綴さんと芸術品

蒼斑 済

いずれ置き換わるカップ

 両手で包み込む白いカップは陶器だ。ワンポイントも装飾もない、無地のカップ。顔馴染みが営む店で購入してちょうど三週間になる。愛用品と言うには幾らか時間が短いように思うが、物への入れ込みが強い彼にしてみればそれだけでも十分だ。注いだ珈琲の熱さが滑らかすぎる肌に染みて、そこから柔らかく指へと伝う。こいつは冬の寒さに凍てついた作業部屋の癒しであり、疲労に褪せた瞳へ色を付ける絵具でもある。安い匂いを放る湖面に吐いた息は、昇る湯気に紛れて消えた

 その本命は、カップにも中身にも無いのだけれど。カップを握り込んだ時の、清く細く、しかし生々しく鼓動する白首を絞めているかのような錯覚に胸と指先が熱くなる。空想のモデルはセーラー服の文学少女。昨日すれ違った、桜の香りがするあの子だ

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