第百三十話 アヴェンジャー&レスキュアー・2

 MA-70が繰り出したプラズマ弾の放電によって、巨大な雷の鞭が絡め捕られたようにコントロールが利かなくなったヴォルティスは、露骨に戸惑いと焦りの表情を浮かべていた。

 その隙を突いて、一気に間合いを詰める俺。

 ちなみに飛び道具メインの俺が間合いを詰めることに、果たして意味があるのかと問われれば声を大にしてあると言いたい。


 何故ならば、いくら雷の大蛇の動きが止まったとは言え、いまだすぐ近くの場所に存在していて、いつまた動き出すのかもわからない。

 しかし再度動き出したとしても、ヴォルティスに接近していれば、可動範囲に制限をかけられるかもしれない。


 そして俺の接近に気付いたヴォルティスが一瞬の躊躇の後で、雷の大蛇を切り捨てる選択をしたのを見た時、思わず唇の端がしてやったりと吊り上がった。

 ヴォルティスは再度雷のヴェールの奥に身を隠した。

 と、同時にヴェールの表面から無数の雷の槍が飛び出して、俺に襲い掛かった。

 ここで再度雷の大蛇を繰り出さなかったのは、生成に時間が掛かりすぎるのか、もしくは防御と同時には発動できないと言うことだろう。

 どちにせよ、間合いを詰めていたことは正解だ。

 そして俺の両手のMA-70はリロードタイムを終えていた。


ガスッ! ガスッ!


 と、幾つかの雷の槍がビッグバンタンクの装甲を抉り取っていく。

 刹那、


シュパパパパパパパパパパーン!!!

シュパパパパパパパパパパーン!!!


 と、MA-70の十点バーストがダブルで炸裂。

 同時に背中の多腕支援射撃アラクネシステムの六つの軽機関銃が一斉掃射。

 軽機関銃の弾丸は全て雷のヴェールの電磁力によって阻まれてしまう。

 ではMA-70のクラスター弾はどうか?


ズドドドドドドドドドドドドドドドーン!!!


 まず第一陣の無数の炸裂弾が、ヴォルティスを取り囲むように盛大に爆発した。

 立ち上がる火柱と土煙。

 雷のヴェールの防御が電磁力頼みならば、爆発の衝撃波までは防ぎきれないはず。

 しかし土煙と黒煙の切れ間から見えたヴォルティスの姿は、どこにも変化が見受けられない。

 むしろ爆発を防ぎ切ったことで自信満々の憎たらしい笑みを浮かべている。


「―― 稀人マレビトの小僧よ、この地はやがてマキナ様が住まわれる楽園ヴァルハラへと生まれ変わり、俺はマキナ様から直に統治を託された王であるぞ! 王になる俺が貴様如きに遅れを取っていては、マキナ様の宿願である世界大改新も不如意な結果となってしまうであろう! だから俺は負けぬ! 決して負けぬ事――それが王である俺の責務だ!」


 悦に浸りながら講釈を垂れるヴォルティス。

 そして雷のヴェールの表面が波打って、再度雷の槍が雨後の筍のように生えたかと思えば、一斉に俺に向かって飛び出した。

 しかしそれとほぼ同時に、クラスター弾第二陣のプラズマ弾が一斉に放電を開始した。


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!


 ヴォルティスの周囲で青白い放電が激しく渦巻くと、俺に向かって飛んでいた筈の無数の槍たちが一斉に向きを変えて、プラズマ弾の放電に吸い寄せられた。


「何っ!? これは一体どういうことだ――!?」


 目の前で繰り広げられる光景に、ヴォルティスは三白眼を大きく見開いて絶句していた。

 しかし予測が的中した俺は嬉々としてボイスコマンドを詠唱した。


「――VCOボイスコマンドオーダー! 武器選択! エレクトロンホッパー! 二丁持ちトゥーハンド!」


パシュッ! パシュッ! パシュッ!

パシュッ! パシュッ! パシュッ!


 と、両手のランチャーから計六枚の円盤型特殊グレネードが射出される。

 そして俺とヴォルティスの間に境界線を引くようにして一列に着弾。

 しかしうんともすんとも言わない六枚の円盤に、ヴォルティスは息を殺して身を硬くしていたが、着弾から五秒後に突然六枚の円盤が一斉に飛び上がると、ビクリと大きく体を震わせた。


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!


 六枚の円盤が一斉に放電を開始して、俺とヴォルティスの間に巨大な一枚の放電壁を形成した。

 ヴォルティスはその放電壁が自分を攻撃してこないことを知るや、安心したように雷の槍を放って見せた。

 しかしまたしても雷の槍が放電壁に絡め捕られたのを見て、顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。


