第二十四話 俺とハティはTwo Platoon
俺はエマリィを乗せた荷台を抱えたまま丘を駆け下りていく。
その後から
平原には五つの巨大なクレーターが出来上がっていて、二万五千近く居た
残りの軍勢は約二千。しかもそのほとんどが黒騎士たちだ。
つまり五発のレーヴァテインで
さすがは魔族と言うべきか。
そこにライラから通信が入った。
――タイガさん残念なお知らせです。今のレーヴァテイン発射でグランドホーネットのシステムがダウン。復旧するまでもう支援兵器は使えなくなりました。
「え? レーヴァテインてそんなにエネルギー使うの!? それともグランドホーネットの魔法石の容量が小さすぎるのか!?」
――ううー、それはライラちゃんに聞かれても……
「だよな。どちらにせよ、支援兵器はしばらく当てにできないってことだな。わかった。こっちは自力でなんとかするから大丈夫」
――ほんとですか。助かりますう。もし応援が必要なら連絡ください。八号のところに待機させているドローン兵器ならすぐに回せますから!
「オッケー! じゃあ引き続き留守番とサポートを頼む!」
――ライラちゃんかしこまり!
ライラとの通信を終えると、早速俺たちの姿を捉えた黒騎士たちが炎を象ったような黒い剣を振り上げて四方から迫ってきた。
「悪いけど遠慮してる暇はないからな魔族の皆さん! 全力で片付けさせてもらいますよ!」
俺はエマリィを乗せた荷台を傍らに置くと、コマンドルームを開いてビッグバンタンクへ換装。
続けて武器メニューの「重機関銃」からヘルモードで入手可能な高レベル兵器ガトリングガン・ヘカトンケイルを
ヘカトンケイルとは、ギリシャ神話に登場する三人の巨人の名で「百の手」を意味し、神話の中でオリュンポスの神々が巨神族と戦ったときに、無数の手を駆使して大岩を投げつけてゼウスたち神々を支援したと言われる。
その巨人の名を冠したガトリングガンは五十口径の銃身が三つあり、ゲーム内での一発あたりのダメージは三百ヒットポイント、総弾数五百発を約十五秒で撃ち尽くし全弾命中した場合のダメージは十五万ヒットポイントを誇る、まさに巨人級の武器だ。
但し三つの銃身が回転して射撃可能になるまでの待機時間と、威力が高い分長めに設定してあるリロードタイムを常に考慮した立ち回りをしなければ、いとも簡単にドツボに嵌まる危険性も孕んでいるが。
俺は迫りくる黒騎士の軍勢を見据えて、ヘカトンケイルの引き金を引いた。
ギュイイイインと高周波を発しながら三つの銃身が回転を始めて発射準備に入る両手のヘカトンケイル。
一丁あたりの総重量が百キロを軽く超えるヘカトンケイルの二丁持ちが出来るのも、このABC(アーマードバトルコンバット)スーツのおかげだ。
「エマリィ! 左側に特大防壁二枚掛けを! 配置はランダム、数は多めで!」
「任せて!」
俺とエマリィはパーティーを組んで以来、狩りへ出掛ける度に様々なコンビネーションを模索してきた。これもそのうちの一つだ。
接敵から選敵へ―-
敵が複数居てしかも広範囲に広がっているような場合、攻撃する順番は重要だ。特に二人しかいないパーティーならば尚のこと。
そこで生まれたのがこのコンビネーションだった。中身はいたって簡単。俺が指示した方向にエマリィが作った防壁を配置してもらい、敵の接近や攻撃を防ぐだけ。
一番重要なのはこの時に防壁のサイズと強度と数と配置を、具体的にわかり易く伝えないと連携は上手く取れないのだが、俺とエマリィは何度もミーティングを重ねた結果、その辺の意思疎通はバッチシだった。
もうおしどり夫婦の域に突入していると言っていいだろう。
エマリィが作った縦三メートル横四メートルの魔法壁が二枚重ねで二十枚近く、次々と空中に出現したかと思うと順に地上へ降りていく。
その配置はまさにランダム。突然出現した幾つもの壁により左側から迫っていた黒騎士の軍勢は散り散りになり進軍速度もぐんと下がった。
そして――
BRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!
と咆哮をあげる右手のヘカトンケイル。
一秒間に約33発発射される11.4ミリナノマテリアル弾が、右手から迫る黒騎士の軍勢に襲い掛かる。
右から左へ動く銃口に合わせて、凶悪な獣の顎に食い散らされたかのように、黒騎士の群れが一斉に千切れていく。
そう文字通り、上半身と下半身が、或いは頭部と胸部が、もしくは両腕や両足が、被弾した瞬間に脆い粘土細工のように千切れていった。
しかも11.4ミリナノマテリアル弾の貫通力は凄まじく、一発辺り五、六人を引き千切っりながら貫いていく。
不幸にも一人で何発も食らってしまった黒騎士は、その瞬間にズタボロの肉片に変わり果てて地上の染みへと変わり果てていた。
左手から迫っていた軍勢はエマリィの魔法防壁によって足止めされ、右手の軍勢はヘカトンケイルの凶悪すぎる弾幕によって俺たちに近付くことすら許されない。
この圧倒的破壊力と万能感に思わず、
「マイケルベイアンドデストローーーーーーーーーーイ!!!」
と、叫ぶ俺。
そして最初のヘカトンケイルが全弾撃ちつくしてリロードタイムに突入すると、左手で発射準備態勢だった二つ目のヘカトンルケイルが間髪入れずに火を噴いた。
BRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!
