第3話  『グリーン・スリーヴス』

 これは、もう、古い古い、『おうた』であるそうです。

 やましんは、これを聞くと『うるうる』になります。

 何でそうなのか、は、はっきりと、いたしません。

 不思議な因縁があるのかもしれません。


 いや、実は、少し哀しい、秘密の思い出があるからなのです。


 まあ、でも、それは秘密なので、よしとして、これがまた、実に、あやしい『おうた』なのです。


 ときに『五木のこもりうた』、は、とっても日本では有名でありますが、『正調五木のこもりうた』を聞きますと、ぼくたちが普段聞いているものとは、ずいぶん違うと感じます。

 これは、古~い『おうた』を、西洋の音階にまとめて、ひとつの作品として世の中に出した、古関裕而さまの天才によるものでしょう。

 実際は、様々な歌詞が伝わっているようですし、西洋の音階には乗りませんし、また、厳密な原典は、どうやらはっきりとはしないようです。


 『グリーン・スリーヴス』さんもまた、ネットなどで調べましても、その初めは、伝説の霧の中に、深く隠されてしまっている様子であります。

 

 学問的な事は、やましんの守備範囲ではございませんが、この、『おうた』、

 聞いているだけで、なんとも、あやしい、不可思議なものを感じてしまいます。

 あきらかに、『・・・出そう』なのです。


 ヴォーン・ウイリアムスさまの、有名な管弦楽曲版を聞くと、そうしたあやしい神秘性が、やや隠されてしまうようで、逆に言えば、安心して聞けるのですが、これに『おうた』が付いておりますと、英語が非常に苦手なやましんでさえ、『むむ、これはウドン気な・・・あやしい・・・』と感じます。

 なんだか、ヨーロッパの、古ーいお城に迷い込んだ感じでありまして、いかにも、出そうな香りが漂います。

 

 だいたい、普段歌われる英語の歌詞の日本語訳を見ましても、なにやら暗喩だらけのようで、分かったようで、なんとなく、よくわかりません。

 男性が女性に、ひどく、ふられたらしい。

 必死に頑張ったのに。

 土地も人生も捧げるつもりがあったのに・・・(つまりお金持ちだった!?)


 なるほど、そうでしょうかなあ・・・


『Alas my love ! you do me wrong, ・・・・・』

 

『・・・Kome once again and love me ・・・

 Greenn  sleeves  was   all  my  joy ・・・・・』


 ふうん・・・

 高校生時代の、音楽の教科書にも載っていたような気がします・・・


 ヘンリー8世(1491~1547)が、この曲の創作に関わったという噂もあったようです。6回結婚し、文筆も作曲も良くしたという王様です。クロムウエルさんやトマス・モアさんなども登場する時代ですが、2人目の奥様が、おそらく無実の罪で処刑されたり、戦争やら、権力争いやら、お世継ぎ問題やら、やはりこのお国も、相当、血なまぐさい時代だったようです。


 しかし、王様がこの「おうた」を作曲したと言うのは、どうやら事実ではなくて、女性遍歴が絶えない王様を、誰かが揶揄したものだ、とかも・・・、ふうん・・・。あやしい・・・。


 でも、たしかにフラれた男が言いそうな、泣き言セリフで、ちょっと、泣けてくる気もしないでも、ないですなあ。

 

 だいたいでも、この『グリーン・スリーヴス』って、そもそもいったい何でしょう?

 ここがわからない事には、どうも、うまく解決しそうにありません。

 

 また、この旋律が不思議ですなあ。

 いかにも、あやしい、不思議な旋律です。


 成立が16世紀以前ならば、まだ現代的な『長調』『短調』という概念が確立していません。

 『旋法』が支配する世界です。

 

 それにしては、今聞く『グリーンスリーヴス』さんは、とても古そうなイメージの反面、けっこう、おしゃれさんな感じも、いたします。

 やはり、ここにも、多くの人の手が、関わってきたから、なのでしょうか?


 手元の楽譜は、もちろん現代の楽譜で、フラットひとつで書かれていますが、一番最初に出てくるFと、後半最初のF以外は、Fis になっておりますけれど、二つ目と三つ目は、Fでもおかしくない感じがいたします。

 でも、前半部最後の音と、一番最後は、Fisでないとうまくゆきません。

 終結できないのですね。

 FからFisにすると、哀しさがちょっと引き立ち、生地が多少高級になったような感じもします。

 現代の調性構造からしたら、長調と短調の狭間を、ふらふらと彷徨っている感じです。

 このなんとも落ち着かない、ある種の放浪感が、この曲独特のあやしさを演出しているのでしょう。

 また、この古さが、現代ではかえって新鮮な気がするのではないでしょうか。


 ときに、やましんは、波多野睦美さまが、おうたいになったCDが大好きです。

 なんともいえない、あやしさに、えもゆわれぬ不思議な昔の世界に連れて行かれてしまいます。


 この『おうた』の謎は、永遠に謎のままかもしれないですし、でも、なにしろ、世界初の自律的産業革命を成し遂げたお国柄ですから、ものすごい資料が出てきたりするかもしれないですなあ・・・


 もし、『出るん』だったら、やましんが生きているうちに、『出て』くださいな。

 

 

 

 













 

 







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