第2話
あの後は、特に何事もなく学校についた。
人の波に従い歩いていき、 俺のクラスである1ーF組に向かう。
俺の通う学校は周りの学校より変だ。断言できる。
1年生のクラスはAからFの6組でそれぞれ分担されている。
A、B組は通称進学クラスで、名前の通り進学目的だがその中でも上の大学などに行く人が中心だ。
C、D、E組は通称普通クラスで主に高卒の人や、進学クラスよりかランクの低い大学に受ける人達である。
この辺りまではほかの学校にもあった事を中学校時代の学校説明会でも知っている。これに俺たちF組が加わるのだ。更に厄介なのが、2、3年生になると医療科という謎のG組も存在してしまう為、余計ややこしくなってくるのだ。
・・・何て学校の教育方針等について考えてたらいつの間にかF組に着いていた。廊下にはたむろしてバカ話に花を咲かせる男女。一体どこからそんなに会話が思いつくのか。そう疑問に思いながら俺は無言で後ろドアから教室に入り特等席である1番窓際の1番後ろに座る。この席は良い。通常の授業では生徒は後ろを振り向かないし、影の薄さから先生にも中々見られない。
マジ最強。
というベストポジションにいる。
いや、学校のベスポジと言えば昼の時間に必ず行く、校舎裏か。
校舎裏にはいつも誰も居ず、草むらに少し木が生えているだけなのだが、そこの木陰に寝っ転がり昼寝をするのは最高なのだ。
「あーまーのー君!」
不意に後ろから声が聞こえる。振り返ってみると、そこにはある女性がいた。
「何ですか、平塚先輩」
彼女の名前は平塚真奈美<ひらつかまなみ>。彼女は2年生で剣道部に所属しており、部長の役目をきたしている。元気で笑顔を切らさない人で信頼も厚い。男子の中では人気らしい。ハッキリ言って俺と正反対の性格の持ち主がなぜ話かけてくるのかというと。
「ちょっとお願いが「嫌です」もう言わせもしないのかーい」
「どうせ、剣道部入部して!でしょ」
そう、俺がいつも木刀を添えているためかしつこく剣道部に勧誘してくるのだ。
「ダメだよなー・・・ならせめて部活を見学してみない?」
「見学?」
「そ!ただ見てくれるだけでいいんだ。それでつまらなくなったら帰って良し!」
それじゃあ一瞬で帰ってやろうか・・・そう思ったが、ただ断る筋合いが見つからない。帰っても何もすることが無いし、問いただされるとコチラが更に不利になる。俺は渋々
「見るだけですよ」
と了承した。
「はーい!皆集合してー!」
その言葉とともに部員の人達は平塚先輩の周りへと集まった。
「今回からこの部の指導兼見守り役として来ました、天野優人君でーす!」
という平塚先輩の言葉に小さなざわめきが起こる。俺は平塚先輩の肩を引いて小声で
「聞いてませんよ。俺は人の前に立つのは苦手です帰っていいですか」
と聞くと
「まあまあ落ち着いて。自己紹介を1人1人、なんて言ったらきりがないでしょ?」
と返される。それはそうだけどな・・・。
「あくまでも俺はいないと考えていつも通りに」
「りょーかい♪・・・はいじゃあ皆ー始めるよー」
合図と共に部活動が始まる。俺は体育館の隅に座り見ていることにする。部員達は掛け声と共に素振りをしており、それを見ているとなかなかに伸びしろががある人もちらほらいる。だが俺はある一人の部員に自然と目がいってしまう。その部員はどうやら上手く型が決まってなく、胴の打ち方に疑問を持っているらしい。1度素振りをしてみては竹刀を見て首を傾げ、また素振りをして・・・を繰り返している。見てられなくなっ(てしまっ)た俺は、スッと立ち上がるとその部員の方へ歩いていく。俺は掛け声に負けない様に大きな声で言葉を投げかける
「ねぇ君」
「え?あ、はい!」
一瞬、「誰だよ、お前」見たいな目をされたがすぐに直し、パッとこちらを向く。
「胴の打ち方が分からないんでしょ?ちょっと何回か素振りしてみて」
「は、はぁ・・・」
彼女はいつも通りに素振りをする。
「じゃあ次は少し腰を下ろして肘をもう少し上に上げてやってみて」
「腰を下ろして肘を上げる・・・あっ」
素振りをした途端何かに気づいた様だ。そう、彼女はあまり腰に力が入っていなかったため竹刀の振りにタイムラグが発生していたのだ。
「あ、ありがとうございます!」
「い、いやいや、一応見てるだけってのもつまんなかっただけだから・・・」
頭を必死に下げお辞儀をされる。人の好意をこうも真っ直ぐ受け止めるのはなかなか無いためなんだかむず痒い。
部活動に首を突っ込むのもいけないと思い、さっきと同じポジションに付いて、ボーッとしていることにしよう。
そうこうしているとそろそろチャイムがなる時間。
「はーい!じゃあ皆片付け始めてー!」
平塚先輩の号令で皆がそれぞれ動き始める。俺はそっと平塚さんに近づく。
「あの、平塚先輩」
「ん?なぁに?」
「試合して下さい。まだ時間ありますよね?」
「君からそんなお誘いが来るとはねぇ。入部する気になった?」
流石にあんな熱心なのを見ていたら嫌でも疼いてくる。
「いいえ、ただ見ているだけじゃつまらなかったので」
ホントはそれだけではないけど
「そっか・・・うん!じゃあやろうか!一応防具は着てね」
「はい。あと、一つだけ・・・」
「何かな?」
「平塚先輩はいつも通りでいいですけど自分は剣道なんてしたことないんで型が違うかもしれませんがお願いします」
「分かった!」
・
・
・
・
「「お願いします」」
礼をしてお互い近づき竹刀を引き抜く。辺りは静寂となり、微かに息を呑む音が聞こえる。俺が半歩後ろに下がった途端、
「ぜやぁぁぁ!」
人では再現のしようがない速さでこちらに向かってきて、鋭い突きを放ってくる。
「ふっ!」
俺はそれを躱す。そして横にいるであろう彼女を見ようとした時、既にそこには誰も居なく
「だぁぁぁぁ!」
俺の背後でもう一度突きを放とうとしている。それを今度は俺が竹刀を使いいなす。常人では出すことの出来ない速さ。それを平塚先輩はいとも容易く行う。そう、それこそがアビリティなのだ。
『瞬速』
これが彼女のアビリティだ。その名の通り物凄い速く動くことが出来る。瞬発性を必要とする剣道にはもってこいのアビリティだ。その速さで来られたらまず勝ち目はない。否。俺は違う。
