トベラのせい Battle-Valentine おまけ!


 トベラの花言葉  慈しみ



 ひょっとして、凄いご迷惑をおかけしたのかも。


「道久君!」


 家の前で、美穂さんが待っていてくれました。


「うわあ、わざわざありがとうございます。なんと御礼を言ったらいいのやら」

「そ、それより、チョコを……。それで、あの、思い切って言いますけど……」

「あ! 美穂さんなの!」

「話の腰を軽々折る人ですね、君は。……なんでしたっけ。思い切って?」

「…………いえ、何でもないです」


 なにやらさっきまでの勢いがしおれていくのですが。

 穂咲のせいで、言いにくくなりました?


「これ、前言ってたチョコなの。道久君、このこのーなの」

「そういうんじゃないでしょう。ご丁寧な方だから、お礼とかそういうことです」

「くうっ! 負けない!」

「え?」


 ……いつもやってますけど。

 それ、何のおまじないなんです?


「生チョコを作ってみたの! 一日常温で持ち歩いたから、今すぐ食べて! そして道久君が口にしたところで、勇気を出して……」

「ああ。まじかあ。今日は食えないんです」

「え? どうしたの?」


 俺はポケットからちり紙を出して。

 そこに包まれた、欠けた歯を見せました。


「ほんとにどうしたの!?」

「…………そう言ったわけで、ごめん。穂咲と二人で食べて下さい」

「う」


 俺が食べられない事に恐縮されたんだろう。

 美穂さんはチョコを差し出したまま固まってしまったのですが。


 穂咲はお構いなしにそれを奪って、嬉々としてラッピングを破ると。

 中から、一つ一つ丁寧にハート形にしたチョコが顔を出しました。


「すごいや。手間がかかってますね」

「いえ、それは……」


 ちきしょう、食べたかったな。


「ん! 美味しいの! 美穂さんも、あーん!」

「あ、あーん……、ぐすん」


 なんでか、複雑な顔をしていらっしゃる。

 味が気に入ってないのかな。

 妥協を許さないとか、大したものだ。


「穂咲も見習いなさいな。あんなの作りやがって」

「完璧なボタンだったの」

「……え?」

「女子力なの」


 バカな説明のせいで、美穂さんが困惑していらっしゃる。

 まったく君は、おばさんの話をどうしてそんな履き違え方したのか。


「それに引き換え、美穂さんはすぐにでもお嫁さんに行けそうですね」

「お、おにょめ!?」


 ……ああ、しまった。

 ちょっと軽薄な言い方だったかな。


 美穂さん、真っ赤になって。

 慌てて暇を告げようと、お辞儀をされました。


「そ、それじゃ失礼します! 歯をお大事に……。でも、何をかじったの?」

「完璧なボタンだそうです」


 俺がバレンタインデーに貰った唯一のプレゼントは。

 チョコどころか、クッキーですらありませんでした。


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