偽心
ノア
第1話
この物語は、誰しもが異なる『能力』というものを持っている世界でのある少年の小さな物語である。
まず、『能力』とは、どのようにしてできたのか。
義務教育で定められている教科書や一般的な文書では創造論であるアダムとイブが神から授けられたというのが最有力だ。他にもあるのだが、どれも根拠が足りなく、最終的に神話で落ち着いたとも言われる。
この『能力』現象は瞬く間に広がっていき、様々な人が様々な異変を起こすようになった。政府は対策を考え、異変が起きた人と、普通の人で隔離しようとした。
だが、異変が起きた人は既に5割を超えており、その人数を隔離する場所も無ければ、全員を集める余裕もない。
そうなると、政府は特例とし、「異人類の自由化」と、「国民の自己防衛用の銃刀の所持可能」をした。事実上の見放しである。
『異人類』はさらに被害を拡大し、日本はついに、全国民が『能力』を所持していると宣告した。
そして、その『能力』は後に、『アビリティ』と言われるようになった・・・。
******
俺は何度か考えた事がある。アビリティとは何なのかを。
恐らく大抵の人は習った事をそのまま言うか、考えたことも無いと答えるだろう。確かにこれは人間に向かって何故爪があるのかと聞くようなものだ。
だが逆に・・・何故爪があるのか。聞かれたら人によってはふわふわとしか答えられないだろう?
だけどそのふわふわしたものが常々自分の指先に付いているのだ。
アビリティにしたって、人に付属された『ふわふわ』した物体で爪とは違い『なに』と表現する事が出来ない。
結局、人は正体不明のなにかと共存をしているだけなのだ。
そんな日常の中で当たり前に世界は周り、当たり前に時が過ぎ、当たり前に暮らし、当たり前の様に学校に行く為に、街を歩く。
こんな世界で、銃もナイフも持ち歩けるなら、当然治安は悪くなる。普段、そんな風に思うのはいわゆる少数派なのだが、1度アビリティに疑問を持ってしまうと色んなことが更に疑問になっていく。
そのため俺は、学校の行き帰りに乗り物を使わず歩いていき、悪い事をしている人がいたら成敗する様にしている。勿論、素手という訳にはいかず、常に腰に木刀を据えている。
俺は何度か『瞑想』をした事がある。最近ではアビリティそのもの───モノと定義するかも分からないが───が何か無条件に嫌という異端者なので、もしアビリティが無かったらどんな世界だったのだろうと。
答えは、出なかった。
最初はそれはもう平和な事で、人の争いは存在するのが珍しい物かと思った。
が、少し考えてみると・・・アビリティは無くとも、「人」が存在する時点でその世界は平和では無いのでは、と気づいた。
理由?そんなもん、人が人であるから、だろう?
それに気付いて以降は、瞑想をした記憶はなかった。
この俺の考えだけを聞くと、とても人間はクソ野郎どもしかいないと受け取られるかも知れないが・・・。知れないが・・・・・・。
まぁ・・・0.5、いや0.2割はアビリティを使って頑張ってる人もいる、と思うんだよ。うん。
例を挙げるなら・・・周囲や指定した場所に風を起こすアビリティだとするならば少量とは言え、発電に貢献出来たり。ただ本当にそのアビリティの人が居たとして、貢献しているかは別だが。
大体、何だよアビリティって。バカかよ。皆は何で普通にアビリティを受け入れることが出来ているんだよ。こっちなんか───
「・・・や・・・して・・・くだ・・・!」
ん?少しボーッとしすぎていたか。声の主は・・・この路地か?たまにいるんだよな〜。
「やめて!放してよ!」
「いいじゃんって。楽しいからさー」
「いや!絶対イヤ!」
女性1人と・・・ん?あの人・・・ま、それは後にして。男はそれぞれ虎、ライオン、馬、蛙に似たのが4人・・・。善は急げ、いや善かどうかは分からないがやるか。
「この女、さっきから抵抗しやがっ・・・ん?誰だテメェ」
俺は、最悪事を避けるべく早めに女性を引っ張っていた男の手首を掴み、女性から放した。
「女性1人にこの人数はカッコよくないな~。お前ら、案外ヘタレだな小動物ども」
「んだと、クソ野郎が!」
こういうチンピラにはやはり挑発に限る。眠い朝のささやかなストレス発散にもなるし。
「おい待ってくれ兄貴、こいつ普通だぜ?」
兄貴・・・ライオン系男子の奴の事を馬系男子は兄貴と呼んでいるのか。何て現実的な食物連鎖だ。
あれ、て事は人間意外に上位ランクイン?