俺はその速さより速い人を知っている。故に俺は攻撃を全て避けることが可能だ。そろそろ長引かせるのもあれか。っし終わらすか。
「ふっ!」
「っ!?・・・ま、参りました」
俺は素早く間合いに入り込み少し強めに小手を放つ。その瞬間平塚先輩の手に持っていた竹刀が宙を舞い、落ちる。
「強いなぁ・・・驚いちゃったよ~」
瞬速は体に負担をかけるのか、今のでかなり汗をかいていた。
「先輩も、なかなか速かったですよ」
「掠りもしなかったけどねー」
少々悔しそうに笑う。
「そんで、アドバイス何ですけど・・・先輩は瞬速だけあって柔軟性には長けているんですがね・・・『速い』を一括りにまとめすぎじゃないですか?」
「それは・・・どういう事?」
「答えは教えません。俺はあくまで問いを提供して答え合わせをするだけ。まぁその答えが自分にあっていないと感じたり、今のままでも良いのなら、アドバイスは無視してください」
「そうか・・・ありがとうね。じっくり考えさせてもらうよ。っともうこんな時間か、急いで片付けないと!」
その声と共に先程までの戦いを見て唖然としていた人達がハッと正気に戻り、片付けを始める。
「んじゃあ俺は帰ります。もう居ても意味ないと思うので」
「うん、今日はありがとう。また明日もお願いします!」
「えー・・・やっぱり来なきゃダメですか?」
「当たり前♪」
「はぁ・・・」
人と話すのはどうしてこんなにも難しいのだろうか。つくづくそう思う。まぁそんな事言ったら昔なんて人を見るのも見られるのも近くにいるのもダメだったんだよな。成長成長。
**数日後**
学校のチャイムが高々と鳴り響き、その音は生徒に一時の幸福をもたらす。
先生が授業を終わらせ教室を出た途端、人々の話し声が聞こえてくる。今は丁度4時間目が終了し、休み時間となる。俺はそそくさと教室から出ていき、いつもの場所に向かう。チャイムが鳴ってから教室を出るまでの時間、およそ十秒・・・。
俺はいつもの様に慌ただしい廊下を歩いて、校舎裏に行き弁当を食べる。今日は雲一つない快晴だ。こんな時は昼寝に限る。最近寝不足だしな。うとうとし始めたそんな時。2人の生命体を確認。チラリと見ると、男女だった。
ここで質問です。貴方は校舎裏にいます。そしたら急に男と女が来て、向かい合っていたらどうしますか?
答えは簡単。寝る。です。生憎俺は空気になる事が得意。と言うより身についていた。そんな訳ですぐ目の前で昼寝をしていてもそいつらは気づくはずもない。別に盗み聞きじゃないぞ。気付かないのが悪いんだから。
「ーーーーーーー!」
聞こえはしなかったが男の人がなんか言って頭を下げていた。その様子に女の人は慌てている様子。何だ、宗教の勧誘か?そりゃ人前で勧誘はしないか。納得。
「ーーーーーーーーー」
すると、女の人が1度小さくお辞儀をすると、すぐにその場から立ち去ってしまった。一体どんな宗教なのか、俺気になる。男の人も余程悔しかったのかその場で膝まづいていた。まぁ・・・ドンマイ。
───キーンコーンカーンコーン・・・
それから暫くして、地獄の予兆であるチャイムがなる。ムクリと立ち上がっあ俺は弁当箱を持ち上げると、普通に教室に戻った。
───キーンコーンカーンコーン
2度目の幸福。最後のHRを終わらせ、昼休み同様、みんなの声が上がる。俺は準備を終わらせ、教室を出る。すると、廊下に居たのは
「天野君ー」
平塚先輩だった。俺は少し周りを見る。すると、主に男子からの視線が痛い。何故なら平塚さんは学校の美女の1人として男子からはとても人気だからである。なぜ知っているかって?・・・ボッチの情報力舐めんな。俺は軽く会釈して、近づく。
「今日の部活なんだけど、明日大会だから調整日って事で無しになったんだー。だから今日は来なくてもオーケーだよー?」
ふむ、明日から大会か。一応少しは教えたから結果は気になる。が、
「んで、本題は?」
あくまで大会の話はオマケで何か他にある・・・はず。先輩は少しだけ真面目な表情をすると
「優人君がこの前教えてくれた、『速さ』って奴、今練習中だから、完成したらちゃんと答え合わせしてね?」
そういやそんな事も言ったなー、と上目遣いで見ている先輩を見ながらボケーッと考える。多分、答え合わせしなくても合ってるんだろうけど、やはり1度新しい瞬速とは対峙してみたい。
「・・・了解です」
「ふふ、じゃあ待ったねぇー!」
先輩はいつもの笑顔で右手をフリフリとしながら走って言ってしまった。廊下は走っちゃダメですよ。と思いつつ、俺は早歩きでその場を去った。男子からの視線が増え、更に嫌な事になる前に。
下駄箱までそそくさと逃げてきた俺はさっさと帰ろうとし靴を取ろうとする。すると、スルリと何かが落ちてきた。俺はそれを拾い上げるとそれは「門の前で待っています」と書かれた小さな紙だった・・・怖っ!?なに、俺門の前で暗殺されるの?脅迫文かよ。受けて立つぜ。
外に出てみるといきなり冷たい風のお出まし。そろそろ学校では卒業式の準備を始めており、先生達が慌ただしく職員玄関を通っている。まだまだ冬で全身を這い寄る様な寒さに少々身ごもってしまう。空を見ると夕焼け空が眩しくつい一瞬目が細くなる。
こんな日に暗殺とか何考えてんだか。そう思いながら他の生徒達の流れに身を任せ、そのまま門に到着。殺気、無し。狙撃の可能性、微妙。奇襲、無し。
さて、どこから来る?俺は立ち止まり気配を集中させた。すると俺の右肩にトントンと何かで叩かれたような感触が伝わってくる。気配に気付かず勢いよく後ろに首を向けると、
「(ビクッ)あの、天野優人君・・・だよね?」
・・・ダレ?・・・っ!?まさか俺が気に取られている間に他の人が・・・とも考えたが、それは無いと判別出来た。勢いよく振り向いた時の一瞬の怯え。そして言葉から嘘は無いと読み取る。つい身構えてしまった俺が恥ずかしい。俺は1度咳払いをして落ち着かせてから
「あー、そうだけど・・・貴方が手紙の?」
「は、はい。そうです。実は今日貴方にお礼が言いたくて・・・」
お礼?俺ってお礼されるほどの事したっけ?
