第四十五話 謎のゴーレム軍団・5

 俺は巨大樹の間を、突風の如く疾走した。

 走りながらランダムにジャンプを繰り返して、両サイドから襲い来る星球モーニングスターの弾幕を翻弄する。


 疾走疾走疾走ジャンプジャンプ疾走ジャンプ――

 ジャンプをする両足にも自然と力が入り、気合いを込めて大ジャンプを繰り出したその時――


シュポン! シュポン!


 と、前方で特徴のある発砲音が鳴り響いたかと思えば、俺の両脇をギリギリですり抜けていく二筋の砲弾の軌跡。

 その直後、背後の森の中で二つの爆発が沸き起こって、小型ゴレーム軍団の一部が宙に舞った。

 目を凝らして前方を見れば、そこには多腕射撃支援アラクネシステムにグレネードランチャーを二つセットした八号の姿が。


「――ソルジャーオメガ! 命令違反ですけど加勢させてもらいます!」


 八号は腰から伸びたフレキシブルアームを巧みに操って、巨大樹の枝から枝へと飛び移りながら、ベビーギャングとグレネードランチャーで周囲に向かって制圧射撃を行う。


「は、八号、どうして……!? お前はテルマの護衛をしてろと言っただろ……!?」


「ソルジャーオメガ――いやタイガ先輩! テルマさんはライラちゃんさんが付いているので大丈夫です! それにライラちゃんさんも、タイガ先輩の元へ行けと言ってくれました! 自分もライラちゃんさんも、もうただのNPCじゃありませんから! 自分たちが何をすべきなのか、最善を考えることが出来るんです! もし自分が人造人間ホムンクルスとして生まれ変わった理由があるとしたなら、きっとそれはタイガ先輩をこうして助けることなんじゃないですかね! 少なくとも自分はそう思いますっ!」


「くはっ、泣かせること言うじゃないか! じゃあ十秒だけ甘えさせてもらうぞ!」


 俺は巨大樹の影に身を隠すと、フェイスガードを解除した。

 そしてABCアーマードバトルコンバットスーツの、腰ポケットから妖精袋フェアリーパウチとポティオンを取り出して、二本まとめて一気飲みした。


 おかげでHPは八割近くまで回復だ。

 しかしそれ以上に全身に力が漲っているのは、ポティオンの効果だけじゃないことは胸に染みるほどに理解していた。


「よし八号! 大口を叩いたんだから遅れずについて来いよ! 一気にテルマたちの元まで駆け抜けるぞ!」


「了解です先輩!」


 俺と八号は競うようにジャンプを繰り返して、森の中を突き進んでいく。

 そしてしばらくすると、前方に饅頭のような形をした土山が見えてきた。。

 平らな地形の中に、いかにも不自然に盛り上がっているその土山こそが、テルマとライラが身を潜めている場所だった。


 今テルマは土山の中の空洞に身を潜めて、辺り一体の地面に魔力の網を張りめぐらせている筈。ライラはその護衛だ。

 土山を中心に半径百五十メートル以内に巨大ゴーレムを誘導して、術者の居場所を探り当てる――

 それが俺が立てた計画だった。


――タイガさんの姿を確認しました! こっちの場所はわかりますか!?


 早速ライラから通信が飛んでくる。土山には覗き窓でも設置してあるのだろう。


「大丈夫。はっきりと見えてる。ただちょっと騒がしくなりそうだ! いつでもテルマを連れて逃げられる準備をしておいてくれ!」


 ライラが何か喋った気がしたが、背後から迫り来る地鳴りのような轟音にかき消されてしまう。

 振り向けばタコもどきゴーレムは、六本の触手を横いっぱいに広げてコマの様に高速回転をしながら、ぐんぐんとスピードを増して接近していた。


 その様はまるで巨大な仮払い機の刃のようだ。

 高速回転する六本の触手は、周囲の巨大樹を一瞬にして刈り取っていき、刈られた巨大樹はまるで張りぼてのようにポンポンと宙を舞って、辺り一帯に雨のように降り注いでいた。


「――ヤケクソかよっ! 八号! ここで迎え撃つ! 総当り攻撃ブルートフォースアタックモードで援護を頼む!」


「任せてください先輩っ!」


 四本のフレキシブルアームにアサルトライフルとグレネードランチャーをセットし、自身の両腕にはベビーギャングを構える八号。

 そして俺は大木を蹴って三角飛びの要領で一際高くジャンプすると、音声コマンドを詠唱した。


「ボイスコマンドオーダー! 換装! ビッグバン・タンク! 武器選択ヘカトンケイル! 二丁持ちトゥーハンド!」


ガチャガチャガチャカシャカシャカシッシャキーン!