「何故だ!? 何故俺の魔法が邪魔をされる!? 何故だっ!?」


 まるで癇癪を起した子供が、壁に向かっておもちゃを投げつけるみたいに、ヴォルティスは怒り任せに雷の槍を乱れ撃ちした。

 しかしそのどれもが蜘蛛の巣に掴まった昆虫のように、放電壁に突き刺さったままで俺の元にまでは届かなかった。

 そして俺はと言えば、リロードタイムが完了したエレクトロンホッパーの引き金を粛々と引き続けて、プラズマ放電壁を絶やさないことだけに全神経を注いでいた。


「何故だあああああああああっ!?」


 二十数回目の雷の槍で、遂に心が折れたらしいヴォルティスは、雷のヴェールの中で髪を掻きむしりながら今にも泣きそうな顔で絶叫した。

 油で綺麗に撫でつけていた髪はボサボサになり、自身に満ち溢れていた高慢な顔付はすっかり影を潜めて、憔悴しきった表情だけが残されていた。


「一つ種明かしすれば、俺が居た世界には避雷針というものがあるんだ。建物を雷から守るために設置された柱みたいなもんで、柱に落ちた雷は地中へ逃げる仕組みになっているんだ。それでその避雷針が更に発展して新しく開発された物の中に、早期ストリーマ放出型避雷針てのがあるんだ。要は雷を呼び寄せる雷を出すことで建物を守る装置ってこと。俺のプラズマ弾が雷放電路ストリーマとなって、おっさんの雷魔法を呼び寄せたってことさ」


「あ……」


 ヴォルティスは何か合点がいったような顔を浮かべた。


「まあ魔法で生み出される不可思議な雷に、この原理が通用するのか俺自身半信半疑だったけどね。巨大雷がプラズマ弾に掴まったのを見てピンと来たよ」


 と、ドヤ顔で言ってみるが、実は知識自体はうろ覚えだったことは内緒だ。

 とにかく広く浅くてもいいから、常日頃からいろんな事に興味を持つ性格が幸いして活路を見出せたことだけは確かだ。

 そして俺の説明を聞いて納得したような顔を浮かべていたヴォルティスだったが、次第に怒りと悔しさが込み上げてきたようで体をわなわなと震わせていた。

 それはもうすぐにでも暴発しそうな爆弾みたい空気が、全身からぷんぷんと漂っていた。


「お、俺は認めぬぞ……! そんな訳のわからぬ理屈で俺の魔法が……マキナ様が授けてくださった力が通用しないなどあってたまるものか……!」


「そう言えばマキナの事なんだけど、奴は今どこに居る?」


 と、ヴォルティスに問いかけるが、俺はふと邪神魔導兵器ナイカトロッズの背中の上に、ヒルダと一緒に居た美青年のことを思い出した。

 ヴォルティスの「連合王国をマキナの楽園ヴァルハラにする」と言う言葉や、魔族と一緒に行動している事、邪神魔導兵器ナイカトロッズが連合王国のある方角を目指していたことを鑑みるに、あの半裸で羽の生えた美青年がマキナである可能性が高い。


 しかしゲーム内のマキナと言えば、ラスボスの人工知能と言う事で随分メカメカしいデザインをしていたので、この無節操なイメチェンぷりには頭痛がしてきそうだった。

 とにかく今は目の前の三白眼おやじよりも、一刻も早く邪神魔導兵器ナイカトロッズの元へ舞い戻ってマキナの顔をじっくりと拝んでやりたい。

 そうは言うもののヴォルティスは顔を真っ赤にして何やら力んでいるところだった。


「貴様如きにマキナ様の居場所を教えてなどなるものかっ! 俺はまだ負けてはおらぬぞ、小僧があああああああっ!」


「あー結局そうなる訳ね。今すぐ行かなきゃならない場所が出来たから、もう手加減しないんで」


 俺はエレクトロンホッパーを連射して円盤型グレネードをばら撒く。

 今度はヴォルティスを取り囲むようにして着弾させる。

 そして六枚の円盤が空中に飛び上がって放電を開始したのと同時に、背中の多腕支援射撃アラクネシステムの軽機関銃を一斉掃射。


ズダダダダダダダダダダダダ!!!

ズダダダダダダダダダダダダ!!! 

ズダダダダダダダダダダダダ!!! 

ズダダダダダダダダダダダダ!!!

ズダダダダダダダダダダダダ!!! 

ズダダダダダダダダダダダダ!!!


 六つの軽機関銃から連射されたナノマテリアル弾が、雷のヴェールを貫いてヴォルティスの四肢を撃ち抜いた。


「な――!? 何故だ!? 何故防御すらも効かない!?」


 と、愕然とした表情を浮かべるヴォルティスに、俺は思わずツッコんだ。


「だからさっき説明したじゃん! おっさんの周囲で放電しているプラズマ弾が、雷のバリアも吸い寄せてるから、どれだけ磁力を織り交ぜようがベースとなる雷防壁が拡散して薄くなってるんだよ」


「な、ならば、これでどうだ……!」


 ヴォルティスは更に力んで雷防壁に魔力を注いだようだったが、ナノマテリアル弾の猛攻を食い止めることは出来なかった。

 四肢が撃ち抜かれ、胴体に鮮血の花が咲き乱れるが、それでも神速治癒を駆使して何とか生と死の狭間に留まり続けている。

 その根性は見上げたものだったが、神速治癒と防御魔法の二つに魔力を注いでいる分だけ、すぐにジリ貧に陥ることは誰の目にも明白だった。

 そして俺も攻撃の手を一切緩める気は毛頭なかった。


「――いまあんたの右足を撃ち抜いた弾丸は姫王子の分だ! 左手がヨーグル陛下の分! 脇腹がアルテオン殿下の分! そして――」


 俺は無線機に向かって「いいぞグランドホーネット、アベンジ報復しろ」と囁いた。

 直後、ヴォルティスの頭上にグランドホーネットから発射された対地ミサイル三十発が降り注いで、雷帝の髪の毛一本も残すことなくこの地上から消し去った。

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