第5話 『婚礼の合唱』 ワーグナー

 もう、泣けて泣けて

 泣けて・・・泣けて・・・・


 なんで、おめでたい婚礼の合唱で、こんなに泣けるのでしょうか・・・


 被害妄想気味のやましんは、巨大妄想気味のワーグナーさまがちょっと苦手です。

 この方の音楽は、可能であれば、聞かずに過ごした方がよいような気がいたします。

 うっかり聞くと、人生を誤る可能性さえあります。


 実際この方の周囲にいた人達は、人生を大いに狂わされました。


 ワーグナーさんだけのための劇場作りに邁進し、非業の死を遂げた王様。

 奥さんを取られてしまった、親友にして、名指揮者。

 激怒する人類史上最高のピアニスト。


 実際、この方の音楽は超オカルト的にものすごいものです。

 その構えからして、ただ事ではありません。

 ワーグナー神殿は、その大きささえも、まったくわからない巨大なものです。


 深い霧が立ち込め

 ジャンボジェットくらいの大きさの、輝く掲示板が空を飛び交います。


『聞け!』

『聞くな!』

『叫べ!』

『泣け!』

『歌え!』


 頭の上をびゅんびゅんと飛びまわるのです。


 そうして、やがて神殿の奥から、ラッパの音とともに、清らかなコーラスが聞こえます。


 あたりの空気が一瞬にして、きらきらと凍り付き、澄み渡るのです。


 後にも先にも、このような音楽は聴いたことがありません。


 さすがのシベ先生も、ちょっとたじろぐかと思うくらいの、言葉にならない、冷たく神聖な美しさ。


 危ない音楽です。


 非常に危険です。


 まあ、オペラ自体の最後が破談で終わるので、結婚式への使用には、慎重な方もあるようです。

 とはいえ、そうした危惧さえも、ものともしない美しさがあるのです。


 愛というものは、恐ろしく危険な側面を持っています。


 そのことを、嫌というほどよく知っているワーグナーさんならではの傑作なのです。


 おお、おそろしや!

 くわばらくわばら・・・・・











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