俺は首をかしげて悩んでいると
「あの、先日路上で、その・・・襲われそうになった時助けてくれたから・・・」
と説明してくれた。くっ、そんな事全く覚えていない・・・訳ではない。基本的に1週間程度前の事なら思い出そうと思えばいける。襲ってた側からすれば俺はもはや害虫。恨みを持っているものが多数のためなるべく町で会っても逃げれるようにしている。首を少し下に向けて少し恥ずかしそうにしている彼女に向かって俺は
「お礼なんていいよ。当然のことをしただけだし、俺が勝手にやった事だ。お礼どころか感謝すらされる覚えはない」
と言った。事実、俺は助けてとも言われてないのに助けた。つまり、自己責任。あそこで俺が行かなくても誰かが行っていた。その役を俺がやっただけ。むしろ彼女にとっては出会いでも起こってほしい時にこんな男に助けられてとても落ち込んでいるだろう。そう思っていると、
「なら、私の勝手でお礼させてもらうもん」
と頬を膨らませる。
しまった・・・俺の言葉を逆に利用してきたか、こうなると返しが出来なくなるので大人しく従うしかなくなる。
「・・・まぁ、少しなら」
と言うと、その人は魅力的な笑顔でやったぁ!とガッツポーズをする。そんなに嬉しいデスカ。その行動で大体の男子は勘違いしちゃいそうだな。俺はどうなのかって?そんな訳ないじゃん。俺はこの優しさが優しさと嘘の塊で出来ていることを知っている。こんな偽物と分かっているようなものに近づくほど馬鹿ではない。
お礼、と言っても何をしていいのか分からなかったが駅に向かっている途中、コーヒーが飲みたくなってしまったので、コーヒーを飲むために行きつけの店に行きたいと言ったところ、即答でOK!と返された。
「着いたぞ」
俺が指した場所は、大通りから一本外れた通りにある、こじんまりとした木造の家屋だった。「えっとー・・・エルエーディ?電気系のカフェなの?」
「『LADCafe』店主は見分けがつくようにラッドカフェって呼べってさ。確か、light and dark(ライトアンドダーク(明暗))の略らしい。何でも、店主の名字には『暗』が、そいつの母の名前には『明』という字があるから明暗っていう名前になったんだっけな」
俺は以前に店主から聞いた言葉を頭から何とか引っ張り出しながら答えた。早速「open」と書かれているドアに手を掛け、いつも通りに入店する。中も外見と同じような木造造りで奥にカウンター席、手前にはテーブル席が三つ四つ並べてある。パッと見殆ど人もいないし、いつも通りカウンターの奥で必死に手を動かしている茶髪の男性に向かって呼びかけた。
「よ、亮太。相変わらず客少ないな」
「うるせえ、お前が来る時少ないだけだ・・・って、お前が連れとくるなんて、しかも女性とか・・・お前、頭どうかしたか?」
早速言われるであろう言葉をそっくりそのまま返され、一瞬苦笑してしまうが、すぐに彼女の方に頭を向け、店主に向かって指を指す。
「紹介するよ、あいつがここの店で店長やってる暗屋亮太<くらやりょうた>って奴だ。」
すると、
「よ、よろしくお願いします。私、井藤桜咲<いとうさき>と言います。」
「あぁ、よろしくな。俺の事は気軽に亮太って呼んでくれ」
「は、はい。亮太・・・さん?」
その後も適当に2人は会話をしていたようだが、俺は殆ど耳に入ってこなかった。何故ならば、
「(名前、井藤桜咲って言うのか・・・聞いてなかった・・・)」
そう、名前。バカだろ俺、名前聞かないとか。暫く自己暗示に陥ってしまったが、
「おーい、優人ー?起きてるかー?死んでるかー?」
という亮太の声で現実へと引き返された。俺はなるべく動揺を隠しながら
「起きてるに決まってんだろ。見ろ、このクッキリと空いた目を」
「いや、どう見てもクッキリとでは無いな。それより、優人よ」
誰が死んだ目だ。誰が。そう言おうとしたが、何か言いたげなので黙っているといきなり肩を組まれ、反射的に外そうとするが既にがっちり掴まれていて、抜け出すことは出来なかった。観念して、力を抜くと、それと同時に亮太が
「お前あんな可愛い彼女が居るなんてなー。羨ましいな~おい!」
「は?」
「なっ!?」
ナニイッテンダコイツハ。
「ったく、お前失礼だぞ。第一に俺がこんな美人さんと付き合えるわけないだろ。少しは考えろよ」
「な、なな何を!?」
ほら怒ってるじゃないか。あんなに顔赤くしてるし、速く謝れよ。絶対怒ってる顔だよ、あれ。すると何を思ったか急に亮太が
「折角だしお母さんに挨拶してこいよ。多分厨房にいるし」
正直、ホッとした。亮太の事だからここで2人きりにされるものかと思っていたが・・・普通って素晴らしい。いや、普通がどんなのかは知らないけど。一応彼女、基、井藤さんの顔色を伺ってみると、少々赤みは消えているが、体を小刻みに震わせていた。怒りの声が飛んでくる前に、この場を退散させてもらうためにも俺は、厨房に入っていった。
******
「まぁ、戻ってくるまでの間、そこ座っててよ。今、何か入れてくるから」
天野君がカウンターの奥に行くと、亮太さんにお店の奥に施され、そう言われました。私は手頃な椅子を探すとそこにゆっくりと腰を掛けました。さっきはいきなりでビックリしちゃったけど・・・そっか、他の人から見たら付き合ってるように見えるのかな・・・それに、美人さんって・・・えへへ〜
「コーヒーで良かった?」
