第24話 ミオの価値観
「ミオ、俺は君を口説こうとか
「はい?」
俺は前置きしてからコーヒーを一口すすり、ミオへ「事実」を伝えることにする。
「ミオは地味な恰好をしていたとしても目を引くんだよ」
「それほど……私は異端なんでしょうか……」
ミオは眉をひそめて、自身の色の違う左右の目に手を当てた。
確かに緑と金色の瞳はとても目立つ。だけど……それだけじゃなくてカラスより尚黒い光に反射しない髪の毛とか、均整のとれたスレンダーな体つきだってそれ単独で人を引き付けるだろう。
一つ一つのパーツが絵画の世界のようなのに、全部合わさるとその破壊力は計り知れないってば。
「ミオは……あああ、言うのが恥ずかしい」
「平気です。どのような苦言であっても怒りませんので、率直に意見を述べていただけますか?」
机に手をつき俺の顔を覗き込んでくるミオの目は真剣そのものだ。
ここで彼女の目を見つめるくらいの度胸があればいいんだけど、無理だ。俺は顔を下に向け彼女と目を合わさぬように呟きを返す。
「ミオは綺麗過ぎるんだよ。全てが奇跡的なまでに神秘的で……怜悧で……神々しささえ感じさせる容姿なんだって。これほどの美少女を俺は見たことがない」
かあああっと頬が熱くなる。いくら美少女に「君は美少女だ」と淡々と述べようったって本人を目の前にしてさらっと言えるわけがねえだろうがあ。
俺が一人悶えているとギシギシと机がきしむ音が響いてくる。
ひょっとして、口説き文句とか思われて怒らせてしまったかな……しかし、顔をあげた俺はミオに吸い込まれそうになってしまった。
だって、ミオが耳まで真っ赤にしてプルプル震えていたんだもの。普段無表情でツンツンしているミオがだぞ。こんな表情を見せられたらギャップでクラクラ来てしまうのは俺だけじゃあるまい。
――ギリギリ……
ん、んん。テーブルがきしむ音がますます大きくなってきている……。ってテーブルの脚がたわんでいるじゃねえか。このままでは、テーブルが壊れる。
「ミオ」
「……はい」
「手、手」
「何ですか、仕方ないですね」
いや、そういうことを言いたいわけじゃあなかったんだけど……ミオの細い指が俺の手に絡んできた。
ま、まあテーブルから手が離れたからよしとしよう。しっかし、彼女はよほど混乱しているんだろうなあ……会話が繋がってないぞ。
「な、何ですか、その顔は?」
「い、いや。(微笑ましくて)可愛いなと思って」
「わ、私を褒めてもポイントはサービスできませんよ!」
「い、痛ぇええ」
「全く、脆弱ですね」
恥ずかしさからか手に力を入れるもんだから、俺の手が握りつぶされそう(物理)になってしまったじゃないか!
なんちゅう膂力を持っているんだよ。ミオの身体能力は見た目通りじゃあないな……。
俺は背筋に寒いものを感じたが、ふといいことを思いついたのだ。さっき、ミオは確か――
「ミオ、みんなが着ているような服に着替えたら視線も減ると思うんだよ」
「良一さま、あからさまに話を逸らそうとしましたね?」
「あ、い、いや……」
口ごもっているとミオはやれやれと言った様子で俺から手を離す。
「良一さま、私は予備の服を三着所持しています。ちゃんと毎日洗濯していますから。下着もです」
下着のことは聞いてないんだけど……やっぱりズレてるってミオ……。
ひょっとしたらミオって異世界のどこか出身なのかもしれないなあ。中世風世界だと同じ服を毎日着ているのが当たり前だから、そう答えたのかもしれない……。
「色は?」
「全部黒です」
「ほう……」
「良一さま、口車に乗せられてしまいましたが、あまりおふざけが過ぎますと……」
「は、はい……気をつけます」
周囲の気温が三度ほど下がった気がした。いや、気のせいじゃあないなこれ。ひょっとしてミオ……現実世界でも魔法を使えたりする?
「良一さま、ここでは魔力が僅かしかありませんので、たいした魔法は使えませんよ?」
だから、なんで考えていることが分かるんだよおお! ちょっと待て、「たいした魔法」が使えないってことは、魔法自体使えるってことじゃないの?
え、ええええ。
「ミ、ミオ……じゃ、じゃあ俺と一緒に服を買いに行かない?」
「またそうやって話を……え? 私とですか? ご迷惑になります」
「い、いや。ミオが嫌じゃなければ」
「良一さまがよろしければ、私は構いません」
「お、おお。そういうことなら、この後でも来週でも……」
他の服も買ってきたらと言おうとしたら、魔法のことでテンパってしまってデートのお誘いをしてしまった……。
ミオが乗って来てくれたからよかったと最初は思ったんだが、もし俺が誘わなかったら彼女、たぶん買いに逝かない気がする。
しっかし目立つのが苦手なのに、あんなメイド服でいつも出歩くとかいろいろおかしいよなミオって。
◆◆◆
ミオはこの後時間があるってことで、さっそくやってまいりました駅前の複合ビル。
ここはちょっとしたショッピングモールになっていて、アパレルショップも多数入っているのだ。俺? 俺はだな、ウニクロとゼーユーを使い分けているおしゃれさんだから、アパレルショップは必要ないのだよ。ふふん。
だが、予想以上にミオは目立つ。子供の「メイドさんだー」という声も聞こえてくるわ、指をさすJKがいるわとなんかもう芸能人が来たみたいな扱いになっている。
これはミオに申し訳ないことをしたかもしれない……。
「良一さま、どちらに向かわれるのですか?」
「あのお店とかどうかな?」
しかし意外にもミオは沈んだ様子がなく、目に入った店を指でさして足取りも軽い。
こういうところは女の子なのかな? ショッピング自体は嫌いじゃなくて、話す相手がいれば注目されることより服を見る魅力の方が勝るのだろう。たぶん。
この後、アパレルショップに入ってからミオは次々と試着を楽しんで、試着室から出てくるたびに俺が彼女の魅力に倒れそうになったのは秘密事項である。
買い物が終わるころにはすっかり日が傾いてきたから、そのままファミレスで食事を取って喫茶店に戻ることとなった。
ミオは楽しんでくれたみたいだから、誘ってよかったよ!
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