第2話 大巫女と三日月宗近

 翌朝、沙玖羅さくらは大巫女に言われたとおりに冴玖さくたち3兄弟を連れてきた。

「ここって…大社おおやしろ?」

「あの伝説の大巫女様が仕えるっていうあの?」

 古くも立派に建っている社に声を失った。

 <ここが…伝説の大巫女様のお膝元‼︎>

 すると、背中から声がした。

「わしが伝説とまでうたわれるようになるとはな」

 瞬間、3兄弟の背筋にゾクッとするような感覚を覚えさせるほどの氣を纏った老婆が背後にいた。

「あなたが…」

「大巫女…様ですか?」

「あぁ。いかにも、わしが大社の巫女・ひいらぎじゃ。」

 そのまなこにはまだ微かにいたずら心を匂わせ、意志の強い光を帯びていた。だが、冴玖にはその圧によるものではないもっと違うナニカに体がすくんでしまっていた。

 <何…この感じ…?背後を取られたのに気づかなかった?何か…とてつもなくヤバイ…>

「うん?あぁ。そなた良い感覚を持っておるの。わしの力に気づいたのか」

 <足が動かない…>

 スーッと冴玖との距離を詰め、その頬に手を置いた。

「歴代きっての力を身に宿しておるな…。」<…ほぅ、神がかりになっても自我を保つのか…それどころか自分の中に入っている神を見ることができるのか…>

 <アレ…?この人はなんで…>

「望まずしてそこまでの力を手にしたのか」

「あなたはなぜ…そ、んぐ」

 そんなに悲しそうな目をしてるの?その言葉を遮るように頬に当てていた手を口の前に持っていった。それ以上言ってはいけないと咎める母のような眼差しで。

「お前はよく見ているね。だからこそ、気づくことができるのかね。」

「‼︎」

 <あぁ…この人は…>

「私の抱えているモノが見えますか?」

「痛いほどにね。」

 その言葉を最後に柊は冴玖に背を向けた。

「冴玖、ついといで」

「はい」

 *

「さて、長ったらしくなってしまいすまないな。此度、そなたを呼んだのは他でもない。冴玖。お前に話があった。」

 ただの話ではないというのがひしひしと伝わってくる。だが、悪いことだというのだけがわかった。

「なんでございますか?」

「お前の力は強大すぎる。故にこの場所では収まりきらん。」

「?つまり、ココを出て行けとおっしゃるのですか」

 しかし静かに首を振った。

「違う。お前には知ってもらわねばならない。己の力がどのようなものなのか」

「…」

「わしも…お前と同じ、能力のある巫女だった。だが、運命さだめからお前を庇ってやることはできん。」

 <わたしは…>

「わたしの運命はわたしが決める。大巫女様でも、それは譲れないです。」

「いいだろう。では最初の道だけは作ろうか。」

 *

 外では聖斗が落ち着いていなかった。

「遅い…冴玖はどうしているんだ」

「大巫女様とともにいるのだから大丈夫よ」

 <とは言ったものの…冴玖…>

「ねぇさん…」

 *

「劔よ、我が前に現せ」

 <一体どこから…>

 柊の一声で冴玖との間に一つの劔が現れた。

「これは…」

三日月宗近みかづきむねちか。そして…」

 と立ち上がり、後ろの床の間に立てかけてあった刀を手にした。

「妖刀・村正むらまさだ。

 お前にこのどちらかを譲りたい。」

「えっ…」

 絶句した。それもそうだろう、なんといっても真剣だったのだから。

「その年にして大人を上回るほどの強さ。譲り渡しても問題なかろう。」

 淡々と話す柊とは真逆に脳内パニックに陥っていた。

 <待ってこれってマジな真剣だよね?わたし真剣なんて扱ったことないよ〜!>

 側から見たら頭のおかしい百面相の子にしか見えない様になり、さすがの柊もだんだんまずかったかなと思いだす勢いだった。

 <?何か感じる…>

 不意に百面相をやめた冴玖はスッと三日月宗近に手を伸ばした。

[冴玖…冴玖…]

 <呼んでる…?いや?>

 夢うつつのようなその様子に違和感を感じ、柊は制止した。

「冴玖‼︎」

 しかし、制止も虚しく手は刀に触れた。冴玖の指先が刀のつかに触れたとき、辺りに白い光が溢れた。

「キャァァ‼︎‼︎」

 とっさに目を瞑る。冴玖の記憶があるのはこの瞬間までだった。

 *

[冴玖…冴玖…]

 <誰…わたしを呼ぶのは…>

 ゆっくりと目を開く。しばらくすると辺りの明るさにぼんやりとした頭は回転を始める。

「ん…?わたし…気を失って…って、ここ…どこ?」

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