第五十五話 覚醒のエマリィ
それはボクが、まだ私だった頃のこと。
五歳になったばかりの春。
私は幼馴染のハリースと、森へ小さな冒険へ出掛けた。
村の近くの小さな森を抜けて少し小高い丘を越えると、そこにはとある冒険者の墓がある。
幼い私たちでも、日が沈むまでには余裕で帰ってこられる小さな冒険。
ちょっと背伸びをしたピクニック。
そんなつもりだった。
そこへ行こうと誘ってきたのはハリースの方だ。
その頃の私とハリースは、私のお祖父ちゃんから魔法を習い始めた頃で、二人とも筋が良いと褒められていた。
だから大人か年上の誰かと一緒じゃなければ入ってはいけないと、親たちにきつく言われていた森に、私たちだけで行ってみようという悪巧みを思いついた、ハリースの気持ちはよくわかった。
私は初級の防御魔法を、ハリースは火魔法の初級を使える。
二人揃っていれば、
そしてお昼少し前には、順調に冒険者の墓へ辿り着いていた。
昔この村に辿り着いた一人の冒険者が居たが、深い傷を負っていてこの場所で命を引き取ったらしく、お墓には墓標の代わりに、一本の剣が突き刺さっている。
その冒険者を看取り、墓を作ったのは私のお祖父ちゃんだ。
私とハリースは、そのお墓の前で持ってきたコッペパンとキュアの実を、言葉にできない達成感と満足感とともに頬張った。
その後で周囲の散策をしてから、最後に私たちがここまでやって来れた証として、二人の年齢分の石を積み上げてから帰路についた。
森を抜けて家に辿り着けば、明日からは一人前として扱われる。
私もハリースもそう信じて疑わなかった。
でも、それはあくまでも無事に森を抜けれたらのこと……
有頂天だった私とハリースを地獄に突き落としたのは、一匹の
私は初めて目にする異形を前にして、魂が凍り付くような恐怖を感じていたがハリースは違った。
彼は果敢にも私の前へ躍り出ると、
その一発の
そんな
時折
防壁に弾き飛ばされた
最初に感じた恐怖が完全に消え去った訳ではなかったが、
私が防いで、ハーリスが威嚇する。
五歳の私たちのコンビネーションは、一匹の
この事実に胸が熱くなるほどの興奮を覚え、私は自分自身を誇らしく思うと同時に、それ以上にハーリスのことをとても誇らしく思っていた。
そして何度目かの突撃のこと。
私は魔法防壁を作った時に、それまでとはどこか違う違和感を覚えた。
しかしそれがなんなのかわかる前に、
私が感じた違和感。
それは魔力切れだったのだ。
魔力が少なくなり、作り出した防壁も完璧ではなく、それが違和感として表れていたのだ。
私はハリースの名を力一杯に叫んでいたと思う。
何度も何度も叫んでいたと思う。
ハリースは私の涙声を背に受けながら、
そして左肩を噛まれるのと、
炎に包まれて燃える
私もハリースもまだ治癒魔法は習っていなかった。
指の隙間を滴り落ちていく水のように、ハリースの命は私の腕の中から零れ落ちていき、私は成す術もなく、消え行く命の灯を前にただ泣きじゃくるだけだった。
最後にハリースは何かを告げようとしたけれど、その言葉は力なく森の冷ややかな空気に霧散した。
結局私は村の大人たちに見つけられるまで、ハリースを抱きしめて泣いていたと思うが、その辺りの記憶ははっきりと残っていなかった。
色々な人が憐れみ、励まされ、時には批難もされたりしたような気がするが、それからの私は胸にぽっかりと開いた大きな穴を埋めるべく、魔法の習得に一心不乱に励んだ。
もう誰も失いたくなかったし、どんな時でも大切な人を守れる自分になりたかったから。
そしてその頃から、私は自分のことをボクと呼ぶようになった。
これからの人生をハリースと共に生きていこうという、幼いながらも真剣な決心であると同時に、この痛みを決して忘れてはならないという自戒を込めて。
