第25話 除染作業初日 5
新田班のメンバーが帰る準備をして、朝礼会場で綿田班の帰還を待っていると、正田さんが慌てた様子で飛び込んできた。
「ここにいるやつ、今すぐ竹箒を持って付いてきてくれ」
何があったのか事情は全く分からない。それでも正田さんの切迫した様子に、ただ事ではないということは予測できた。
俺達はそれぞれ車に分乗して正田さんの後を付いていく。それは県道260号線沿いの一軒の家の前だった。
「みんなでキャタの跡を掃いて消してくれ」
正田さんがそう言って指した先は、その家の隣にある農地前の道路である。
すでに暗くなっているので車のライトで照らすと、道路にくっきりとキャタピラーの跡が付いていた。
その現場の隣は、どう見ても新築の家のようだった。家の玄関付近では四十代位の男性が、腕を組んで仁王立ちになっている。
今日綿田班が、除染作業をした現場らしい。クローラー式の草刈り機のキャタピラーの跡なのだろう。道路にこれだけはっきりとしたキャタの跡をつければクレームにならないはずがない。ど素人の俺でもそう思う。
この中に綿田班がいないのは恐らく綿田班の作業が終了した後、帰路についている途中でクレームが入ったために入れ違いになったからなのだろう。
状況を把握した俺達は、竹箒で必死になって道路を掃いた。しかしキャタの跡はいっこうにとれない。表面の土や泥は既にとれているのだが、アスファルトに染み込んだ跡は、水でも流さない限りとれるものではない。
その直ぐ後に一次会社である野田建設の河田さんも駆け付けてきた。そして新築の家の男性に何やら謝罪をしている。
「お前ら除染でこんないい加減なことをしていて良いと思っているのか。市の担当者は北田だろうが。今ここに呼んでやろうか?」
そんな怒声が俺達にも聞こえてきた。確かに、誰でも自分の家のすぐ横を汚され、そのままにされたら腹が立つだろう。
そうこうしている内にJV の担当者も現れた。河田さんと二人でその家の男性に平身低頭している。
訳の分からない俺達は、ただただ消えないキャタ跡を、竹箒で無闇に擦ることしかできない。
暫くして撤収の指示があった。漸くその男性の怒りを納めることができたのだろう。既に五時半を回っていた。
「この分だと明日はシュウチカイだな」
斉田さんが呟いく。
「シュウチカイって?」
「事故やトラブルや何らかの問題があった時に、同じことを繰り返さないように全員に周知する会のことだよ。別名恥ずかしい方の羞恥会とも言うのだけどね」
「仕事はどうなるのですか?」
「周知会だけで仕事がない場合は無給になる可能性があるね。仕事があればその分の賃金は支払われるけど、基本周知会自体は無給になるんだ」
自分には関係ないところで起こったことで無給になると聞いて、俺は何だか釈然としない気分になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます