同志。ありがとうございます」
口元を拭い、ビシッと敬礼する萃香であったが、巫女服に激しく似合ってねえ。
肩透かしを食らって呆然とする俺へ萃香が手を差し伸べる。
「あ、ありがとう」
「同志の念はいつもながら、強力過ぎてクラクラします」
「大丈夫?」
「平気です。体に念が満ちてます」
「サーヴァントかよ!」
「何を行っているのですか、同志。同志と私は
そう言って頰を少し赤らめる萃香。
ま、まあいい。彼女とあーんなことやこーんなことができるのなら怨念退治も悪くないんじゃねえか。
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