第2話 『ピアノ三重奏曲ニ短調 「偉大な芸術家の思い出のために」』ラフマニノフ

 チャイコフスキー大先生は、1893年11月6日、突然亡くなりました。

 33歳年下のラフマ先生は、非常に尊敬していた方の死に大きな衝撃を受けたようです。そうして、チャイコ先生が、ルービンシュタインさんに対して行った礼を、同じ形の作品で大先生に贈りました。


 もう初めから、暗く寂しいピアノの葬送行進曲の様な低音の上で、弦楽器が泣きながら彷徨います。

 このさき、いったい、どこに行けば良いのよ?・・・・・と。


 やましんは、ラフマ先生の音楽はちょっと苦手であります。

 つまり、最後まで寝ずに聞き終えることができないのであります。(第2ピアノ協奏曲とかヴォカリーズあたりは別として・・)

 最悪なのは『交響曲第2番』でございまして、長年にわたり、第2楽章以降の記憶がございませんでした。

 そこで、ある時、最後の手として、最初から聞くのではなく、途中の楽章から分解しながら聞くことにしたのであります。

 すると、なるほど、一つ一つの楽章自体は、とてもりっぱな、良い音楽なのですな。

 で、やっと全体の見通しが立って、全体像というものが初めて浮かび上がってきたのです。

 しかし、これがれんめんと続くと、やましんの、つたない集中力が、追い付かないのです。


 ピアノ協奏曲第3番もそうです。(これも、映画で有名になりましたけれど。)


 と、まあ、そう言う具合でありますから、このピアノ三重奏曲も、全体を通して聞いた記憶がなかなかありません・・・はい。


 ときにそれはまあともかくも、第1楽章の中間どころの美しさは、特筆ものでありましょう。それから終結部。そこをはさんで、延々と先の見えない旅が続くのです。

 このような苦しい音楽を、つらつらと書けるところは、さすがラフマ先生であります。(皮肉じゃないですから!)

 もとが名ピアニストですから、ピアノの扱いが抜群に上手いのは当然なのでしょう。

 第2楽章の頭は感動的です。変奏曲になっていますが、その主題、これは『幻想曲『岩』』から取られた主題なのだそうでありますが、チャイコ先生に、大変気に入ってもらえた作品だったのだそうであります。

 

 しかし、これもまた、抑うつ的な気分が強く(そう言う音楽だから、当然なのですけれど!)ここに、生きている側の、心の慰めを見出すことは、なかなかむつかしいようなのです。


 後半に至って、多少動きがみられますが、すぐにまた沈降。

 でも、この響きの美しさは、やはり良いですなあ。

 あたかも、一部人類が絶滅するように、第2楽章は終了。


 第3楽章は、なんだか意を決したように始まるのですが、まったく乗りません。

 しかし、終結部の前で、独奏ピアノが名人芸を見せたりしたあと、第1楽章の冒頭が帰ってきます。このあたりのやり方はチャイコ先生の場合とそっくりです。

 ただし、ラフマ先生の作品は、あくまでも、お葬式の気分が強く、人生の側面としての、ある種の華やかさの演出などは、ほとんどいたしません。


 そのまま、ついに全人類絶滅か・・・という中で終結となります。

 お葬式の低い鐘の音が、ぼくの頭の中から、しばらくは消えません。

 これは、『トラウマ音楽』の一種かもしれないです。


 10回くらい、もし続けて聞いたらば、多少また違った面が見えるかもしれないのですけれども、それは、もしかして、自殺行為に等しかったりするかもしれません。

 やはりこれは、『いやし』を聞きてが求める種類の音楽とは、ちょっと異なると思いますなあ。


 ちなみに、ラフマニノフ先生には、もう一曲同種の「悲しみの三重奏曲 ト短調」という作品がございます。

 こちらのほうが、ややロマティックな趣があり、聞きやすいかもしれません。







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