 跳躍中の俺の体からフラッシュジャンパーが光の粒子となって霧散すると、間髪入れずに出現したビッグバンタンクのパーツが、小気味よい音を立てて全身を包み込んでいく。

 その両手には、高レベル武器のガトリングガン・ヘカトンケイルが。

 落下の途中で二丁のヘカトンケイルが、高周波と共に銃身を高速回転させて射撃体制へ入る。

 そして着地と同時に、まずは右手のヘカトンケイルが火を噴いた。


BRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!


 一秒間に約三十三発発射される11.4ミリナノマテリアル弾が、タコもどきゴーレムに獰猛な牙を剥いた。

 高速回転する触手は粉微塵に粉砕されて、球状の本体に無数の破孔を穿つ。

 その凶暴な威力は、球体ゴーレムの突進すらも受け止めて、巨体を後ろへと押し戻していく。


 しかし負けじと球体ゴーレムも、更に回転を増して速度を上げた。

 そして周囲の地面から幾つもの土柱が立ち上がったかと思うと、それらは鉄色の粒子となって、球体ゴーレムの破壊された鉄肌を補修しはじめるではないか。

 一つ目のヘカントンケイルが全弾を撃ち尽くしたタイミングも相まって、タコもどきの進撃が再開する。


「まだまだぁ!」


BRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!


 間髪入れずに、左手のヘカトンケイルが狂獣の如く咆哮した。

 その直後、ライラからの入電が。


――タイガさん! わかりました! そこから十時の方向です! テルマさんがそちらから魔力が流れてくると! 正確な距離はわからないけど、三十メートル以上離れた地点のどこかに術者がいるそうです!

 

「待ってましたっ! それだけわかれば上等だ! ボイスコマンドオーダー! 武器選択グレネードランチャーMA-70!」


 右手の装備がMA-70へ切り替わり、俺は両手を交差させて十時の方向へ狙いを定めた。

 そして引き金を引くと同時に、銃身を上へスライド。

 射角を約二十度から六十度の範囲で銃身を動かすことによって、十連発の特殊クラスター弾は程よくバラけて、着弾範囲はより深く遠くへと届く。


 十時方向の森に、威勢よく火柱と電撃が立ち上がって、周囲の空気をびりびりと震わせた。

 それとほぼ同時に、球体ゴーレムの動きが明らかに鈍り、牛歩並みの速度まで低下し始めた。


 その姿を見て俺は勝利を確信し、MA-70のリロードタイムを待ってから、止めとばかりに十時方向の森へ再度グレネード弾をばら撒いた。

 そして二度目の爆発と電撃が立ち上がると、目の前の球体ゴーレムはまるで水風船が破裂でもしたみたいに崩壊して、土と砂の山へと変わり果てたのだった。


「タイガさーん、一件落着ですね!」


 振り向くと、ライラが多腕射撃支援アラクネシステムでテルマを抱きかかえて、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。


「おいおい、まだ小型ゴーレムは残ってるんだぞ。トーチカの中に居た方がいいんじゃないのか!?」


「私にだって少しはいいカッコさせてくださいよー! ピノとピピンに土産話の一つでも持って帰らないと、あの子たちに合わす顔がないじゃないですかぁ! それにテルマやんも――!」