私がボクになって、いつか立派な冒険者として世界中を旅して回れば、それはハリースの魂も一緒に連れていってあげられるのではないのか。
ボクはそう信じていたし、今もそう信じている。
そして十年後。
ボクは成人になると同時に、首都ダンドリオンへ都上がりして、晴れて冒険者となったのだ。
最初の数ヶ月は上手く行かずに、落ち込んで挫けそうになったりもしたけれど、ある日奇跡が起きた。
そう。タイガ・アオヤーマと出会ったのだ。
タイガが颯爽と私の前に現れた時、その背中があの日のハリースと重なって見えて、激しく心がかき乱された。
タイガとの出会いは、不甲斐ないボクを心配した天国のハリースが遣わしてくれたのではないのかと、真剣に悩むほどに衝撃的だった。
だってタイガと出会ったことで、それまで空回りしていた歯車がピタリと合わさったように、全てが良い方向へと転がり出したのだから。
タイガは天国から来た訳ではなかったけれど、こことは別の世界からやって来た
もしかして、その世界にはハリースと言う名の男の子が居るのではないのか。
もし居たのなら届けてほしい感謝の言葉を。
タイガに会わせくれてありがとうと――
そしてタイガは、
興奮するとマイケルベイと言う神様の名を叫ぶし、鎧の下にはピッチピチで目のやり場に非常に困る、奇妙な服を身に着けている。
それに元の世界では最後の一人になっても戦い続けて、世界を守り通したソルジャーオメガという称号を持つ伝説的な戦士だったらしい。
いつの間にかタイガは冒険騎士の称号を得るまでになっていて、ボクの手元には見たこともない大金の山が転がり込んでいた。
いつしかボクの周りには王様や、姫王子様や、貴族たちが普通に居る生活が当たり前になっていた。
それはボクが思う奇跡の範疇を突き抜けていて、最早白昼夢の世界だった。
まるで雲の上を歩いているみたいに足元が覚束なくて、この頃からボクは言いようのない不安を感じるようになっていた。
タイガの歩みは速い。
そのスピードにいつか自分が置いていかれているかもしれないと考えると、全身が凍り付きそうな程の恐怖を覚えた。
それでもボクはタイガの背中を追いかけることを諦めたくはなかった。
だってタイガはボクの一番星だ。
宵の空に、燦然と輝く憧れと希望の星。
だからタイガがユリアナ様と何やら二人きりで夜の甲板に居たところを見ても、テルマが森で大活躍をしたと聞いても、ボクには嫉妬する権利もないし、そんな立場ですらもない事もよくわかっている。
タイガは宵の明星であり、その周りには沢山の星たちが輝いているのが当然なのだから。
今のボクは、地上からその星を眺めているだけが精一杯の、ちっぽけな存在でしかない。
そんな事は胸が痛くなるほどにわかりきっている。
だからこそボクはその星空に触れようと、その瞬きに少しでも近付こうと頑張ってきた。努力してきた。試行錯誤していた。
毎日村の診療所で魔力を使い切った後は、夜な夜なハティの魔法の使い方を参考に、ボクなりの、ボクにしか出来ない魔法の使い方の研究と鍛錬に費やした。
その結果、三千メルテもある落とし穴から落ちても、ボクとタイガは大したケガをすることもなく無事に済んだ。
だからタイガに褒められた時に、ボクは天に昇ってしまいそうなくらいに浮かれていたのに、現実はとても残酷で、ボクはすぐに地の底へと突き落とされることになってしまった。
次から次へと際限なく仕掛けられた魔族の罠に、ボクの魔力はあっという間に底をつき、予備のために持っていた魔法石も使い切り……
ああ、ボクはこの十年、なにをやっていたのだろう……
あの時ハリースを守れなかったのに、結局ボクはまた同じ過ちを繰り返してしまうのだ……
――エマリィ……! エマリィ……!
