【新・改訂版】第3話 楽園都市ダンドリオンへ

 森林大亀フォレストジャイアントタートルから甲羅や牙などの素材の回収を終えた俺とエマリィは、ダンドリオンと言う名の王都を目指してまた森の中を進んでいた。


 道すがら記憶喪失と言う設定を理由に、エマリィに色々と質問してみる。


「いま向かっている街ってどんなところなの? あと国の名前とか大陸?島?の名前とかも聞いたら、何か思い出せるかもしれないから教えてくれる?」


「いいよ。この大陸はねトネリコール大陸と言って、この辺りはその大陸の南側。その南方を統治している最大の国がステラヘイム王国と言って、ダンドリオンはその国の王都なんだよ。それでダンドリオンの栄華は大陸中に響き渡っているから、人々は楽園都市と呼んでいるの。何か思い出した?」


「うーん、どうだろうなあ。なんだか聞いたことがあるようなないような……。そう言えばエマリィは双頭の豹アンフィスパンテルに追われていた時に、魔法で壁を作って攻撃を防いでいたじゃん? ほかには魔法は使えないの? なんかこう火とか雷とか出せたら、あんな魔物モンスターはいちころじゃないの?」


「ボクは防御魔法と治癒魔法が得意で、攻撃魔法も一応使えることは使えるんだけど、詠唱に時間が掛かってしまうから、ああいう状況だと役に立たないんだよね……」


 と、思いのほか落ち込んだ顔を見せるエマリィに、俺は慌てて取り繕う。


「で、でも防御魔法はパッパッと連続で出してたよね? 遠目には詠唱なんてしているように見えなかったけど……?」


「うん、それは練度の違いかな。魔法を使うときはイメージが一番大事で、呪文はそれを補完したり想起させるためのものなんだよ。だから繰り返し繰り返し練習して確固たるイメージと魔力が自分の中で結び付いていれば、無詠唱でも発動はできるようになるの」


「ふーん、そういうものなんだ」


「だからタイガの魔法は規格外なんだよ。その魔法について色々と教えてもらいたいけど、記憶が無いのなら仕方ないよね……」


 と、残念そうに微笑むエマリィ。


 俺は罪悪感から心の中で彼女に土下座をする。


 そんな感じで森の中を進んでいると、突然前方の木陰から体長が三メートル近い角を生やした熊の魔物モンスターが現れた。


 しかしアサルトライフルHAR-22で難なく撃退してやったものの、突然現れたせいで半ばパニック気味に引き金を引き続けた結果、素材の欠片も見当たらないミンチ状態になってしまい、これにはエマリィも苦笑していた。


 その後もしばらく歩いていると、今度は十体近くのゴブリンの集団と遭遇。


 しかし奴らは血走って興奮した卑猥な目線で、エマリィを見ていたので俺はブチギレた。


――俺のエマリィを見てハァハァしてんじゃねええええええ!!!


 と、心の中で絶叫しながら、グレネード弾をありたっけ叩き込んで土の染みにしてやったものの、「あわわ……一体当たり銅貨五十枚にはなったのに……」と、エマリィを落ち込ませてしまい少し反省。


 そんな風にこの世界での狩りの仕方を頭と体に叩き込みながら森を進み、ちょうど森林地帯を抜けた辺りで夕闇へ。


 森を抜ければまず魔物モンスターに出くわすことはないとの事で野営をしてもよかったのだが、出会ったばかりの年頃の男女二人での野営はお互いに気まずくて、どちからともなく帰路を急ぐ空気になって王都を目指すことにしたのだ。


 しかし、しばらく歩いていると物陰から数人の人影が。

 剣呑とした目つきの無頼漢が五人。全員が卑しそうな笑みを浮かべている。


「タ、タイガ……。最近この辺りに西の方から流れてきた傭兵崩れの強盗が出るって噂が……。たぶんあの人たちだと思う……」


 エマリィが怯えた顔で、俺の背後に隠れた。


 ああ、この頼りにされています感……!

 母さん、生身の自分は筋肉も碌についてないヒョロガリですけど、ABCアーマードバトルコンバットスーツのおかげで、タフでクールで女の子から頼られる男になれそうです! 

 ああ、異世界転移して本当によかった……!!!


森林大亀フォレストジャイアントタートルの甲羅が数枚に牙や爪か……。へへ、随分と大猟じゃねーか兄さんよぉ」


「さすがに全部とは言わねえ。少しだけ俺たちにも分け前をくれねえかな」


「そうじゃないと、痛い目みることになるぜ……!」


 そんなお決まりの安っぽい台詞とともに腰の剣を抜く男たち。すると、


 ダァン!