後ろから先程までのお喋りとは少し違った落ち着いた声で私の前にコーヒーを差し出してくれました。私はすぐににやけていた顔を戻し小さく頷いてから「頂きます」といい、コーヒーを一口飲み込みました。苦味はあまり無く、それでもコーヒーのしっかりとした味が口の中に広がりました。確かにこのお店は店内の雰囲気もいいし、とても穴場何だなと思いながら店内を見回していました。
「えっと、井藤さんはいつ優人と知り合ったんだい?」
不意に亮太さんから問いが。亮太さんの目を見てみると、興味本位、だけでなく何処か嬉しげな目をしていました。
「喋ったのは今日が初めてです。ですが、正確に言うと三日前です。実は、三日前に一度襲われそうになった事があってその時助けて貰ったんです。今回はそのお礼で」
すると今度は亮太さんは精一杯の驚きの顔になりました。
「って事はつまり、実質的に知り合ったのは今日?」
「?・・・はい、そうですけど、それがどうかしましたか?」
すると亮太さんは頭を軽く抑え始め何かブツブツと言いながら必死に何かを考えているようでした。全く理解出来ていない私は、取り敢えず亮太さんの肩を2度叩いてみると、一瞬ビクッと───同時に私も驚いてしまいましたが───なり、すぐにこちらに手を向け、
「いや、ごめん・・・・・・・・・何ていうか、あいつが初対面の人の前でさっきみたいな会話を出来るとは思わなかったんだ。何せアイツ、今も昔も人げn「おい?」・・・今も昔も人見知りだからなー、優人はー。ハハハー」
亮太さんは何か違う事を言おうとしていたけれども、厨房から帰ってきた天野君の威圧感のある一言で慌てて先程までの態度を変え、いつも通りの声になりました。
「はあ、お前客きてるぞ」
亮太さんと一緒に天野君の指を指した方向を見ると苦笑いを浮かべていたお客さんがいました。亮太さんは慌てて席を案内し、代わりに亮太さんが先程まで座っていた席に天野君が座り、亮太さんの奥さんから貰ったであろうコーヒーを机に置きました。
少しの間、お互いにコーヒーを味わっていましたが、どうしても先ほどの言葉の先が知りたくて言い出してもいいべきか迷っているとコーヒーのカップをコトンと置いた天野君が
「・・・さっきのは、ちょっとした昔話みたいなもんだから気にしないでいいよ」
と短く答えました。
「・・・その昔話って、話せたりする?」
私が聞くと、天野君は首を横に振りました。やはり気になってしまいましたが、なんとか堪える事に成功しました。(けれど、いつかは聞きたいなーと思ったりしたり)
「・・・まぁ一応って事でまだしてなかったから自己紹介しとくよ。俺は天野優人、1のFだ。なんだ、名字で呼ばれるのは慣れないから下の名前で呼んでくれ」
「あ、井藤桜咲です。1のAです。私も気軽に桜咲と呼んで下さい」
自己紹介を終えると、天野・・・優人君は「よろしく」と言い、またカップの柄に指を滑らせ、コーヒーを飲み始めました。
「ん?A組?てことは進学クラスのめっちゃ頭良い人しかいない所じゃん」
「そ、そこまで良くはないよ。この前の定期テストの時、1位2位でほかのクラスの人だったりしてるし」
1年生は主にA、B組が進学クラスの中でもそれなりにIQの高い所を目指す人が集まり、C.D.E組が就職や地元の大学に行く人達で、優人君のクラスであるF組は将来の定かではない方と、もう1つは、医療関係の仕事につく方がいます。普通はC.D.E組に人が集まり、F組の知り合いはいなかったため少々驚きつつ、
「F組か・・・。医療関係の仕事に行くの?」
すると優人君は少し困った風な表情を作り、
「いや・・・ただ、普通に進学するのじゃつまんないかなと思っただけだ」
それは暗に将来が悩んでるって事じゃ無いかな?と思いながらも余り詮索はしないでおこうと思いました。
そこからも適当に自己紹介の延長をしたり、クラスでの出来事などを話していました。チラリと時計を見ると、もう6時に。お店に入ってきたのが大体5時前位だったから、もう1時間近く一緒にいたのです。流石に天野君も居すぎたと思ったのか
「そろそろ、帰るか」
と提案され
「そ、そうだね」
と軽く頷き返しました。
店内を見回すと、来た時よりかは客は増え、それなりに繁盛している様でした。今になって私はある重要な事に気付きました。
「(これ、お礼の為だったんだ・・・忘れてた・・・)」
け、けど大丈夫!ちゃんと奢れば問題ないはず!そう思いテーブルの上にある伝票をと・・・ろうとしたのですが何故かそこに伝票は無く、代わりに
「お勘定ー」
と、伝票片手に亮太さんを呼ぶ声が聞こえました。慌てて優人君の元へ駆け寄り、
「わ、私が払うよ!ていうか、最初からそう言ってたよね?」
と言うと、何の事かさっぱり、と言わんばかりにキョトンと首を傾け、数秒の沈黙の後に、
「誰もそんな事言ってないけど?」
「でも、これはお礼って・・・」
すると優人君は。
「俺が頼んだのは『コーヒーが飲みたくなったからそこに行く』だけで、奢ってもらうとは言ってないし言われてない。という訳で、はい、これ」
確かにそうだけど・・・と心の中で呟くと、その間に優人君はサッと取り出した1000円札を亮太さんに渡しました。何か腑に落ちないな~。そう思いつつも払ってしまったものは仕方ない。
「じゃあ次来る時は絶対に私が払うからね!」
「はいはい、ワカリマシタヨー」
秘技!払わないと気が済まない体(てい)を装いつつも、また一緒に来る約束を立てる!
