第12話 『深き淵より』 ドラランド

『深き淵からあなたに叫びます。主よ。私の声をお聞きください。~」


 まるで、地獄の底から迫ってくるような、ベースのソロで始まります。


 そうして、いくどもいくども、積み重なる様に、折り重なるように、たたみかけるように、呼ばわるのです。


 これを、涙なくして、聞くことが出来るでしょうか。


 ソロが沈黙した後は、合唱がこれを引き継いで切々と祈るのです。


 もとの詩編が作られたのは、バビロン捕囚の時代に遡るのだとも・・・


 確か、高校の教科書にも出ておりましたよね。


 それは、なんと、紀元前のお話でしょう!


 この曲、全体は6つの部分に分けられておりますが、最初の部分だけ聞いていただければ、その魅力は伝わるのではないかと思います。


 それ以降のテキストは、今日の中東情勢にも関わるような言葉が連なってきます。


 『うきうき』も『うるうる』も『そとうつ』も、可能な限り、中立性を保ちたいと言う、やましんのあさはかな思いがあります為に、この先には立ち入りません。


 それでもただ、音楽的には、終結に至る2つの部分が、またもう素晴らしい音楽です。


 ここも、何だか涙があふれてしまいそうな音楽。


 ところで、ドラランド先生様(1657~1726)は、あの高名なリュリ大先生の死後(指揮丈を足に打ち落とし・・・当時は、指揮棒ではなくて、でっかい重たい棒を床にどしんどしんと落としながら、指揮していたとか・・・そのケガが原因で亡くなってしまったという、有名な逸話がある方。ベルサイユの音楽的、また世俗的権力を一手に集中してしまった超権力者。)その音楽・世俗的権力を、再びその手に収めた大権力者でありました、とか。


 おかげで、ベルサイユから排除されてしまった音楽家もあったらしいです。


 どこの世界でも分野でも、自分の権力の邪魔になりそうな人は、早めに消す。(いろんな意味でですけどね)という政策は、今も昔も、普通にあったような感じがいたします。


 『深き淵から』嘆くのは、いったい、どっちなんでしょうか?


 勝った方? 負けた方?


 と、思ったりもいたしますが・・・・


 正解は、と言うと、たぶんどうも、どっちも! なんだろうと思います。


 













 



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