第23話 騙されるものかああ
職員室に入り、座席にどかりと座り込んだ俺は大きくため息をつく。すると、さっそく授業の噂を聞きつけたのかピンク髪の美女教師が声をかけてきた。
ほっといてくれたらいいのに……そういうわけにもいかねえか。
俺は苦言を呈される覚悟で彼女へ向き直る。
「ど、どうもです」
「青木せんせ、聞きましたよ!」
そうか、もうすでに俺の悪名は学園中に知れ渡っているということなのね。さっき授業を終えたばかりなのにはやいことで。
「そ、そうですか……」
やる気のない俺の返事とは裏腹に美女教師は目を輝かせて言葉を続ける。
「あの生徒たちを圧倒的な魔力で黙らせたそうじゃないですか! さすが青木せんせです!」
「え……」
セクハラでとんでもないことになるかと思いきや、美女教師は俺を褒めたたえてきた。褒められるのは嫌ではないが、何でこうなるのお。
その時、職員室の扉を叩く音が鳴り響いた。
扉を開けようと立ち上がった俺を美女教師が手で制して俺のかわりに扉を開ける。
どうやらさっきのメガネっ子が俺を訪ねてきたようだ。
「青木先生! あれほどの魔力をどうやって集めたのですか? 手取り足取り教えて欲しいです!」
入って来るなりメガネっ子は両手を前で組んでキラキラと上目遣いで俺を見つめてくるじゃあないか。
何これ、何なのこれええ。ひょっとして、気が付かぬうちにエロゲー世界に迷い込んだのか? 生徒のスカートをめくって女子二人の好感度がダダ上がりするとか有り得ないって!
おかしい、絶対この世界は何かおかしい。
あの音、そうだあの音は聞こえてきただろうか。魔力を集めた時は生徒の目が気になっていたから聞き逃していたかもしれん。
履歴の表示はどうやるんだ? ぐうう。システムメニューはどこだああ。心の中でコマンドを探すのか?
大混乱する俺の肩にそっと手が乗せられた。
誰だと思い思考の海から抜け出して、顔をあげると美女教師の顔がドアップに!
ちょ、ちょっとお、何で頬を紅潮させているの? や、やはりここは……俺の頭に里美との思い出がフィードバックしてくる。
『私の初めてをどっちも差し上げます』
だ、ダメだ。これは嫌な予感しかしねえ。うまくいかなかった授業をもう一回やり直したかったところだけど……。
「高木先生、色目を使うなんて卑怯です。青木先生は私に個人授業をしてくださるんです」
「選ぶのは青木せんせなのよ。ふふふ」
二人が何かエロゲーっちっくなことで言い合っているじゃあねえか。これは確定、確定です。
できますできます。
「ミオ、戻る、戻る!」
◆◆◆
――喫茶店
俺の言葉が終わるとすぐに視界が喫茶店へ切り替わった。
フラフラとした足取りでいつもの席に座り込む俺へミオがコーヒーを持ってきて来てくれた。
「青い顔をしておられますが、大丈夫ですか?」
「う、うん」
「良一さまのお好みの状況ではなかったのですか?」
ミオはツンと唇を尖らせると、奥へと引っ込んで行った。
ん、彼女のあの態度を見る限り……ひょっとしてあれは引っかけとかじゃなくて本当においしい状況だったんじゃないのか?
でないとミオがあんなツンツンした態度を取るわけがない。エロゲ世界の時は吹き出しそうにしていたしさ。
「青木君、戻って来るとは誰かを気遣ってのことかい?」
ぶしつけにマスターから
や、やっぱり、純粋においしい展開だったってわけかよおお。ま、まさか異世界が俺に微笑みかけることなんてないと思っていたから……ご、誤算だ。
逃した魚は大きいぞ。
「その通りですよ。マスター。あはは」
悔しいから空元気を出して、マスターへ応じるが……大きなため息が出そうになる。
「よかったね。ミオ。青木君が」
マスターは慈愛の籠った表情でミオの肩をポンと叩く。
それに対しミオは俺から背を向けてプルプルと背中を震わせている。
まあいいかあ。
俺はミオの態度を見て微笑ましい気持ちになり、今回はこれでよかったのだと思うことにした。
ん、ミオがツカツカとこちらに歩いてくるじゃないか。
テーブルの前まで来た彼女はわざとらしく艶やかな黒髪をかきあげ、ぶしつけに口を開く。
「良一さま、今回はいつもと様相が異なりましたが、何か心境の変化でもおありだったのですか?」
「あ、う、うん。現実世界でこのままコンビニバイトをしながら異世界永住ってのも悔しいからさ、就職活動をもう一度やってみようと思ってるんだ」
「なるほど。それで教師だったわけですね」
「うん、いろんな職業を体験してみて俺に合うのをって思ったけど、就職活動は始めるつもりだよ」
「心境の変化ってわけですね」
ミオが何やら考え込むように顎に手を当てる。何か変なことを言ったのかなあ。
現実世界、異世界どちらにしても変わらないということが分かった俺は、正直異世界に行くべきか、現実世界に留まるべきか迷っている。
一つだけ言えることは、現実世界がつまらないから、うまくいかないから逃げるように異世界で永住するってのはやりたくない。
「ところで、ミオ。外に出るときはいつもそのメイド服なの?」
答えが出ていない異世界へ行くかどうかのことをこれ以上突っ込まれても困る俺は、話題を変えるべくミオにそう問いかけた。
「はい。そうですが?」
「ミオ、君はみんなから見られるのを気にしていたよね?」
「ええ。私はこんな異様な容姿ですし……」
ん、何だか勘違いしてないか? ミオ。
彼女の容姿は決して悪いものではない。むしろ、理想的なパーツを集めて作りましたといっても過言ではないほど整い過ぎている。
つまり……絶世の美少女と言ってもいい。いくらなんでも、この見た目で自分が可愛くないとか思ってないだろうな……。
気になった俺はミオへ更に問いかけることにしたのだった。
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