そうボクの名を呼ぶ声に目を開けると、心配そうな顔をしたタイガが覗き込んでいた。
「ああ、よかった! なかなか目を覚まさないから心配したよ……!」
「ここは……?」
どうやらボクは地面に寝かされていたらしい。
体を起こしてみると、体のあちこちに痛みが走ったが、我慢できない痛みではなかった。
そして頭上の空間に展開している立方体群に気が付いて、ボクの胸にちくりと痛みが走った。
どうやら一番下まで突き落とされて振り出しに戻ってしまったようだ。
ボクは残酷な現実を突きつけられているようで、思わず目を逸らして俯いた。
「ごめん。落下する時に精一杯エマリィをかばったつもりだったけどどこか痛む? 俺はもうポティオンで体力回復したから、治癒魔法はエマリィが使ってくれていいよ」
「……タイガが謝ることないよ。ミスをしたのはボクの方だもの。それに予備の魔法石も使い切ったから、ボクはもう魔法が使えないの……」
「ああ、そうか。じゃあこれ飲んで」
と、タイガは自分の
その余りにも普通すぎる態度にボクが呆気に取られていると、タイガはきょとんとした顔でボクを見返してくる。
「どうしたの、エマリィ――?」
その本当に心配そうに覗き込んでくるタイガの顔を見て、ボクは思わず吹き出してしまう。
、と同時に肩の力が抜けて、胸の一番深いところがほんわかと温かくなるのを感じた。
そう。これこそが、タイガと言う人間なのだ。
ボクはハリースを守れなかった十年前から大して成長もしていないけれど、タイガは
ボクはまたしても同じミスをして、大切な仲間を守れなかったと責任を感じていた。
タイガから叱責の言葉や、最悪絶縁状を突き付けられることも覚悟して身構えていた。
でも、いま目の前に居るタイガという
だから、ちょっとやそっとの事では命を落とさない。
その厳然たる事実が、ボクの張り詰めていた両肩からすっと力を抜いてくれる。
タイガと出会えた事は奇跡で、タイガを守れなくても、命を落とすことにならなかった事も奇跡なのだ。
あの出会いの日から今も、奇跡はずっと続いていたのだ。
この奇跡を前に、ボクは勝手に落ち込んで意固地になっている暇などないと思い知らされる。
落ち込んでいたら、それだけ一番星との距離はどんどん離れていくだけだ。
ボクは這いつくばってでも、タイガとの距離を縮めたい。
縮めてやるのだ。
「――タイガ、ごめん。ちょっと考え事してた。でももう自己解決したから。それちょうだい」
ボクはタイガの手からポティオンを取ると一気に飲み干した。
すると今度はそんなボクを見て、タイガが何か言いたそうな顔を浮かべている。
「どうかしたの?」
「あ、いや、なんと言うか、ポティオンで回復したばかりだから取りあえず少し休もう! 幸いあの立方体は脱出を邪魔するだけで、一番底に居る限りは攻撃してこないみたいだし……。休みながら脱出方法を考えようか」
と、何故かしどろもどろにそう答えるタイガ。
どこか挙動不審な態度が気になったが、魔力切れからくる倦怠感がまだ残っているので、休憩は正直に言ってありがたい。
タイガが地べたに胡坐をかいて座ったので、ボクもその対面に腰を下ろした。
ポティオンは体力回復の効果はあっても、魔力の回復まではしてくれない。
古代の魔術書には魔力回復の薬品の記述もあるみたいだが、現代ではまだその薬は復元出来ていないのが実情だ。
ボクはその薬が手に入ればいろいろと助かるのになぁとぼんやりと考えていると、タイガがどこか緊張して上擦った声で話しかけてきた。
「あ、あの、エマリィさ、一つだけ話があるんだけど……」
「話? なに……?」
ボクはつい身構えてしまう。
もしかしたら能力不足によるパーティーメンバーからの除外だろうか。
もしそうだったとしたら、ボクはなんて答えればいいんだろう。
どうやってボクの気持ちを伝えられるんだろう。
ボクの緊張が伝わったのか、タイガが更に緊張するのがわかった。
その並大抵ではない緊張っぷりを見て、ボクの予想は確信に変わり、胸にぐさりと痛みが走った。
「あ、あの、昨日の夜のことなんだけどさ……」
昨日の夜!?
昨夜はボクなにかヘマをしただろうか……?
真っ白な頭の中をかき回して記憶を探してみるが心当たりがない。
「いや、ほら俺とユリアナ姫王子が甲板へ行ったら、エマリィとばったり会ったじゃん……?」
「あ……」
ああ、そっちか!
