第18話 戦闘だ!俺のチートを見せてやる
冒険者ギルドでゴブリン討伐のクエストを受領して、アイシャと共に街道沿いの草原に向かったみゅー。
彼女の職業がスカウトだったから、ゴブリンの捜索は彼女に任せることにした。スカウトは探索や罠系のスキルが充実しているのだ。
アイシャはねずみのように鼻をヒクヒクさせると、何かに気が付いた様子でこちらに向き直った。
「あっちに気配がするみゅー」
「おお、分かるの?」
「勘だけど、ビンビンみゅー」
ビンビンなのか! 俺は大人だから、アイシャと違ってその言葉に違うものを想像してしまうよ。
大人になるって……アンニュイだ……。
とか
俺は彼女に置いていかれまいと駆け足で追いかける。
「アイシャ……むぐう」
息を切らせながらアイシャに様子を伺おうとしたら、後ろから口を防がれてそのまま押し倒されてしまった。
辛うじて手をつくことができたから、鼻からまともに地面へ突っ込むことはなかったけど、なんなんだ一体!
っつ! 耳をハムハムされた。
「アイシャ」
「静かにするみゅー」
耳元で囁くものだからくすぐったくて仕方ねえ。
アイシャへ愚痴ろうと顔をあげたら、両手で顔を覆われて上半身で頭を押さえつけられてしまった。
こ、これが幼女じゃなく美女ならどれだけ嬉しかったか! ぐうう、残念だ。いや、そんな桃色気分でいたらいけねえ。アイシャが突然俺の口をふさいできたってことは……前方に何かいるってことだよな。
「オーガがいるみゅー」
お目当てのゴブリンじゃなかったってことか。
「……」
状況を聞こうにも口が開かねえ。
「オーガはランクDのモンスターみゅー。幸い単独だからこのまま隠れてやり過ごすみゅ。ひゃん!」
「す、すまない。そんなつもりじゃあ」
「いきなりお尻を……ちょっとビックリしたみゅ」
なんとかして話をしようと手をバタつかせていただけなんだ。決してワザとじゃあない。
俺はアイシャの耳元へ顔を寄せて囁く。
「一度、オーガと戦ってみたいと思ってるんだ。アイシャはここで隠れていてくれ」
「本気かみゅー」
「ああ、万が一、俺がやられた時は逃げてくれ」
スカウトならば、隠遁しつつ脱出することも簡単だろうから。
「その目……唯のえっちい男の子と思っていたけど……勝算はあるの?」
「ああ」
俺は自分の拳同士を打ち付け、コクリと首を縦に振る。
◆◆◆
みゅーを置いて森に入るとすぐに何か大きな者の気配を感じ取った。
あれがオーガかな、まだこちらに気が付いていないようだけど……で、でかいな。オーガは身長三メートルほどある筋骨隆々とした男の姿をしている。
腰には動物の毛皮を巻いていて、手に俺の胴体くらいの太さがあるこん棒を持ち肩に担いでいた。あれほど大きな丸太を片手で振り回すのかよ……そんな膂力で振るったアレが当たれば俺の頭は潰れたザクロのようになることは確実だ。
俺は深く息を吸い、吐く。何度かそうしていると次第に気分が落ち着いてきた。
巨大な人型生物に対する恐怖心はある。しかし、野盗に会った時のように恐怖で動けなくなるわけではなかった。
よし! これなら戦えるぜ。
恐れに打ち勝て! 俺は自分の心に活を入れ、あのたわわに実ったメロンを頭の中に思い浮かべる。
――ああああ、気持ちいいレスうう。あの時の記憶が蘇り、俺の心がピンク色に支配されていく……。
「メロン流奥義! 夢想の境地!」
俺は気合の籠った叫び声をあげると猛然とオーガへ向けて駆けだす。
俺の声に気が付いたオーガも腹の底に響くような咆哮をあげ丸太のようなこん棒を振り上げた。
しかし、格闘術のスキル効果のおかげで俺の身体は勝手に沈み込むとこん棒を頭の上でやり過ごし、奴のどてっ腹へ掌底を撃ち込んだ!
ズウンという鈍い音と共に、確かにオーガの体内に何かが通った感触が手のひらに伝わってくる。
そのまま俺は休むことなく更に拳を撃ち込もうとするが、オーガは泡を吹いて後ろ向きへ倒れ伏してしまった。
「た、倒したのか……」
身動き一つしないオーガを見下ろしながら、俺は手のひらを握りしめた。
「リョウイチ! すごいみゅー!」
「アイシャ、いたのか」
「うん、ずっと後ろで見ていたみゅー。リョウイチ強い! 素敵みゅ!」
「あはは」
感激したアイシャが俺の腰に勢いよく抱き着いてきた。チートスキルで倒しただけとはいえ、こうも手放しに褒められると悪い気はしない。
こういう気持ちだったんだなあ。異世界転移したチート主人公の気持ちって。そら、天狗になるよ。
「リョウイチ、後はボクがやるから休んでていいみゅ」
「お、おう。ありがとう」
何をするのか分からないけど、さっきの戦闘の興奮が解けると膝がガクガクしてきたんだよ。
正直立っているのも辛い。俺はアイシャのお言葉に甘えて、ガクリとその場で膝を落とす。
ルンルン気分でオーガの元へスキップを踏んでいったアイシャは、オーガに馬乗りになると腰の大振りなナイフを抜き放つ。
え、えええ、まさか!
そのまさかでしたー。彼女は全く躊躇せずオーガに向けてナイフを振り下ろし……。
「うああああ。ミオ、戻る、戻る!」
◆◆◆
あああああ、あんなロリロリした犬耳少女がああ、まさかあんな……う、うう。吐きそうだ。
喫茶店に戻った俺はテーブルに突っ伏して先ほどの光景が頭から離れないでいた。
「コーヒーをお持ちしました」
ミオは無表情を装っているが、口元がプルプルと震えているのは分かっている。
だって、いきなりあんな……。
「解体ショーはお気に召しませんでしたか?」
「い、言わないでええ」
さらば異世界ファンタジー世界。あれは無理だ……人型のモンスターを躊躇なく……う、また気分が悪くなってきた……。
俺つええは気持ちがいいんだけど、その後がダメだ。生きていくために必要なことなんだろうけど、現代で育った俺には到底できそうもない。
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