第十六話 俺、緊急招集される

 グランドホーネットでの生活は既に一ヶ月近くが過ぎようとしていた。

 この一ヶ月の間にしたことと言えば、まずはグランドホーネットの移動だ。

 場所は渓谷のさらに奥へ行ったところ。ロケーション的にそんなに大差が無いように見えるが、近くに迷宮(ダンジョン)があると無いとではやはり発見される確率はだいぶ変わるだろう。

 しかも迷宮(ダンジョン)にやって来る人間なんて物好きは冒険者しかいなく、そんな好奇心旺盛で常に一攫千金を狙っている連中に見つかるのだけは極力避けたい。


 そしてもう一つがミネルヴァシステムの検証。

 迷宮(ダンジョン)で手に入れた山のような素材を元に、まずは食器類などの手近な生活備品に始まり、空想科学兵器群(ウルトラガジェット)のコピー品を製作。

 このコピー品の製作の際に新たにわかったことも。


 まずコマンドルームで呼び出した空想科学兵器群(ウルトラガジェット)は俺しか装備できない。

 エマリィもライラも装備することは出来るが引き金がまったく反応しないのだ。

 原因ははっきりしなかったが、エマリィは俺の背中の魔方陣にそういう制約が組み込まれていると考えているようだ。


 そしてコピー品。まず今回手に入れた素材で作れたものはノーマルレベルの武器まで。高レベル武器製作にはやはり貴重な素材が必要になるようだ。またリロードも自動的に行われない。

 空想科学兵器群(ウルトラガジェット)が魔力で具現化されているとするのなら、当然弾丸やエネルギーも魔力が変換されたもののはずで、コピー品が自動的にリロードされないのは当然だ。

 だからコピー品を使用する為には当然銃弾も作らなければならないが、これも幾つかの素材と鉱石をミネルヴァシステムに投入してボタンを押すだけでOKというお手軽さ。


 コピー品のHAR-22の試射をしたエマリィはその衝撃と威力に目を丸くしていた。

 俺としてはそのコピー品をエマリィが常に携帯してくれると、狩りの時の不安が低減して助かるのだが、エマリィはそれを申し訳なさそうに辞退した。


『ボクにはちゃんと魔法があるから――』


 それがエマリィの答えなら、全力でそれを尊重するのみ。

 という訳でコピー品の一部はライラの護身用として残し、あとは全て生活備品へと作り変える。

 この世界にとってオーパーツとも言える武器を流出も流通もさせる気は毛頭ない。


 あとそれ以外にはエマリィを乗せて運ぶための荷台を新調。軽量且つ強度も増してABC(アーマードバトルコンバット)スーツの腕を通して固定するための穴と取っ手も設置したのでこれで安定感はぐんと増す。

 そして更に背負子も製作。これはエマリィが俺と背中合わせに座るようになっていて、普段は荷台の中に置いておき荷物が多いときに利用するためのものだ。


 そんな感じでミネルヴァシステムを利用したもの造りに没頭した日々の後は、収穫の日々へ。

 製作した山のような生活用品をライラが荷台で宿場町まで運んで行商。

 ライラは元エンタティメント用アンドロイドの人造人間(ホムンクルス)だけあって、大の男でも抱えるのが大変な荷台を軽々と抱え、常人で半日はかかる道のりも二時間あれば余裕だった。

 ちなみにピンクのキラキラフリフリなアイドル風衣装は悪目立ちしすぎるので行商へは普通の服を着ていってくれと頼んだが、


「それじゃあライラちゃんがライラちゃんでなくなっちゃうんです! ライラちゃんじゃなくなったライラちゃんを見てタイガさんの心が痛まないのならそんなのタイガさんじゃないです! タイガさんの皮をかぶったタイガさんですよ! タイガさんは一体どのダイガさんなんですかぁ!」


