第二十七話 決着。そして――

 俺はダッシュして一気にタリオンとの間合いを縮めていく。加速しながらキュベレーオメガを放り投げて、背中の多腕支援射撃(アラクネ)システムを切り離す。


「ボイスコマンドオーダー(VCO)! 武器選択! アマテラスF-99!」


 間合いが五十メートルほどの地点で急停止。


 と、同時に右手に実体化したアマテラスF-99を、スコープも覗かず腰だめ撃ちで撃ちまくった。


 肉の壁がまるで生クリームのように吹き飛んでいくが、次から次へと周囲の肉が怒涛の如く被弾箇所に押し寄せては穿たれた孔を瞬時に塞いでいく。


 しかしアマテラスF-99の凶暴な破壊力はその再生力を凌駕していた。


 その凄まじいまでの破壊力に恐れをなしたのか、タリオンは被弾箇所を肉の壁で修復すると同時に、肉塊の周辺に魔法防壁を幾重にも展開し始めた。

 

「ボイスコマンドオーダー)! 武器選択! 七つの大罪セブンス・シン二丁持ちトゥーハンド!」


 アマテラスを全弾撃ちつくしてリロードに突入と同時に、すかさず七つの大罪セブンス・シンの二丁持ちに切り替える。


 点の攻撃から面の攻撃へ――


 防戦一方になったタリオンに対して追撃の手を緩める気など毛頭ない。


 圧倒的な火力を間断なく投入して敵を粉砕する。それが俺の戦い方だ。


 そしてそれを可能にしているのが、この異世界で具現化した空想科学兵器群(ウルトラガジェット)の存在だ。


 ゲーム内の産物である超兵器群(ウルトラガジェット)がこの異世界で具現化して、ゲーム内とは違うことは幾つかある。ライラや八号がゴーレムとして転生している事もそうだし、グランド・ホーネットのシステムも然り。


 しかし最大の違いは武器の制限解除と言っていい。

 

 ゲーム内では通常ミッション開始前に、装備するABCアーマードバトルコンバットスーツを選択し、使用する武器を二つだけ選べるようになっていた。ミッションが始まれば、攻略途中での装備変更は許されない。それがゲーム性であり、攻略するための戦略性へ繋がっているからだ。


 しかしこの異世界で具現化したことにより、その制限から解き放たれた。ABCアーマードバトルコンバットスーツはいつでも自由に換装できるし、装備する武器も二種類だけではなく、次から次へと選択し装備することが可能になったのだ。


 この制限から解き放たれたこそが、異世界で具現化した超兵器群(ウルトラガジェット)の真髄であり、醍醐味と言っていいだろう。


 なにせ使用している武器がリロードタイムに突入すれば、次の武器に切り替えてやればいい。それを延々続けることで間断なく攻撃し続けることが可能になるのだ。


 しかもコマンドルームに収納されている間もリロードタイムは進行するので、理論的には永久的に攻撃をし続けることが可能というわけだ。


 もし高レベル武器だけを延々と使い続けたならば、その時の攻撃力とは一体どれだけのものだろうか。


 それを想像しただけで俺の腹の奥底が熱く滾り、この戦法を切り札にしようと決めていた。


 そして今までの攻撃力の目安としての武器ごとによるDPS-Damage Per Second秒あたりの攻撃力)や弾倉単位での火力よりも、この切り札の攻撃力を表す最適な言葉はDPL‐Damage Per Loopループ一巡当たりの攻撃力が相応しいように思う。


 しかしアルティメットストライカーの最大DPLを求めようにも、実はボーナスウェポンのコンプリート特典武器で、アルティメットストライカー最強を誇る「ザ・ハンドレッド」は、ゲーム内でもその攻撃力は公開されていなかった。


 そのマップ上の敵が全て消し飛ぶ大規模広範囲の徹底した殲滅っぷりは、使用タイミングを少しでも間違えれば自爆は必至という諸刃の剣であり、どちらかと言うとクリア成功者のためのネタ武器に近く、およそ実用的ではない。


 だから必然的にその「ザ・ハンドレッド」は除外せざるを得ないが、その場合のアルティメットストライカーのDPLは約250000という数値を誇る。


 しかもこれはあくまでループ一巡辺りで、武器も片手持ち限定という最低の数値だ。


 もし一巡目の攻撃で敵を撃破出来なかった場合、二巡目は片手持ちの武器を両手持ちの二丁にしたり、多腕射撃支援(アラクネ)システムを併用することで、数値はまだまだ上昇する余地がある。


 更にそれでも敵わない敵の場合は、兵種最強の火力を誇るビッグバンタンクへ換装すれば、このDPLは更に上昇する。


 この補給を気にすることのない圧倒的な火力(ファイアパワー)の暴風雨の中へ敵を引きずり込み、相手が倒れるまで延々とループ攻撃することが可能な破壊的で至福の時間を、俺はコンピューター用語の無限ループを表す言葉をもじってこう名付けることにした。


 《ACSELアクセル――オルダーソン・コンボ・ストーム・エターナル・ループAlderson COMBO Stoom Eternal Loop すなわちアクセルタイム》と――


 そしてそのアクセルタイムは絶賛進行中だった。


 二つの七つの大罪セブンス・シンから放たれた十四発のグレネード弾が魔法防壁の表面で炸裂する。


 爆発の衝撃と爆風で一気に魔法防壁が消し飛んだが、すぐに新しい魔法防壁が続々と肉塊を覆い始めた。


 その展開スピードが七つの大罪セブンス・シンのリロードタイムを遥かに上回っていたために、せっかくの攻撃チャンスをふいにしてしまい思わず舌打ちする。


「ボイスコマンドオーダー! 音声コマンド! 武器選択! HAR-88!」


 右手の七つの大罪(セブンス・シン)をHAR-88に切り替えて、新たなに張り巡らされた魔法防壁のうち、肉塊正面の一枚に的を絞ってナノマテリアル弾の連射で叩きこんだ。


