第二十六話 |空想科学兵器群《ウルトラガジェット》vs魔族軍大将

 俺が平野に降り立った時には、黒い肉塊は全長三十メートルほどにまで成長していた。まるで巨大な黒いミートボールだ。

 

 先ほど俺とハティが倒した黒騎士たちの死体が綺麗になくなっていることからして、全て吸収合体したらしい。


 察するにタリオンと黒騎士たちは元々全員で一つの生命体だったのかもしれない。


稀人マレビトの少年よ、思い切り楽しもうぞ! いざ尋常に勝負!!!」


 巨大ミートボールのごつごつとした表面が奇妙に波打つとタリオンの声が響いた。どこか楽しげで自信に満ち溢れた声だ。そしてその声を皮切りに、巨大肉塊から数本の触手が伸びて四方から襲い掛かってくる。


 俺は開けた場所へ移動しようと左へ大きくジャンプしながら、HAR-88をぶっ放して触手を撃退。


 HAR-88は一発辺りのヒットポイントは五十しかない。しかし総弾数は二百発もあるので弾奏火力に換算すると一万ヒットポイントとなる。


 しかもリロードタイムは全武器中でもトップランクの早さを誇るために、オールラウンドで活躍できて使い勝手がよい。


 現に今ジャンプした時も迫り来る四本の触手に空中で全弾叩き込んで粉砕し、着地する頃にはリロードタイムが八割方終了していて、着地とほぼ同時に次の射撃に入れるといった感じだ。


 しかしそれにしてもタリオンの奇妙な体質は思ったよりも厄介そうだ。


 今しがた撃退した四本の触手はHAR-88の火力によって真ん中辺りで切断されたのだが、地上に落ちた触手の千切れた部分はうねうねとヘビのように蠢いていて、本体まで這いずっていくと肉塊の一部として何事もなかったように吸収合体されていく。


「ちっ、不死身系てヤツなのか!? 面倒くさいことになりそうだな……」


 そうこうしているうちに巨大ミートボールが俺を踏み潰そうと猛然と突進してくる。

 俺は慌てずに落ち着いて後方に大きくジャンプして距離を稼ぐと、七つの大罪セブンス・シンの銃口をぴたりと肉塊のど真ん中へ。


 ジュッポポポポポポポッシュ……と、独特の燃焼ガスの音を立てて五十ミリグレネード弾が七連発で発射されて、肉塊のほぼ中央で立て続けに炸裂した。


「ぐうおおおおおおおおおお!!!」


 と、タリオンの悲鳴と共に巨大ミートボールは盛大に黒い肉片を撒き散らしながら、爆発の威力で後ろへ吹き飛ばされた。


 そして盛大に開いた穴の奥に白い人影が露となった。それは顔はタリオンと同じだったが、肉体は真っ白でか細い。恐らくそれがタリオン本人でこの巨大ミートボールの核だ。


 たぶんこの白いタリオンは最初からどこかに身を潜めていて、黒いタリオンや黒騎士の軍勢を操っていたのだろう。


 たった一人で黒タリオンと五千人という数の黒騎士を操っていただけでも驚きだが、それぞれが複雑な動きをしていたことを思えば、相当な魔力と技術の持ち主らしい。まさに怪物だ。


