第35話  復興住宅

 次の日の現場は朝礼会場の近くだった。しかし必要な道具もユニック車もトイレカーも萱浜の仮置き場にあるので、一旦そちらへ行ってから戻るような形になる。これによって朝から一時間程度のロスが生じる。

 一般企業ならこんな生ぬるいことは、到底ありえないことだった。


 その現場は大きな商業エリアの近くでもあった。広い駐車場を囲むようにフレスコ、ABCマート、ユニクロ、ツルハ、ケーズデンキの他、ゲームセンターやリサイクルショップなどもある。とはいいながら、リサイクルショップだけは入口が閉鎖され、廃業しているようだった。

 近くにはヤマダ電機やカインズホームやファションしまむら、パチンコ店も二店舗ある。


 南相馬では駅前を除くと、このエリアが一二を争う栄えた場所と言えた。辛うじてイオンタウン周辺のみ、それに匹敵しているとかをじたのだろう。


 フレスコから道を挟んだ向かい側には、なにやら背の低いマンションのようなものが、いくつも建設中だった。

「南相馬でマンションなんて珍しいですね」

 俺は移動車を運転しながら助手席の橋田さんに話しかけた。

「そう言えばヨークベニマルの近くでも同じようなマンションを建てていましたよ」

 橋田さんも相槌をうちながら補足した。

 ヨークベニマルは野馬追公園の近くの店舗のことである。

「南相馬はマンションラッシュなんですかね」

 俺はノー天気にそんなことをほざいていた。

「バカ野郎。南相馬でマンションラッシュなんかあるわけないだろう。あれは復興住宅なんだよ」

 俺達二人の他愛もないお喋りを呆れながら聞いていた班長の新田さんが、後部座席から割り込んできた。

「えっ、復興住宅? 震災からもうすぐ五年になるのに今更ですか?」

 俺がそう言ったのは、そういうのはもうとっくにできているものと勝手に思い込んでいたからである。

「あれだけ大きな災害なんだから何でも直ぐにという訳にはいかないのさ」

「それにしてもなんか遅いような……」

「何言ってんだよ。除染だって現に俺達が今、まだやっている最中だろうが」

 そう言われると確かにその通りで、俺は何も反論できなかった。

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