 みたいな訳のわからない口論を三十分続けた結果、俺が折れることに。

 これならば穴を掘っては埋めるを繰り返す罰ゲームをしていた方が百倍はマシでした。

 それでも一応ミニスカドレスの上に俺がエマリィから貰ったマントを羽織らせることは納得させましたけど。


 そしてライラが行商へ出掛けている間は俺とエマリィとは狩りへ。

 渓谷では蛸鷲(スカイクラーケン)という八本の触手を生やした大鷲の魔物(モンスター)や、小鬼(ゴブリン)の軍団、上半身が鬼で下半身が馬の馬鬼(バキ)を相手に素材稼ぎと腕磨きの日々。


「タイガ! ボク初級の火魔法なら無詠唱で繰り出させるようになったよ!」


 と、喜ぶエマリィだったが、やはり初級程度だと不意打ちや動けない相手くらいにしか実戦では使い道のないレベルだった。

 それでもエマリィの攻撃力が向上することはいい事なので、せっせと魔物(モンスター)の脚を撃って甲斐甲斐しく御膳立てをしてやる俺。


 そして夜になればライラが買ってきた食材を調理し三人で食卓を囲み、その後は新しく手に入れた素材でもの造りに励み、そして朝を迎えて――と言った感じに日々が過ぎていく。


「じゃあ行ってくる。なるべく早く戻るから大人しくしててくれよ!」

「ライラ、お土産を買ってくるからね。ボクの村で獲れるイモ瓜はおいしいから期待して待ってて!」

「大丈夫ですタイガさん、ライラちゃんは今宿場町で行商アイドルとして大人気なのです。町の皆さんも優しいから全然寂しくないのです。エマリィさん、無事に帰ってきてくださいね。ライラちゃんもそのイモ瓜を楽しみにしていますから!」


 エマリィの実家へ向けて旅立つ日のこと。 

 てっきりライラちゃんも連れて行けと駄々をこねるかと思ったが、意外とすんなりと見送ってくれるライラ。

 そう言えばライラは意外ともの造りが性分に合っていたのか、ミネルヴァシステムを楽しそうに使いこなしていた。それに食事の時に宿場町の人たちとの交流の様子をとても楽しそうに話す。

 それなりにやりがいを見つけて充実した日々を送っているらしい。

 とにかくこれでグランドホーネットはしばらくライラに任せておける。

 あとは北東部の国境近くにあるエマリィの実家へ向かい、俺の異世界転移の原因の手がかりを見つけるのが当面の目標ってわけだ。


 俺はエマリィを乗せた新型荷台を抱えて宿場町へ向かって走る。

 エマリィの実家までは歩いて二ヶ月程度。

 しかしABC(アーマードバトルコンバット)スーツならば三日もあれば余裕で辿り着くが、まずは宿場町で食料を調達してからだ。

 そして宿場町へ続く山道を走っていると、前方に人影が一つ。

 その人影は俺たちの姿を見つけると、慌てて両手を振った。


「――ちょっと待って! 頼むから止まってくれ!」


 その必死な形相に足を止めるが、勢い余って立ったままスライディングして男を通り越したところでようやく止まる。


「な、なあ、あんたひょっとすると金(ゴールド)クラス冒険者のタイガアオヤーマじゃないのか!?」

「え!? まあ、そうだけど……それがなにか?」

「ああ、やっぱりか! 良かった! 奇妙な鎧を着ているって話だからもしやと思って声をかけたんだ。でもそんな大きな荷台に女の子を乗せたまま抱えるなんて! しかもあんなスピードで走るれとはこりゃ驚きだ! いやぁ、やっぱり金(ゴールド)クラスの冒険者は凄いなぁ!」


 男は一人で感極まっている。俺とエマリィは怪訝そうに顔を見合わせた。もしかしてダンドリオンのギルドで屯っていた連中の新手だろうか。


「ああ、すまない! 一人で興奮しちまってた。俺は宿場町ギルドの冒険者でカルって言う。タイガアオヤーマ、王命クエストが発令された。いま全てのギルドは高レベル冒険者を血眼になって召集している。すぐに宿場町ギルドへ顔を出してくれないか!?」

「王命クエスト……?」


 その聞きなれない単語に俺は説明を求めてエマリィの方を振り向く。

 しかし既にエマリィはあひる口にしてうーうーと唸っていて、これが一攫千金のチャンスだと察した。

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