ボクはほっと胸を撫で下ろす。
が、すぐに新たな胸騒ぎがこみ上げてくる。
ボクはこの言葉では言い表せない、なんとも言えない複雑でもやもやとした感情に戸惑うばかりだ。
「も、もしかしたら俺の考えすぎなのかも知れないけど、エマリィに勘違いされてないかなって。昨日は姫王子が俺に内密のお願いがあるからって言うもんだから、誰にも聞かれることのない甲板へ二人で行っただけなんだ……! エマリィはそんな事に興味はないかもしれないけど、一応姫王子も年頃で変な噂が立っても困るだろうし、エマリィも同じパーティーメンバーとして気になってたんじゃないかなあって……! それに何より俺がエマリィに誤解されたままじゃ困るって言うか…嫌だって言うか…その、そういう事で、つまり……」
たぶん、ボクは放心していたかもしれない。
そして、口許はニヤけていたかもしれない。
何故口許や頬が、こんなにもだらしなくニヤけてしまうのか、自分でもよくわからない。
でも、これだけははっきりとわかった。
胸の奥底にあった黒くてもやもやとした霧が、突風に吹き飛ばされていたことを――
なんだろう。ここ最近ずっと感じていた鬱積した感情が、綺麗さっぱりと昇華されたような清々しい気分は――
「タ、タイガとユリアナ様は結婚するんじゃないの……?」
「ま、まさか! いや、王様とオクセンシェルナはそのつもりでユリアナ様を派遣したみたいだけど、俺はそんな気は毛頭ないから! それにユリアナ姫王子も!」
その後で、タイガはユリアナ姫王子との会話の内容を事細かに説明してくれて、ボクはその予想外の内容に、どう反応していいのかわからなくて思わず頭を抱えていた。
「なんか…ユリアナ様って凄いや。ぶっ飛んでると言うか、破天荒と言うか……。でもタイガどうするの? その相談に乗ってあげるの?」
「うん、まあそのつもりだけど、いろいろと制約はつけようかと思ってる。よし、とりあえず俺は話したかったことは話せたからもういいや! じゃあ休憩はそろそろ終わりにして、また地上を目指しますか!」
と、元気よく立ち上がるタイガ。
「で、でもどうやって? ボクは当分魔法は使えないし、まだ作戦も立ててないよ?」
「地道にトライアルアンドエラーを繰り返すしかないっしょ! それにピノたちがここに居ないって事は、どうやら敵の狙いは俺をここに縛り付けておくことみたいだから。一刻も早くグランドホーネットへ戻れるように頑張るしかないって感じ!?」
と、タイガはボクに向かって手を差し出した。
ボクは今の今までピノたちのことをすっかり忘れていて、タイガの言葉でようやく思い出したので、その事を恥じつつも、今は落ち込んでる場合じゃないと気持ちを切り替えた。
そして、タイガの手を掴んで立ち上がろうとすると――
指先にビリリと静電気のような感触が走って、ボクは思わず腕を引っ込めようとするが、タイガはお構いなしにボクの手を引っ張った。
もしかしてタイガは
タイガがボクの手を強く握っている間も、その奇妙な感触は手の平を通じてボクの体へと伝ってくる。
いや、ボクの体の中へと流れ込んでくる!