 七つの大罪セブンス・シンはリロードタイムに突入しているので、咄嗟に白タリオンにHAR-88の銃口を向ける。


 しかしすぐに周囲の肉塊が波のように押し寄せて穴を塞いでしまう。おまけに地面に飛び散っていた肉片もうねうねと絶賛集結中だ。


 だが突破口は見えた。あの核である白タリオンを倒せば、この肉塊も活動を停止するはずだ。


 七つの大罪セブンス・シンの破壊力で上手く肉の壁を剥いでやり、露になった白タリオンにナノマテリアル弾の嵐を叩き込んでやる。


 そしてリロードタイムが終わると同時に、早速グレネード弾を叩き込んでやろうと思ったものの――


「なぬっ!? マジか――!?」


 目の前の巨大ミートボールの表面に波紋のような歪みが広がったかと思えば、突如大小様々な肉塊へと分裂してしまったのだ。


 小さいものは直径二メートルくらい、大きいもので十メートルくらいあり数は全部で十個だ。

 これでは白タリオンがどこに潜んでいるのかわからない。


 しかも最悪なことにそれらが一列になって、一気にこちらに向かって突進してくる。


「洒落になんねえ!!!」


 俺は七つの大罪セブンス・シンの引き金を引きながら右から左へ銃身を振った。そうすることで七連発発射されるグレネード弾が、綺麗に一列の爆炎の壁を形成してくれる。


 そのあとでHAR-88を捨てて、二つ目の七つの大罪セブンス・シンを呼び出して二丁持ちトゥーハンドへと切り替えた。


 こういう場面ではHAR-88だとストッピングパワーが圧倒的に不足しているからだ。


 爆発で吹き飛ばされた肉塊どもは、それぞれがバラバラに転がって四方八方から俺を目掛けて猛進してくる。


 俺はABCアーマードバトルコンバットスーツの機動力を最大限に活かしながら、距離を取りつつグレネード弾をばら撒いていく。


 しかしミートボール軍団は徐々にスピードを上げて、確実に俺との距離を縮めてきやがる。


 しかも最悪なことに時折肉塊同士がぶつかって軌道をイレギュラーに変えたり、移動スピードがランダムに早くなったり遅くなったりするので偏差射撃が超やり難い。


 まるで巨大なビリヤード台の上に放り出された気分だ。


「――稀人マレビトの少年よ! これはどうかな!?」


 白タリオンがどの肉塊に身を潜めているのかわからないが、自信に溢れた声が平野に響き渡った。


 すると肉塊がそれぞれ赤や青や黄色の淡い光に包まれたかと思うと、ある肉塊は火炎を吐き出し、ある肉塊は軌道を凍り付かせ、またある肉塊はバリバリッと放電しながら猛スピードで転がってくるではないか。


「ま、魔法攻撃かよ!? しかも複数魔法の並列展開って、どれだけ怪物なのよあのおっさんは……!? さすがにヤバくなってきたぞこりゃ……!」


 俺は二丁の七つの大罪(セブンス・シン)を乱れ撃ちする。


 しかし肉塊はさらにスピードを上げると、変幻自在の軌道を描いて爆炎の合間を巧みに掻い潜る。


 そしていつの間にか三メートル級の肉塊が死角に回り込んでいて、火炎を撒き散らしながら急接近。


 すかさず銃口を向けるも時既に遅し。


 ――避けきれない!


しかも焦った俺はつい反射的に引き金を引きそうになってしまうが、一瞬の判断で何とか人差し指を踏み止まらせた。


 肉球との距離の短さに迎撃は諦めざるをえず、さらに交わす余裕もなかった。


 残された選択は肉塊の突進を全身で受け止めるだけ。


 俺は覚悟を決めて両腕をクロスして衝撃を和らげるが、弾き飛ばされた体は勢いよく地面を転がっていった。


 シールドモニターでHPが一気に1000削られたことを確認しつつ、すかさず立ち上がって距離を取る。


「――ぷはっ! 今のはヤバかった! まじヤバかったよ! よく我慢したぞ俺!!!」


 アルティメットストライカーの中で呼吸を整えながら、俺は射撃を我慢しきった自分自身を褒め称えた。


 グレネードランチャーのような爆裂系の武器を使用する場合、敵の接近にパニくって引き金を引いた挙句に、近距離での爆発に巻き込まれてプレーヤー自身が死んでしまうと言うことは、ゲーム内で何度も経験してきたことだ。