「そうだ、お前みたいなザコが俺達のような『モンスター型』に勝てるわけないだろ?」
俺のだるさから来るバカみたいな思考をよそに話は進んでいく。
奴が今言ったモンスター型。アビリティには国連公認で幾つかの区別がある。だがそれもほんの数種類なので、大抵は『その他』になる。
その公式の種類の一つがモンスター型と言われるものである。
モンスター型とは生まれた時から『人間ではないものに生まれる』最も体に変化が起こるものである。(vikipediaより)
このモンスター型は人間だけでもない。例をあげるとすれば魚だ。稀にではあるが、ゲームとかで出てきそうなモンスターも出て来るので、釣り人は常に死と隣合わせなのである。
そして、この男がこんなに自信満々なのは、一言で言えば『流行り』なのだ。最近───と言っても十年くらい前だが───とある恐竜型の人が、10m位の大きさで、首が二つあり、水中も陸も動ける超大型陸魚が町で暴れているところを1人で勇敢にも立ち向かい、見事に討ち取ったのだ。
その影響で最近の若者・・・まぁ俺も若者だが、モンスター型が最強だ、と言っているのである。
だが実際のところ強い人もいるが決して皆が強い訳では無い。例えばモンスター型の人が小さな子猫が原型だとしたら、場合によるかも知れないがとてつもなく弱い。
(モンスター型でなくとも相手の最低限の事は知っておくべきだぞ)
心の中で目の前で体毛を奮い立たせ威嚇しているライ・・・兄貴にむかってアドバイスをする。
他の3人・・・いや、二頭と一匹もこちらに鋭い視線を向ける。何処か余裕そうに。
遅刻は目立つのであまりしたくないんだ。すぐ終わらすか。
俺はそっと木刀を引き抜き───
遠くは無いが完全に間合いの外の虎の牙を綺麗に貫通し、先端から歯茎までの八分目が地面に落下する。
他の奴らと、斬られた虎でさえ、牙と地面が擦りあった音で一斉に気づいたのである。
先程までの威嚇はどうしたのか、兄貴系ライオンは一気に顔を青ざめ、呻きながらこちらに視線を向かす。それに鋭い視線で答えると、
「ひ、ひぃぃ・・・」
一気に弱腰になり、いつの間にか馬の上に痛みでか気絶した虎を乗せ
「お、おぼえてやがれ!」
と、チンピラらしく退場していった。さて、
「大丈夫か?君」
俺は振り返り、一連の出来事を佇みながら見ていた襲われていた女性に目を向ける。その服装はよく知っていた。
「え?あ・・・だ、大丈夫・・・」
目立った傷も見えないし、事を考えるとどうやら何もされなかったらしい。俺は軽く、
「そうか」
と言い、その場を立ち去ろうとする。
突如、
「あ、あの!」
と、少し大きめの声で呼ばれる。
よ、よ、呼び止めるな!もし校内でばったりなんてあったら気まずいだろ!
そう。彼女の服装は俺と全く一緒の制服だったのだ。
俺の願いとは裏腹に彼女は笑顔で
「あ、ありがとうございます。助けてくれて」
とお礼をした。
「い、いや感謝される程じゃない。当たり前の事をしただけだ。これからも気をつけて・・・」
俺はそう言い軽く会釈すると今度こそはとその場から消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます