第8話

 外にいたのは蘭だった。騒ぎの原因は彼女を物珍し気に見る近隣の人々で、その眼には侮蔑の色が見て取れる。時折心無い人が窓から物を投げ、蘭はすぐ近くで生じた落下音に身をすくませていた。

 しかし、百合子を見つけると救いを得たように表情が和らいだ。

「百合子、ごめんなさい」

 百合子は靴も履かず、両親のあいだを縫って彼女のもとに駆け寄った。

「ごめんなさい、私。ただあなたと喜びを分かち合いたくて。でも、あなたのことを考えてなくて、傷つけてしまったわ」

「いいのよ、そんな。私こそ、驚いて逃げてしまって」

「百合子」

「あんたがあの館に住んでる洋妾かね」

 父が百合子の肩を引き、蘭と彼女を引き離した。

「金輪際、娘に近づかないでもらおうか」

「あ……」

 蘭が縋るように百合子に手を伸ばした。

「汚い手で触るな!」

 父が蘭の手を弾き、怒鳴った。

「やめて」

 百合子は父の手を振り払い、蘭を抱きしめた。

「汚くなんてないわ。この人は、謝りに来たのよ。自分がしたことで私が傷ついてしまったのかもって心を痛めて、外に出るのが怖いくせにそれを我慢して、ここまできたのだわ」

 そんな素直な人のことを知りもしないで石を投げて、あまつさえ汚いなどと。

「あなたたちのほうがよっぽど畜生じゃない!」

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