 と、俺の右手のアサルトライフルHAR-22が吠えた。

 男たちの足元に着弾して、土が爆ぜる。


「な、なにしやがった……!?」


 銃口初速で音速を超える弾丸を肉眼で捉えられるはずもなくて、ただおろおろとするばかりの男たち。


「ま、魔法か……? 奇妙な魔法を使いやがって……! だがこっちだって魔法を使える仲間が……!」


 そのボスらしき男が合図を出すと、一番端に居た不精髭のおっさんが目を瞑って何やら呪文を唱え出した。しかし、


 ズダダダダダダダダッ!!!


 と、HAR-22が連射モードで火を噴いて、男たちの足元の地面が水と油が混ざったみたいにバチバチと弾けていく。


 鉄板の上に素足で乗ったみたいに両足をドタバタさせていた男たちは、銃撃が止むと青ざめて呆然とした顔で俺を見ていた。


「は…なんなんですか、あなたは……!?」

「い、命だけは助けてくださいっっっ!」


 と、一目散に森の方へと消えていく盗賊たち。


 そんな感じのことはありつつも、なだらかな田舎道の先にダンドリオンの城門とかがり火が見えたのは、時刻にして夜九時か十時くらいか。


 本当はエマリィを背負って走ればもっと早く着けたのだろうが、さすがに出会ったばかりでそれを提案するのも恥ずかしくて、エマリィの歩幅に合わせて歩いてきたのだ。


 おかげでエマリィとはたっぷりと話すことができたけどね。


 まず彼女はステラヘイム王国の北東部の国境近くの山間にあるラウド村の出身とのこと。


 祖父が王室お抱えの魔法使いを務めたこともある元冒険者だそうで、そんな祖父に憧れた彼女は幼少の頃から祖父に魔法を教わってきたのだそうだ。


 そしてこの世界の成人年齢である十五歳を迎えて晴れてダンドリオンへ上京してきたのが三ヶ月前。


 しかし冒険者ギルドに加入したのはいいものの、エマリィが希望していた女性限定かもしくは女性比率が高かったり、男性が居てもなるべく紳士的な振る舞いができる人のいるパーティーはどこも治癒魔法使いの枠は埋まっていたらしい。


 それで仕方なしに、ギルド会館の掲示板に貼り出される求人広告を見て「流しの」魔法使いとして日銭を稼いでいたのだそうだ。


「でも決まってそういうパーティーに限って粗野で粗暴で下品で悪趣味な人たちばかりなの!治癒魔法使いを便利屋かなにかと勘違いしてたり、女は慰み物だと思ってたり、ほんと冗談じゃないわ!」


 と、握り拳をぷるぷると震わせて力説するエマリィ。


「おかげでこの三ヶ月は収入はなかなか安定しなくて大変だった……。求人が二十日間連続で出なかった時なんか物凄く落ち込んだし、おまけに小さな時から村で収穫の手伝いをしてコツコツ貯めてきた軍資金と、村を出るときにお母さんが持たせてくれたお金も底がつき始めて……、ほんとにもうこのまま田舎に帰ったほうがいいのかななんて考えちゃうし……。でもお祖父ちゃんみたいな冒険者になって世界中を飛び回るのはちっちゃい時からの夢で、簡単に諦めたくなくて……。今は苦しいかもしれないけれど、頑張っていればいつか素敵な仲間とも巡りあえるんじゃないかなって。そうしたらボクの居場所パーティーが出来るのかなって……!」


「ん……?」


 ふとエマリィのうるうるとした碧眼が俺を熱く見上げていることに気がつく。

 しかし視線が合うと、顔を真っ赤にして俯いてもじもじとしてしまう。


 か、かわいい! そしてわかりやすすぎる!


 DTの俺でもまるでジゴロにでもなったかのように女心が手に取るようにわかる。

 エマリィさん、それはちょっとチョロインすぎませんか?


 でもいいのだろうか? 異世界に来たばかりなのにほんとにこんなに簡単に可愛い女の子とサクッと知り合えて、サクッとパーティーを作れそうになっちゃっていいものなのか?


 実はダンドリオンに着いたら強面のおにーさん達が待ち受けているとかじゃないのか?


 と言ってもABCアーマードバトルコンバットスーツがある今の俺じゃあそんなの屁でもないんだけど。


 騙されてるとわかったら軽く伸しちゃうよ?

 血の涙流しながら暴れちゃいますよ?


 まあとりあえずは様子見だな。エマリィは確かに可愛くて魅力的だけども、俺がそんなにモテる訳がない。


 ここで慌ててがっつくよりも、しばらくはダンドリオンに滞在することになるだろうから、その間にゆっくりと考えるとしよう。


 ダンドリオンの入場門に並ぶエマリィの後ろ姿を見ながら、俺はそう自分に言い聞かせた。

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