・・・と言う冗談はさておき、もう一度亮太さんに感謝の言葉を言い二人揃って店を出ました。
「じゃあ、俺方向こっちだけど、桜咲は?」
私は軽く祈るように優人君の指先の方向を見ましたが、その方向は
「私はこっちだから・・・ここでお別れね」
名残惜しい。とても・・・。けど、今日はたくさん話せたし、良しとしようかな。
「じゃあな」
「またね」
お互い別れの挨拶を済ませると、それぞれの道に進みました。
******
彼女の朝は早い。彼が登校する前にはいつもの定位置についてなければいけないのだ。
いつもと同じように午前4時には起きなければいけない。毎日はもしかしたら体に毒かもしれないが、彼のためと思うと不思議と起きれてしまう。
ワイシャツのボタンを鏡の前で閉めながらこれぞ愛の力かな~と考える。鏡の中の私はきっと全身の力が抜け、顔をにんまりさせているだろう。しかもこれすらもが日課ときたものだ。
大体この後は、制服を着て、持ち物を確認するのだが今回は違った。準備しながら、同時にノートも見ていたのだ。
そのノートの表紙には
『題名 彼の成長記録』
と書かれていた。更に驚くべきはそのノートの端にNo.2と書かれている事だ。つまり、普通のノート1冊を彼の成長記録として残しているのだ。流石にこのノートを周りの人に見せびらかす訳にはいかないので、誰も居ない時だけ、学校で何度もノートを読み返している。いつもはノートを食い入るように見て必ずニヤケ顔になるのだが今回は、何と歯と歯を思い切りギリギリと言わせ、一目で分かるようにイラつかせていた。そのページには概ねこのように書かれている。
『・・・放課後、門の前で不自然に立ち止まった彼は驚くべき事に、女から話しかけられたです。彼のことだから見向きもしないと思っていたですけど、何と一緒に歩いたです。しかも行き先は彼がよく行っているカフェだったです。しかも入ったきりなかなか出てこないです。何と店を出たのが、入ってから1時間6分後の6時12分だったです。(以下、「あの女・・・」から始まる愚痴)
バシッ!と勢いよくノートを閉じると携帯の液晶に映されている時計へと目を移す。すると、そこには5時52分と書かれていた。いつもなら45分にスキップで出ていくはずだが、ノートに気を取られていたせいで遅れてしまっていた。急いで荷物を持って外へ出た。
******
「ふあぁ・・・」
門を通って真っ先に出た欠伸。多分登校中も何回も欠伸をしていただろう。今日も変わり映えのないパトロール。別に飽きた訳では無い。が、正直、歩くの疲れる。学校から家までは徒歩1時間圏内なのだが、適当ないざこざを取り締まっている内に如何せん1時間を越してしまう。あぁ、平和な世の中に生まれたかったよ・・・。・・・・・・。
「(これで4ヶ月・・・か?)」
学校の1棟2階、理科室。顔までは見えないが人影があり、その視線の先は・・・俺。毎日毎日、定位置である理科室で俺を見ている。登校時に見られるのも気に障るが、それだけではない。例えるなら昨日。桜咲───名前でいいと言われたので───とLADカフェに行った時。道中も帰りもずっと見られていた。ていうか、登下校、部活見学中・・・色んなところで気づいたらいる。まぁ特に害はないので放っているが、何か変な事に巻き込まれなければいいな~と思いながら今日も見過ごす。
そこからはまたいつも通りに授業が始まり、終わるを6回繰り返し、下校をする。普段と変わらないが今日は剣道の大会があると言っていたのでそれが少し気になる。と思い窓を見る・・・。すると驚いた事に門の間を通り抜けてくる剣道部が。どんな偶然だと思い荷物をまとめ教室を出て、小走りで外に向かった。
「あっ天野くーん!」
外に出て早々先輩の澄んだ声と男子の痛すぎる目線が。おい男子。こういう時だけ俺の存在を感知するな。いつもは何処にいるのか分かんない癖に。そんな悪態を心の中でつきながらとことこ近寄ってくる先輩にも一言。
「そんな大声で呼ばないで下さい。目立つでしょう」
「あはは~ごめんね~」
わざと少々口を尖らさながら言っても先輩は満更でもないようだ。全く・・・と1度溜息をついた後
「それで、結果は?」
と聞くと
「ふっふっふ・・・何と!関東大会出場決定!」
と両手を拡げながら自慢げに語る。関東大会か~・・・まぁここの学校は昔から強いっていうし、そんな所までは行くかー。と考えていると先輩は元の姿勢に戻り、
「ねね、この後さ、時間ある?」
と少し小さめの声で言われる。質問の意味を汲み取った俺は
「無い・・・と言いたい所ですが、折角だし付き合いますよ」
と言った。そう。新しい技の事だ。正直な所、少し楽しみである。
「ありがと!じゃ道場にレッツゴー!」
先輩はスタスターと駆け出して行ってしまった。これはあれだ。絶対明日辺りに「オメェちょっと体育館裏来いよ」とか言われるパターンだよこれ。そう思いながらもワクワク感が勝り、遅れながらも道場に歩き出した。呼ばれた時はそん時考えようそうしよう。
道場についた俺と先輩は試合通りとはいかないものの、軽く防具を付け、竹刀を向けあっている。
「んじゃあ適当に構えてるんで、何処からでもどうぞ」
「うん、じゃあ遠慮なく」
先輩が言うといつもは中段に構えた突きの姿勢ではなくまるで居合をするかのような抜刀前の構えに。その構えにちょっと嬉しくなってしまったが、すぐに構え直し、相手を見定める。
───バンっ!!