 一点集中攻撃でこじ開けた防御の隙間に、リロードが完了した左手の七つの大罪(セブンス・シン)を叩き込む。


 七連続の爆撃に肉の壁が盛大に吹き飛んで白タリオンの全身が露となった。


 白タリオンは引きつった顔で周囲の肉片をかき集めて自分の身を隠そうとするが、全身が覆われる直前にリロードタイムが終了していたHAR-88の銃口が火を噴いた。


 白タリオンの腹部に無数の弾痕が一列に駆け抜ける。


「ぐうおおおおおおおおおおおおお!!!」


 タリオンの苦痛にまみれた声が響き渡った。


 そして巨大肉塊の表面から無数の触手が飛び出して襲い来る。


「ボイスコマンドオーダー! 武器選択! HAR-88 武器選択! 多腕支援射撃(アラクネ)システム! 武器選択! ミサイルランチャー・ストライクバーストドリフター!」


 左手の七つの大罪セブンス・シンを放り投げて、HAR-8を二丁持ちトゥーハンドに切り替える。


 背中の多腕支援射撃アラクネシステムと合わせた総当り攻撃ブルートフォースアタックモードで、四方から迫りくる触手の波状攻撃を次々と撃退していく。


 そうして触手攻撃を全て防ぎきったあとは、右肩に装備したストライクバーストドリフターの出番だ。


 ミサイルランチャー・ストライクバーストドリフターは「ミサイル/ロケット砲」の中で最高ランクの位置づけの武器であり、一発辺りのヒットポイントも十五万とアルティメットストライカーの装備の中でも最強に部類する武器だ。


 装弾数は一発のみでリロードタイムも長い。ゲーム内では対プラント用兵器として開発されており巨大構造物を一撃で破壊する威力を秘めている。


 肩乗せ式の発射台ランチャーには、先端にドリルが装備されている全長三メートルの特殊ミサイルが剥き出しに鎮座しているのが特徴で、ほかの肩乗せ式ミサイル同様発射は音声コマンドのみとなっていた。


「ぶちかませ! ストライクバーストドリフター!!!」


 俺の叫び声と同時に巨大ドリルミサイルが一直線に巨大肉塊の元へと飛んで行く。


 途中で幾重にも魔法防壁が張り巡らされるが、高速回転する先端のドリルが難なく打ち砕いていく。


 肉塊の表面から新たな触手が生まれて、ストライクバーストドリフターの進行を食い止めようと闇雲に襲い掛かったが、HAR-88の弾幕がそれを許さなかった。


 そして――


 黒い肉壁にドリルが食い込んだ。


 着弾と同時にドリルの回転が高周波の唸り声とともに更に上がっていき、ミサイルの三分の二が肉の壁を突き破りながら強引にめり込んでいく。


 その刹那、内部からの凄まじい圧力によって肉塊が歪に変形したかと思うと、一気に盛大な爆音とともに激しい閃光と大爆発が起きた。


 その凄まじい爆発の衝撃波で、五十メートル近い間合いを取っていた俺の体にもビリビリと衝撃が伝わり、HPが五百ほど削られていく。


 しかし俺はHPが削られることもお構いなしにその衝撃波を掻い潜って爆心点を目指していた。


 走りながらアマテラスF-99を装備する。


 そしてまだ煙が立ち込めているクレーターの底で、全ての肉壁を吹き飛ばされて生身が露になって倒れている白タリオンを見つけると、すかさずアマテラスの銃口を突きつけた。


 タリオンの全身は煤と埃と真っ赤な鮮血に塗れて無残に変わり果てていたが、その周囲ではいまだに細切れになった小さな肉片がうにょうにょと蠢いていた。


 その恐るべき生命力に思わず絶句してしまう。


 しかしストライクバーストドリフターの大爆発で肉片の大半は広範囲に飛び散っている。


 タリオンの元へ戻ってくるには相当の時間を要するはずだ。つまり決着はもうついたということ。


 そのことはタリオン自身がよくわかっていたようで、地べたに仰向けで寝転がり苦悶に歪んでいる顔には、どこか清々しさを感じさせる色が滲み出ていた。


「くっ……! ここまで力量の差があるとはな……! さすが稀人マレビト……少年よ、大したものだ……!」


「あんたに一つだけ聞きたいことがあるんだ。何故俺がこの世界にやって来たことを知っていた? あんたは稀人マレビトを目当てに海を渡ってきたんだろ? 一体どうやって俺のことを……?」


「……稀人マレビトの少年よ。お前は強い……お前の信じた道を行けば、よい……」


「いや、それじゃあ答えになってないよ! 俺が聞きたいのは……!」


 タリオンは大きく目を見開いたかと思うと、ゴボッと咳とともに血を吐き出した。そして焦点のあっていない両目で空を睨みつけると、忌々しそうな笑みを浮かべた。


「どうやら、もう時間切れのようだ……。止めはお前の手で、死力を尽くして戦った者同士の手で……頼む……!」

「ち、ちょっと待ってくれよ! 俺の質問の答えはまだ……!」


 その時だった。

 頭上で雷鳴が激しく鳴り響いたかと思うと、幅が二メートルはありそうな巨大な稲光が一閃。

 目の前に落下した衝撃で、俺の体は弾かれたように吹き飛ばされていた。

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