知ってた。
「君と秘密を分け合いたい」
ソファに座ったまま彼のほうに身を乗り出して、私は囁いた。
「どういう意味です?」
彼が内緒話をするときみたいににやりと唇を歪めて、ぴたりと私に寄り添った。
前いた部署の後輩だった。すらりと背が高くて、誰にでも屈託なく接する彼は、社内でも目立っていた。
『俺、優しいんで』
彼は口癖のようにそう言った。実際彼は、周りの気の利かない男性陣の中では飛び抜けて親切だった。
でも、あるとき私は気付いてしまった。彼は誰も見ていない。誰にでも優しい自分のことしか、見ていない。
それでも、久し振りに会った彼は、やっぱり親切でかっこよかったのだ。プロジェクトリーダーと意見が食い違って孤立したときも、彼だけは庇ってくれた。プロジェクトを外されて異動になった後も、こうして他のメンバーに隠れて会ってくれる。
飲み干したグラスを新しく交換するたびに自分に言い訳して、気付けばのこのこ部屋まで上がりこんでいる。
「こういうこと」
もうほとんど距離は開いていなかったけれど、彼の緩められたネクタイを引っ張った。
吸い殻と濁った水の入ったペットボトルに彼の足が当たって、狭いワンルームの隅にころころと転がっていった。
「俺、付き合うのは百歩譲っていいとしても、結婚する気はないですからね」
火を付けたマルボロを咥えた後輩が、後ろめたさの欠片もない瞳で私を捉える。私はぼんやりとシーツにくるまったまま、吐息の合間にこぼしそうになって、直前で名前にすり替えた『すき』のことを思った。
「最初からはっきり言っておいたほうが、傷つかないでしょ?」
煙を吐いた薄い唇を歪めて笑う。
「俺、優しいんで」
自らそう口にする人ほど優しくないってこと、本当は知っていた。
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#書き出しと終わり
「君と秘密を分け合いたい」で始まり、「本当は知っていた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。
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