ほんの僅か。いやほんの瞬き。その間に瞬時に距離を詰めた先輩は今度はその身ではなく・・・竹刀を振るう。これを瞬きで。俺もやられた訳でなく、きちんと借りた竹刀で受け止める。久し振りに出てきた高揚感を隠せないでいたが、まだ。まだ、百点は上げられない。そんな俺の思いを読んだかの様に先輩は1度ニヤリと笑うと1度後ろに飛び退く。すると、いつもは『前に早く動いていた』先輩が横に移動し、俺の周り360度を封鎖する勢いで回り始めた。ここまで来たか・・・そう思ったのも束の間、すぐに
「う、うわ!」
と声が。後ろを向くと、そこには、竹刀が宙にあり、そして、あと10センチもない距離にこれまた宙に浮いていた先輩が・・・って、やb
───ドーンッ!
「うぐぐ・・・」
「いったた~・・・」
「むぐ!むぐぐ!」
「んく、くすぐったいな・・・あ・・・あ~ごめーん」
何が起こったか説明しよう。と言うより何が起きたか理解することにやっと成功した。つまりあれだ。先輩がグルグル周ってて、足を絡ませ、重心がずれ転んだ、と。ここまではいい。その後だ。俺と一緒に転び、勿論俺が下敷きになってしまった訳だ。だが目を開けても暗闇のままでやけに苦しい。そして何か柔らかい・・・ここまで言えば分かるだろう。そう、先輩の胸が俺の顔に押し付けられていたのだ。それに窒息されそうになっていた俺に気付いた先輩は少々申し訳なさそうに腕に力を込め、やっと俺は息を吸うことが出来る。と思いすぐ深呼吸しようとするが・・・出来ない・・・。なかなか2、3センチの所に人の顔がある所では息を吐けない・・・。バッチリ5秒くらい硬直していた。俺は先輩の腕が微かに震えだしているのに気づき、
「・・・・・・あの、立ち上がれますか?」
と訪ねた。すると、先輩はまるで別次元から帰ってきたかの様にハッとし、慌てて、立ち上がり、そっぽを向いた。その顔が目一杯赤く染まっていたのは気のせいだろう。続けて俺も立ち上がった。ふむ・・・
「うん・・・最後の失敗がなけ「わーーーー!」れ・・・ば・・・」
未だ俺に背を向けてくる先輩に講評をしようと思ったがそれより先に道場の外から勢いのある大きな声とガシャガシャーンと、物が倒れた音が。俺と先輩は同時に音をした方を見たが、それ以上音は聞こえなかった。
「な、何?今の・・・」
俺は薄々感づき、はぁと溜息をつき、適当に説明を加える。
「きっと隠れんぼでもしてたんじゃないんですか?ここならバレにくいはずですし」
「そ、そうかな・・・」
勿論、嘘。虚言だ。本当はあのいつもいつもいつも見ている謎の人だ。
「で、心当たりあるでしょ?」
・・・えっ!?まさか顔に出ていたか・・・くそう・・・。
「あ、あー・・・えとーないと言えばあると言うかー・・・」
俺は一瞬どうしようか迷った。ここで言ったらダメなんじゃないかと。だがすぐにそれは打ち払われた。ダメという根拠がないし、何より流石にストレスが溜まってきているので、解決策を練ろうとしていたところだったからだ。
「実は・・・」
「ストーカーだね。間違いなく」
「えっ・・・マジですか」
「マジですよ」
稽古が終わった俺と先輩は取り敢えず先輩の機嫌を宥めたあと、道場前の階段に座り、本題へ入った。登下校中に見張られていることを。すると、即答でストーカーという単語を出された。
「いつも見られているのがストーカー何ですか?」
「そうだねぇ、極端に言っちゃえばそうなるね~」
ほうほう・・・見張られている=ストーカーと。
「なら、あれは?」
ピッと倉庫の方に指を向ける。そこには・・・
「あぁ、あれもストーカーだね」
「そっすかー」
「ちょちょちょ、勝手にストーカーにしないでよー!」
桜咲がいた・・・。
「ストーカーだね」
と桜咲が何にも無かったかのように俺の隣に座っている。
「誰が?桜咲が?」
「だからあれはたまたま通りかかっただけだから!」
嘘クセ~・・・
「先輩、判決は?」
「桜咲ちゃん、ギルディ!」
「ちょっ、ちょっとー!」
うはー、コミュ力高い先輩と桜咲・・・もう仲良くなってる~。それに意外と桜咲、いじられキャラだし~。という冗談はともかく
「その・・・ストーカーどうすればいいと思う?」
「そんなの直接会ってもう辞めて、って言えばいいじゃん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
******
彼女は今日も見ていた。理科室の窓から、彼を。普通先生とかに見つかる可能性があるが今いる所は後ろの窓からは丁度死角になっている所で、巡回の先生にも、ましてや、生徒にも見つかることは無い。
「(今日の登校時間・・・8時21分・・・デス!)」
素早くノートにメモをとる。その様はまるで観察者・・・いや立派なストーカーだ。ノートにはその時間しか書いていないのに、そこだけを見て、ホッコリとしている。それこそ、3分以上も。だが、今回はこれが仇になった。
「ナルホド、ここからなら確かに校内から見えることは無いな」
「そうデス、ここは私が3週間かけて見つけた最高の場所デス!言わば特等せ・・・き?き、き、き・・・」
ヤベーバレたと急いで離れる彼・・・そう、優人である。更に優人はなにか言おうとしたが・・・
******
声が出ない。出そうとしても、何かが喉の奥で詰まる。
うおおおおおおい!!俺のコミュ力は初対面相手に緊張どころか声すら出せねぇのかよ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
2人とも黙りこくる。こちらは絶対的優位な状況にいる。のに、なのに・・・!