「こ、これって、もしかして……!」
ボクの頭の中で何かが閃いて、記憶の断片が次々と呼び起こされた。
それはタイガの背中に刻まれている魔方陣や、ライラの体やグランドホーネットにもあった魔法陣だ。
それら魔法陣には、一つ一つが微妙に違う古代文字が描かれていたが、共通した役割はタイガの
そうしなければ、その高度な魔法の産物は維持出来ないからだ。
そのボクの予測が正しいとするならば、タイガの肉体は常に絶え間なく魔力が補充されていると言う事になる。
つまりそれは、どんなに魔力を消費しても減らない一種の魔法石とも言える。
そしてタイガが簡単な初級レベルの治癒魔法や攻撃魔法が使えないのは、背中の魔法陣が吸い寄せた魔力は
きっと、タイガをこの世界に召還した何者かは恐れたのだ。
タイガに超絶な魔法力を行使してもらいたいと言う思惑があった反面、その
だから、魔法陣に魔力の使用についての制約と言う保険を掛けたことは十分に有り得る。
しかしその保険には、一つの落とし穴があったとするならば……
魔法陣が吸い寄せた魔力の行使は、魔法陣が刻まれた者のみに認めていても、もしその体に第三者が触れていたとするならば……
ボクの頭の中に、幾つもの映像がフラッシュバックする。
それはタイガが
武器もそう。ボクはそんな光景を、何度もこの目で見てきている。
そして幸運だったのは、ボクはいま魔力を使い切って、全身がカラカラの状態だったことだ。
魔力が完全に枯渇していたからこそ、魔力の微かな伝導にも敏感になっていたのかもしれない。
それに今はまだはっきりとはわからないけれど、村での治療行為で連日魔力を使い切ることを繰り返していたことも、何か関係があるのではないのか。
確証はないけれど、何故かそんな気がする。
ボクがタイガに置いていかれそうな不安を感じ、身分が高い人たちや、実力がある人たちに囲まれて焦ってもがいていた日々も、決して無駄ではなかったのかもしれない。
全てはこの日のため、この瞬間へと繋がっていたと思いたい。
いろいろな光景が、いろいろな記憶が、いろいろな状況が、いろいろな仮説が、今までバラバラだったそれらが、一本の線によって繋がり、一つの道となっていく。
「――タイガ! ボクたちが出会えたことは、やっぱり奇跡なんじゃないかな!」
「え!? え!? エマリィ、どうしたのいきなり……!?」
「少なくとも、ボクにはそう思えて思えて仕方がないよ――!」
ボクは、タイガの手を力一杯に握り締めた。
「ボクはタイガの足りない部分を補える自信がある! そして、ボクが足りない部分はタイガが補ってくれる! だから、ボクはタイガに追いついて見せる! 一番星の横に、絶対に並んで見せるから!」
ねえ、ハリース。
タイガと出会わせてくれたのは君だよね?
こんな頼りないボクでごめんね。
でもたまに落ち込んだりもするけれど、ボクは諦めないと約束するから……。
「だからしっかりと見てて! 今まで頭の中でどれだけ想像しても、魔力不足で実現なんて出来なかったけど、タイガが居るから今なら出来る! タイガが力を与えてくれるから! だからボクを見て!」
ボクは絶対に一番星に届いてやるんだ。
いつも大切な人を守れる自分であるために――
「――これがなりたくてもなれなかった、でもタイガが居るからなれる理想のボクの全力ですっ!」
ボクは右手を頭上に掲げた。
タイガの手を掴む左手を通して伝わってくる膨大な魔力が、ボクの中を駆け抜けて右手から解き放たれる。
光の奔流はボクの頭からイメージと意思を読み取って、呪文の詠唱も必要とせず具象化されていくが、ボクは後追いで叫んでいた。
この魔法のイメージと感覚を、より明確にして自分自身の中へ深く刻みこむために――
「
右手から放たれる無数の光の粒子。
星屑のような光の粒子たちは穴全体に広がっていき、数千近い全ての立方体の先端で光り輝く丸い盾となって、立方体の動きを完全に封じ込めた。
「す、すげえ!」
隣でタイガが息を呑んでいる。
ボクは思わず口許がニヤけそうになるが気を引き締めなおすと、更に右手に力を込めた。
「――
声に合わせてボクたちの足元に、光り輝く道が浮かび上がった。
それは長大な巻物が転がるようにして、無数の立方体の間をすり抜けて地上まで続いている。
「タイガ駆け上がって! 早くグランドホーネットへ戻るんでしょ!?」
ボクは呆気に取られているタイガの背中へ飛び乗ると、その大きな背中を力一杯叩いた。
「お、おう……!」
我に返ったタイガは恐る恐る光の架け橋へ飛び乗ると、そのまま地上へ向かって走り始めた。
ボクはその背中にぎゅっとしがみ付くと、少しだけタイガに追いつけた気分になって胸が高鳴った。
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