「うん、サンプルは多ければ多いほうが嬉しいっす。ライラの妖精袋フェアリーパウチを使わせてもらうことは既に交渉済みだから、出来る限りチョー持って帰りたいっす!」


 と、テルマは舌なめずりをしながら、指をボキボキと鳴らして見せた。


「ああ、はいはい。とりあえず無茶はしないでくれよ。じゃあサクッと片付けて術者の痕跡を探しに行きますか」


 そんな俺の言葉を合図に、残った小型ゴーレム軍団の掃討を始めようとした矢先。

 突如として術者が居たであろうと思われる方角から、むくむくと立ち上がる巨大な影――

 それは超巨大ゴーレム――いや、ゴーレムと言うには歪で、人型を成しておらず、例えるならば巨大な壁と言うべきか。


「そ、そんな……! 術者は倒れた筈なのにどうして……!?」


 テルマは青ざめた顔で両手を地面に伸ばす。しかし、その表情は更に曇っていくだけだ。


「魔力がどこからも流れていない……? それじゃあのゴーレムの中に術者が……!?」


「ち、ちょっと、ヤバくないですかタイガさん!?」


 と、ライラ。

 巨大な鉄色の壁は、今もグネグネと絶賛成長中だ。

 既に高さは二百メートル以上、幅は五十メートルくらいってところか。厚みはここからではわからない。


「なんなんだよ、巨大なぬりかべかっての……!」


 思わず呟いた自分の言葉に、俺ははっとした。

 そして、その視界の隅で巨大鉄壁がぐらりと傾いたのを見て、疑惑が確信へと変わった。

 どうやら敵は正攻法では敵わないと察して、この辺り一帯を俺たち諸共まるごと押し潰すつもりらしい。

 今からどこかに逃げている時間はない。

 傾いた巨大鉄壁は、ぐんぐんと速度を上げて倒れこんでくる。


「ボイスコマンドオーダー! 換装アルティメットストライカー! 武器選択ストライクバーストドリフター!」


 俺の全身が光り輝いてアルティメットストライカーへ換装。その肩には全長三メートルのドリルミサイルがセットされたミサイルランチャーが。

 ゲーム内で巨大構造物の破壊を目的に製造されたという設定の、アルティメットストライカーの装備の中でも最強の部類に属する武器だ。


「行けっ! ストライクバーストドリフター!!!」


 音声コマンドに反応して、ストライクバーストドリフターが轟音とともに、巨大鉄壁目掛けて一直線に飛んでいく。

 唸りを上げて高速回転する先端のドリル。

 倒れこんで来る巨大鉄壁の表面に着弾すると、ドリルは更に回転を上げてめり込んでいく。


 そして――

 大轟音とともに、内部から弾け飛ぶ巨大鉄壁。

 無数の破片は魔力の力場から解放された為か、空中で土や砂へ戻ると辺り一面に雨のように降り注いだ。

 倒れ掛かっていた巨大鉄壁の真下に居た俺たちには、まさに文字通りの土砂振りだった。


「マ、マジか――!?」


 圧倒的な量の土や砂が、頭上から雪崩のように一気に降り注ぐ。

 俺たちは逃げる間もなく、大量の土の山へ飲み込まれてしまう。


「ふ、ふざけんな、最後の最後まで手を焼かせやがって……」


 何とか土山の表面に這い出た俺は、ヘルメットを脱いで必死に皆の名前を大声で呼んだ。


「おーい、ライラ! 八号! テルマ! どこだ!? 大丈夫なのか!? 頼む、返事をしてくれ!」


 しかしその問いかけに何の反応も無いので、血相を変えて所かまわず辺り一面を掘り返し始めると、少し離れた所からライラの声が聞こえてきた。

 振り返ると、多腕射撃支援アラクネシステムの四本のフレキシブルアームが、器用に土を掻き分けながらライラの身体ごと地表へ這い出てくるところだった。


「た、助かりましたぁ……! この多腕射撃支援アラクネシステムが無かったら、ライラちゃん生き埋めになるところでしたよぉ……!」


「ライラ……!」


 俺が安堵するのも束の間、今度は八号が同じように多腕射撃支援アラクネシステムを使って地表へ出てきた。


「おお、八号大丈夫か!?」


「じ、自分はなんとか大丈夫です……! しかし今のは危なかった……!」


 と、八号は力尽きたように、その場へとしゃがみ込んだ。


「テ、テルマは……!?」


 俺の問いに、八号とライラの顔色が変わる。


「まだ見つかってないんですか……?」


「雪崩の直前までライラちゃんの近くに居たんですけど、その後のことは……でも……」


 俺たちが最悪の事態も考慮して顔を見合わせて立ち尽くしていると、三人の中央の地面に突如として丸い穴が開いた。

 そして、その中からせり上がってきた床の上には、胡坐をかいて座っているテルマの姿が。

 しかもその傍らには五体の小型ゴーレムが、ピラミッド状に積み上げられているではないか。

 小型ゴーレムは土で出来た鎖で雁字搦めにされていて、四本の足をジタバタとさせていた。


「土砂に巻き込まれた時に、同じように巻き込まれた小型ゴーレムを見つけたので捕縛してきたっす。最後の最後で思わぬチョー大漁っす。ふひひ」


 と、テルマは呆気に取られている俺たちを尻目に、自慢げに小鼻を膨らませてサムズアップ。


「お、おう……」


 とりあえず一件落着なのか……?

 なんだかどっと疲れが出てきたので、一件落着ということにしておこう。

 そのまま俺たちは帰路についた――

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