ガララと勢いよくドアが開かれたのはその直後だった。そう、桜咲と先輩である。先輩は迷わずこちらに来るが桜咲は少々手間取っている。それもそうだ。そもそも昨日提案した作戦は、このストーカーの人に辞めろと言って、嫌だと言われた様の保険だったからだ。先輩はそのまま真っ直ぐ進んできて、多分とても情けない顔をしている俺に向かって、小さく
「お疲れ様」
と笑顔で言ってくれた。
何これ恥ずかしい死にたい。
「さて、貴方が例のストーカーさんね・・・取り敢えず場所を変えましょ?」
と桜咲が。・・・。貸し、一つできちゃったな~。
そこから場所を変えていつも俺が昼寝をしているところに行った。ストーカー曰く、許可なく見るのは謝るが、辞めたくないと。そして妙に桜咲と先輩への態度がちょっと・・・な。何でだろ。背がコンプレックスなのかな。それに変にですです言ってたし・・・。知らない人に話しかける事が無理という最悪の特権を持っている俺は少し離れた所から3人の話している様子を伺っている。何を話しているのだろうか・・・。まぁどうでもいいか。俺はまた大きな欠伸をした。
**こんな話**
「えーと、まず、学年、組、名前から」
まるで取り調べの様な聞き方見たいだなと思いましたが、それ以外どう聞くか迷ったし、予め真奈美先輩と優人君とプランを練っていたから今更変える訳にはいかないし・・・。
「・・・1年F組の小道遥香〈こみちはるか〉デス・・・」
「わぁ、て事は優人君と同じなんだ~。」
「は、はいデス・・・」
すると・・・・・・遥香ちゃんは一拍おいてから続けました。
「あの、この事・・・天野君の事を好きなのは本人には内緒に・・・」
「そう言われても・・・もうバレてるだろうし・・・」
もじもじしながら言う遥香ちゃんに後ろで待機している優人君の方をチラリと見ながら言いました。
「しかしまぁ、よくあんなクラスの中じゃ目立たなすぎているかどうか分からない優人君を好きになったね~」
真奈美先輩・・・それ悪口です・・・
「し、知らないんデスか!?今女子の間で流行ってる『裏ランキング』ですよ!」
「う、裏ランキング?」
「デスデス!色んなランキングがあるんデスがそん中で『恋人ランキング』っていうのがあるデスが、表には普通にイケメンな人達が上位にいるデスが、そっちには何と天野君が上位に居るデスよ!実際、喋った人は居ないようですが・・・」
「へ~」
急に熱弁になった遥香ちゃんに思わず真奈美先輩と同時に感嘆の声が出ました。
「じゃあその理由でストーカーしてたの?」
「それは・・・違います。ちゃんと好きになったんデス」
ちゃんとって言われてもね~・・・
「って事はまず話す事から始めないと!」
・・・え?
「おおーい優人くーん!」
私が呼び止めるより先に当事者なのに木にもたれかかり寝かけていた優人くんを真奈美先輩は呼んでしまいました。
「反省会しよー!」
という先輩の一言で始まった反省会。勿論今回のストーカーの件についてだ。普通なら参加しないが、今回だけは違った。何故か、それは先輩のこんな一言で。
「1番作戦を破った人が反省しないで誰が反省するのさ~!」
・・・。
「・・・ゴメンナサイ」
という訳だ。
取り敢えず俺、桜咲、先輩は昨日と同じ体育館前の階段で腰を下ろしている。
「まず1番!」
俺の左側に座っている先輩が自動販売機で買ってきたカルピスのウォーターの方を一口飲むと、そう叫んだ。
「まぁ、一番はやっぱり」
「「(天野)優人君があそこで黙りこくったこと」」
「かな~」
「でしょ!」
先輩と俺の右側にいる桜咲が声を揃えてそう言った。真ん中にいる俺の肩身が一気に狭くなる。
「そりゃ俺だってあそこで暫く見てるつもりだったけど、結構いい作戦で驚いちまったんだよ」
「それでもその後喋れないってのはね~」
口をモゴモゴとさせながら言い訳をすると宥めているのか貶しているのか少し微妙な表情をしながら桜咲が返した。
「まぁ想定の範囲内だったしねー。私も初めて会った時は凄かったもんね~」
手足を伸ばし、空を見ながら先輩は呆れたように言った。
「え?最初?」
「そ。夏休み明けくらいに話しかけた時は全速力で逃げられたもん。1週間くらい経ってやっと話せたんだから。桜咲ちゃんもそうだったでしょ?」
黒歴史掘り返さないで先輩・・・。そんな念を込めて先輩を睨んでもどうやら伝わらなかったらしい。
「私、は・・・最初にあった時から普通でしたけど?」
「え?うそ!?もしかして私だけ人見知りされてたの!?どういう事優人君~!」
ん?そういえば確かにそうだったな。桜咲に初めて話しかけられた時、何も感じなかった。
「俺にも分からん・・・そうだな、例えば小さい頃会ったことがある・・・とか?」
適当に思い付いたことを言ってみたのだが、何故か桜咲は真剣に何かを考えていた。やがて諦めたのか、ふぅーと息を吐くと、
「話題、それ過ぎちゃったね。取り敢えずこの後どうするか何だけど・・・」
「今の所様子見って事で・・・確か優人君と同じクラスだったよね。明日だけでいいからさ、監視だけでもしてくれない?」
それってストーカーと同じじゃね?