二つのヘカトンケイルによって右側の軍勢があらかた片付くと、
「な、なんと……!? あの魔族の兵士たちをまったく寄せ付けないとは……! カピタンには驚かされてばかりじゃ! しかし! 妾も風狼族の血を継ぐ者! 指を咥えて見ておるわけにはいかんのじゃ!」
と、ヘカトンケイルの暴力的な破壊力にアテられたのか、ハティは犬歯を剥き出して凶暴な笑みを浮かべた。
「――天地万有を駆け抜ける風よ! 蛮勇にして大勇の風よ! 古よりの血の契約に従い我は汝に命ずる! 浄化と昇華の風で暗闇と災厄を吹き飛ばし、我の行く手に道を切り開け――絶風大狼牙
(ぜっぷうだいろうが)!!!」
と、呪文の詠唱とともにハティが
紅の旗が通り過ぎたあとに起きる風の揺らぎは、瞬く間に巨大な竜巻――しかも上空に向かう縦型ではなく横一文字という地上を転がる特殊な竜巻となって、エマリィが魔法壁で進行を遅らせている方の黒騎士の軍勢に向かっていった。
それはまるで巨大なローラーだった。それも暴風でできた全てを薙ぎ払うローラーだ。
直径が約二十メートル、全長が五十メートル近い竜巻が横向きに転がって、黒騎士たちを地面諸共刈り取っていく。
まさにハティのイメージ通り、ドカーンといってスバコーンと周囲もろとも敵を粉砕する広範囲魔法だ。
エマリィが配置した魔法防壁も竜巻の餌食となって次々と霧散していき、竜巻に飲み込まれた黒騎士たちは何度も地面に叩きつけられて、やがて四肢がバラバラになって竜巻の中で舞っていた。
「す、すげえな……!」
「タイガの極級魔法クラスの攻撃も凄かったけれど、この上級魔法だってトネリコール大陸でどれだけの人が使えるやら……。ああ、今更だけどボクの生まれて初めてのパーティーが凄すぎて震えが止まらないよぉ!」
ハティの暴力的なまでの魔法の威力に感心する俺の横で、エマリィは嬉しそうな悲鳴を上げながら自分の体を抱きしめて身悶えていた。
「ふん! 魔族も大したことがなかったのう! いやカピタンと妾のコンビが強すぎたのか? のうカピタン、どうやら二人の相性はバッチシのようじゃ! そうは思わぬか!?」
と、振り返って豪快に笑うハティ。
その背後に見えるのは黒騎士たちの屍の山だ。
俺の方も黒騎士の軍勢はヘカントンケイルが一掃済みなので、平野に居た魔族の生き残りは全滅したことになる。
確かにハティの言うように、魔族というおどろおどろしい名前に反して意外と簡単に片がついた感じではあるが仕事は楽な方がいい。
「どっちにせよ、さっさと姫王子様の安否を確認しよう。今回の目的はあくまで姫王子様の捜索と救出だからな」
俺はコマンドルームを呼び出してフラッシュジャンパーへ換装。
右手にはプラズマガンの最高ランクであるプラズマガンZZを、もう片方の腕にはエマリィを乗せた荷台を抱え、一応念のためハティを振り返る。
「ハティどうする? 頂上まで自力で行けるか!?」
「無論じゃ。風狼族は山登りは死ぬほど好きなのじゃ」
「わかった。じゃあ先に行ってるから無理せずについて来てくれ」
そう言うと、俺はエマリィを抱えて三角岩の頂上を目指して駆け上がった。
フラッシュジャンパーの跳躍力を活かして、適当な足場へとジャンプを繰り返して上っていく。そして驚くことにハティは生身のまま俺のルートを追随してきた。
勿論フラッシュジャンパーが一回のジャンプで届く距離を、ハティは二、三回ジャンプをしていたが、それでも生身で
しかし先ほどの上級魔法にしてもそうだが、ゴールドクラスの冒険者はハティ以外にも大勢居るので、その中には当然ハティの体力や魔力よりも上の人間が居るかもしれない。いや、きっと居る。
この世界は俺が想像しているよりも広く、
元の世界の基準からすれば超人級とも言えるハティの身体能力を見せつけられて、思わず気を引き締めなおしているうちに頂上へと辿り着いた。
剥き出しになった最上階の円形の部屋で待ち構えていたのは、銀色のフルプレートアーマーに身を包んだ赤い
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