第22話 青木先生
「先生、おはようございまーす!」
「おはようございます!」
ミオが消えて時間が動き始めると、学校の門の前で立つ俺へ制服姿の男女が次々に挨拶をしてくる。
魔法学園だと言うのに、高校のブレザーみたいな制服を男女とも着ていたのが印象的だ。
俺はどうしようと迷いながら、乾いた笑みを浮かべ生徒たちに挨拶を返していた。
しばらくそうしていると、登校時間が終わりを迎え、やって来る生徒たちの姿は見えなくなる。
もう帰ろっかなと重い気持ちで踵を返し校舎へトボトボと歩いていると、手を振るピンク色の髪をした美女の姿が目に入る。
こ、この美女は……俺は彼女のある場所に惹きつけられてしまった。
それは、キリリとした目元やぷるんぷるんの唇とかではない。
なんと彼女は濃紺のスーツを来ていて、下はタイトスカートだったのだ。そ、それがだな……理想的なぱつんぱつん具合なんだよおお。もう、俺の心は完全に鷲掴みにされてしまった。
「青木せんせ、朝の門番お疲れ様です」
「ひゃい!」
突然話かけられたものだから、お、思わず変な声が出てしまった……。
というのは、凝視してるのがバレたと思いドキリとしたからだ。
どうやらそうではなかったようで良かったぜ……俺は心の中で胸をなでおろすが、表面上は平静を取り繕い、校舎へ向かう。
俺の足取りはさっきとは真逆に軽く、彼女のお尻を追いながら軽やかなステップであった。
なあに、まだ魔法を教えると決まった訳じゃあ無いじゃないかー。
魔法以外ならどの教科でも任せろってんだ。だって、俺が今回選んだチートは授業に必要な知識なのだから。
◆◆◆
なあんて思っていた時もありました。ありましたとも。
俺は今、冷や汗をかきながら黒板の前に立っている。しかし、この学園……ファンタジーな学園のはずなのに、何処までも現実世界の高校みたいだ。教室までそっくりだよなあ。
あははは。
「先生、授業をはじめないんですか?」
スカートの長い真面目そうなメガネ女子が現実逃避している俺を引き戻した。
し、仕方ない。やるしかねえ。
「じゃあ、魔法理論について授業をはじめます。十五ページを開いてー」
俺の言葉に教室にいる生徒三十人が一斉に教科書を開く。す、すげえ。こんな大勢の前で話をするなんて初めての体験だ。
そう思うと途端に緊張してきた……。
俺はぎこちない仕草で黒板に字を書いていく……。内容は魔力が魔法にどうやって変換されるかの座学だな。
「魔力とは魔法の元になるエネルギーである。魔力を自身の体内を使い外へ向けて力の質を変えたものが魔法だ」
授業を続けているうちにだんだん慣れてきて、チート知識を持っている俺は饒舌に魔法理論を語っていく。
し、しかし……あくびをし出す生徒が目について来た。注意すべきか迷うけど、俺もあんなんだったし……自分のことを思い出すと強くは言えないなあ。
そもそも、眠くなるのは授業が詰まらないからだ。つまり……俺自身の問題か……勉強になるぜ。教える立場になって初めて分かる。
なんて悟りを開いていたら、またしてもあのメガネっ子が発言してきた。
「先生、そろそろ魔法実技をされないのですか?」
メガネっ子は顔をあげ、黒板の上あたりに目をやる。
釣られて俺も彼女の目線の方向を見てみると、壁にかかった時計が目に入った。ああああ、あと半分くらいで授業が終わる。
このまま逃げ切りたいところだけど……メガネっ子に指摘されてしまったからにはやるしかねえ。だってさ、この時間の科目は「魔法実技」だからだ!
「そうだな、じゃあ、机を端に寄せてくれないかな。寄せたら真ん中にみんなで輪を作って座ってくれ」
「はあい」
◆◆◆
俺を囲む生徒たちの目は全て俺へ集中している気がする。
大きく息を吸い込み、周囲を見渡すと五人ほどの女子生徒が後ろで立ったままだった。彼女らのそばには男子生徒が三名ほど……。
見た感じやんちゃそうな生徒たちなんで、「座るのだりい」とかとでも思ってんだろ。
「今日は魔法を使う前の実技を行う。先生が見本を見せるからよおく見ておくように」
ぬううう。後ろの奴ら、あくびをして小声で何か囁きあっているじゃねえか。
お、俺が失敗した姿を笑うつもりだな。ぐ、ぐうう。ここは成功させねば。
これからやることは初歩の初歩だ。魔力を体内に集め、魔法を使う前段階に持っていくことだけ。魔法は発動させない。
集中だ。集中しろ俺!
「それでは、始めます」
目を閉じて、お腹のあたりに意識を集中させる。暴走しないよう、ゆっくりとゆっくりとだ……。
むうう、見られていると思うと集中が乱れるな。それならいっそ目を開いてやってみるか。
目を開くと、やはり後ろでくっちゃべっているやんちゃボーイとガールが目に付く。それにしても……あの女子生徒たち、なんてけしからんスカートの丈をしているんだ。
あのままペロンとめくってやろうか!
「せ、先生、すごい魔力ですね!」
メガネっ子が感嘆したような声をあげる。
あ、ああああ。俺の怒りの感情によって魔力を集めすぎてしまった。
なんと、教室に外から魔力が集まってきてしまい、魔力の奔流が俺へと流れ込んできている。
「きゃああああ!」
そして、立っていたやんちゃガールたちの悲鳴。
そうなのだ、あまりの魔力の流れる勢いで強風が吹き、彼女らの短いスカートが全部まくり上げられてしまったのだ!
悲鳴に合わせて、彼女らに他の生徒たちの目線が集中し……。や、やべえなこれ……。さっき考えていたことがそのまま実践されてしまった……。
ど、どうしよう。これ。
「じゅ、授業はこれで終わります。後は実技の練習をしておくように」
そのまま教室から出ようとした時に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴るのだった。
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