「え、いやd」
「もし今解決出来なっかたら優人君の大好きな昼寝の時間にも邪魔してくるかもよー?」
俺が丁寧に断ろうとしたが、桜咲の一言で遮られた。・・・俺のツボをよく心得てらっしゃる。
「・・・1日だけな」
朝、休憩時間、昼、さりげなーく観察をしてみた。3回に1回目が合うという物凄いハプニングに見舞われながらも、無事放課後までたどり着いた。ここまで見て分かったこと、それは、
「俺がストーカーと同じ事をしていること」
俺が言い終わると
「「そういうことじゃなくて!」」
という桜咲と先輩
「ストーカーでは無いデス!」
と主張する・・・遥香。
ストーカー・・・ではなく遥香を見つけた日、実はそれなりに喋れるようになった・・・と言うよりさせられた。寝かけている時、いきなり先輩に声をかけられあろう事か「反吐が出ても話せ~!」という残酷な事を笑顔で言うもんだから驚かずには居られない。にげようと思った時には既に遅くガッチリと左手を掴まれていたので・・・反吐は出ていないが頑張って話し、何とか普通に会えるようになった。という訳だ。
「じゃあどういう事だよ。ていうか本人の前で結果報告ってどうよ」
「そこは・・・親睦を深めるって事で、ね?」
親睦って言うかよこれ・・・。
「取り敢えず、遥香がどうしたいかだな。酷いもんだよ、注意喚起しても未だに登校中に理科室にいるもんだ」
「そ、それはデスね。もう日課になったと言うデスか・・・」
うぅむ。そちらが本題では無いんだけどなぁ。
「隠れてみてねーで普通にしてりゃ良いじゃん。現に今もこうやって話してるわけだし」
「え!?本当デスか!?」
「ただし、条件がある」
俺は遥香の方に少し向いて
「お前『友達作れ』」
「で、どういう意味なの?友達作れって」
気付いたら下校時刻ギリギリだったため取り敢えず今日は解散となった。今は桜咲を無事に駅まで送り届けるというミッションをしている。学校から駅までは基本線路沿いを歩く感じで3~5分に1回、いや2回は電車を通っていく。丁度電車が通った直後、不意にそんなことを聞かれる。
「そのまんまさ。見張っている時にいつも一人でいた。話そうとしない。話しかけられていない。見た感じいじめ・差別っていう感じじゃ無さそうだったから多分、俺が足枷になってて周りと話せないと思うんだ。だから今度はその足枷を利用して友達を作らせる」
俺の適当な推論を言い募ると桜咲は目をパチパチとさせて、「驚いています。」と伝えてる様な表情になり、
「そんなに考えてたんだ・・・」
と、考えようによっては貶してるふうにも取れる(そこまで優人が頭が回ると思わなかったから驚いたという解釈)言葉に少々顔を顰めてしまうがコホンと1度咳払いをする。
「考えるも何も、このくらいは普通だって・・・まぁまだ分かんないことはあるけど・・・」
「分かんないことって?」
「何故遥香が俺にストーカーしていたのか」
ずっと頭の片隅に置いてあった疑問をぶつけてみる。
「えっ・・・?」
帰ってきたのは驚き、と言うより、「逆になんで?」という感情があったのは分かったがそれ以上読み取ることは出来なかった。
******
友達・・・というものはいない・・・という訳では無い。教科書を借りる事も出来るし、一緒に帰れる友達もいる、そんな主張をした遥香。今日くらい一緒に帰れば認めてくれるだろう、そんな考えに至っていた。取り敢えず教室に携帯をいじっている優人が居るのを確認してから数日ぶりにその友達に話しかけた。
「ね、ねぇ!今日一緒に帰らないデスか?かりんちゃん」
すると誰にでも優しいかりんちゃんはにこやかな笑顔で
「うん!オーケー!」
と快く返事をしてくれたです。
そこからもちゃんとかりんちゃん以外の友達と喋ったりし、友達がいるという事を存分にアピールした後、何と、天野君からお呼び出しがあったデス!早速効果があったデスか・・・ふふふ、これで堂々と観察出来るデスね!そんな期待を胸に秘めながら体育館前まで行くと、先に来ていた天野君がコチラに近づいてきたデス。
「急に呼び出して悪かったな。分かると思うが、昨日の条件についてだ」
私は何も言わずに聞くことにしたデス。
「・・・ダメだな。あと2日猶予をやる。という訳で、じゃ、寝てくる」
「え・・・!?どうしてデスか!?」
私は思わず、私を通り過ぎていこうとした天野君の腕を掴んでいたです。一瞬ドキッとしたですが、直ぐに改め、天野君に問いかけたです。するといつもの無気力な声とは違う冷徹な声で言ったです。
「多分放課後になったら分かると思うぜ。精々たっぷり友情とはどんなに浅はかなものか体験して来いよ」
それ以上喋る気は無いと言わんばかりに私の手をどかし、天野君はその場を去ったです。
何だか分からないですけど、取り敢えず誘ってしまったので一緒に帰ることにしたデス。挨拶を終えて、かりんちゃんの席に向かったデスが、先程まで笑顔を振り撒いていたかりんちゃんが、私が来た途端冷たい顔になったです。「どうしたデス?」と聞こうと口を開こうとしたですが、それより前にかりんちゃんが
「あなた、優人の何なの?」
・・・え?何です?優人って言ったですか?どうしてですか?
「とぼけないで!私見たの、あんたが優人と一緒にいる所」
「待ってです!確かに一緒にいたデスけど、それも理由があって・・・それに、かりんちゃんも呼び捨てデスけど、仲いいデスか?」
「仲が良くないと名前呼び捨てはダメなんて決まってないわ・・・!」
そんな・・・そんなっ・・・!
「まぁいいわ。もうあんたとは居られないから。じゃあね」
私はただ、後ろ姿のかりんちゃんを目で追いかけ、必死に囁き続けることしかできなかったデス。
「何で・・・ですかっ・・・、どう、して・・・」
そこに涙は出なかったです
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