 今のシチュエーションは完全にそのパターンで、特に七つの大罪セブンス・シンのような高レベル武器だと、確実に爆発に巻き込まれて死んでいたはずだ。


 それに比べたらHP1000くらい安い。安すぎる。


 高レベルの爆裂系武器は確実に敵にダメージを与えてくれる一方で、こういう落とし穴があるところが本当に怖い。


 背筋に冷たいものを感じながら、自分によく言い聞かせる俺。


 そしてこの危機一髪だった展開が俺に火をつけた。


「くっそ、魔族かなんか知らねえけど、これ以上調子に乗るなよ……! 俺の空想科学兵器群ウルトラガジェットの底力を見せてやる……!!!」 


 俺は両手の七つの大罪セブンス・シンを放り投げると、音声コマンドでコマンドルームを開いた。


「――ボイスコマンドオーダー! 武器選択! 多腕射撃支援アラクネシステム! 続いて武器選択! ミサイルランチャー・キュベレーオメガ! 二丁持ちトゥーハンド!」


 コマンドルームの操作は「音声」と「タッチ」の両方可能な「ハイブリッド」を選択してあるので、俺の声に反応してコマンドルームの画面が次々に切り替わっていく。


 アルティメットストライカーの背中に光の粒子が集まり、無骨なランドセルのような装置が装着されると、そのランドセルから左右三本ずつ計六本の機械式のフレキシブルアームが伸びた。


 多腕支援射撃アラクネシステムは、アルティメットストライカーで二百面をクリアした際のボーナスウェポンで、六本の支援アームの先端には火炎放射器がセットされている。


 そして両腕には二丁のミサイルランチャー・キュベレーオメガだ。ゲーム内で入手できるのはハードモードだが、誘導ミサイル系では最強ランクに位置していてヘルモードでも十分役に立つ。


 ミサイル一発辺りのヒットポイントは三百と小さいが、五十発のマイクロミサイルを完全自動ロックオンで一斉発射できて、更にリロードタイムも短いので五十発のミサイルをAIMを気にすることなくコンスタントにバラまける。


 特にキュベレーオメガ最大の優れた点が、そのロックオンシステムとネットワークミサイルシステムで、敵が五十体以下の場合複数のロックオンを自動的に重複させた上で、ミサイル同士が通信しながら同時着弾するように軌道や速度を調節することだ。


 だからロックオンの順番を待つロスタイムも減り、一度の射撃の度に五十発全弾が必ず発射される。

 

 また最初に命中したミサイルにより敵が消滅してしまい、二発目のミサイルが目標を見失って彷徨ってしまうようなこともない。まさに今みたいな乱戦のために開発されたようなもってこいの武器だ。


 俺は早速キュベレーオメガの引き金を引いて二丁で合計百発のマイクロミサイルをばら撒いた。

   

 当然グレネード弾と比べれば火力は弱いので、一体の肉塊につき何発かのマイクロミサイルが同時着弾しても、肉の壁を剥がすまでには至らない。せいぜい軌道を変えるだけだ。


 しかしそれでも何体かの肉塊は弾幕を掻い潜って俺の元まで迫ってくるが、そうすると今度は背中の多腕支援射撃(アラクネ)システムが自動的に敵を検知して、六本のフレキシブルアームから吐き出された火炎が敵を寄せ付けない。


 俺はその隙をついて悠々とミートボール軍団から十分な距離を取り、粛々とキュベレーオメガの引き金を引いて肉塊どもを削っていくだけだ。


 ミートボール軍団は俺を踏み潰すためにはキュベレーオメガの弾幕と、多腕支援射撃(アラクネ)システムの火炎防壁を掻い潜り、ABCアーマードバトルコンバットスーツの機動力を奪わなければ、いつまで経っても俺には指一本触れられないというわけだ。


 とは言っても決定力に欠けるのはこちらも同じで、マイクロミサイルの雨嵐でミートボール軍団の体力と耐久力をどれだけ削っても、治癒魔法でも使われたらそのアドバンテージは一発でひっくり返されてしまうだろう。


 タリオンの実力を考慮すれば、この攻撃方法ははあくまでも効率的に肉塊を寄せ付けないということで限界だ。


 だから俺は待つしかない。

 タリオンが分散戦法では敵わないと焦れるのを。


 そして――


 分散攻撃を完全に封じられたことに焦れたタリオンは、ついにミートボール軍団を一箇所に集結させると、最初と同じように黒い巨大な肉塊を形成し始めた。


「――待ってました!」


 俺はダッシュして一気に間合いを縮めた――

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