第33話 親殺しの帰還
週明けの朝俺は、宿舎の食堂で橋田さんといつもの朝食を取っていた。
橋田さんは岡山出身とのことで俺とは出身地も近い上に除染も土木もほとんど経験がないということでお互いに親近感を覚え、いつしか意気投合をしていたのである。
二人が同じテーブルで向い合わせに座って食事をしていると、親殺しの浜田さんが橋田さんの隣にやってきた。
いや親殺しというのは言い過ぎで、実際は正田さんが勝手に親が死んだことにしてJV に報告しただけのことである。
「浜田さん、今日からですか?」
浜田さんの入場が遅れた事情を知っていた俺は、なんのてらいもなくそう訊ねていた。
「新規入場者教育が月曜しかないので、一週間も遅れてしまったよ」
本来なら翌日からでも入場したかったのだろうが、新規入場者教育が一週間に一度の月曜しかなかったことと、さすがに親が死んですぐにという訳にはいかなかったというのが実状なのだろう。
一週間ぶりの浜田さんは変になれなれしかった。ただその時の俺は特にそういう意識もなく、これから一緒に仕事をする同僚として親しみを込めて浜田さんを見ていた。
浜田さんと橋田さんは、その時を境に急に親しくなっていた。後から聞いた話では、浜田さんが橋田さんを誘って自分の部屋でお酒を酌み交わすこともあったという。
一方俺はというと、人との交わりには積極的になれず、相変わらず自室で一人酒を決め込んでいた。
昔はそんなことはなかったのだが……。しかし人生に失敗をすると、人とのかかわり合いが煩わしく感じられるようになっていて、誰かと一緒に酒を飲む気にはなれなかったのである。
ある意味、人間関係に臆病になっていたのかもしれない。
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