第12話 放たれた悪意Ⅱ
「彰吾さーんこっちですよー」
数歩先にいる沙由莉が後ろにいる彰吾に手を降りながら言う。
「今行くから待ってくれ」
首に手を当てて歩きながら言う彰吾。
彰吾はこの日はデートの為、服装もある程度カッコいい服装を着ている。
沙由莉の元へ歩いていると、すれ違う女性達が彰吾を見て振り返る。
彰吾はそんな事に全く気にせずに歩いていると、
「え? 何あの人……、芸能人?」「誰あれ? 物凄いかっこいいんだけど」「TVの番組?」
通行人が彰吾を見ながら呟くのであった。
そして彰吾は沙由莉の隣へ着くと、通行人の声を聞いていた沙由莉は彰吾の腕を取った。
「な! 突然どうした!?」
「いえ、別に何でも無いですけど」
「なら、離してくれ……」
「嫌です」
「……」
「昨日彰吾さんは私達に捕まりました」
「ぐ……」
はぁ……とため息を付いて頭をかく彰吾。
「で? どこいきます?」
諦めた彰吾は沙由莉に何処に行きたいのか聞く。
聞かれた沙由莉はパァっと笑顔になり、彰吾の腕に抱きついた。
「観光したいです!!」
「はいよ。とりあえず、ここじゃあれだし行こうか」
「はいッ!」
満面の笑みを浮かべて彰吾の腕に体重を掛けながら歩く二人。
それを見た通行人は歯を食いしばり、悔しがるのであった。
二人は観光周遊バスに乗り、観光を始める。
バスなどの公共機関を使い二人は様々な場所を巡った。
今は休憩として空港の近くにある喫茶店に入り、飲み物を注文して座る。
「本当に観光いいな」
「ですね」
「てか、気づいたんだが」
「はい?」
「久能さんは?」
「凛花はですね……」
と、沙由莉が言った瞬間に沙由莉のスマホが鳴る。
沙由莉は彰吾に「ごめんなさい」と一言言って電話に出る。
「はい、東堂です。――今終わったんですね。はい、はい。今? 今は空港の近くにある喫茶店で休憩してますよ。はい、今から来るんですね。分かりました。では、待ってます」
そう言って沙由莉は電話を切り、彰吾の方を向く。
すると、それと同時に注文していた飲み物が届く。
店員が二人のいる席のテーブルにアイスコーヒーとシークワーサージュースを置いてその場を去る。
「失礼だと思うけどさっきの電話って久能さん?」
「そうですよ。良く分かりましたね」
「いや、この状況とさっきの会話を考えると久能さんかなって思っただけなんだ」
「なるほど。でも、分かる辺り凄いと思いますよ」
「そ、そうか?」
彰吾は注文したアイスコーヒーに付いているストローに口を付けて飲む。
「探偵事務所とか開いたらどうです」
ドヤ顔をしながらシークワサージュースをストローで混ぜる沙由莉。
「それは面倒くさいからいいや」
「ですよね。でも良い観察眼はしてると思います。人間観察とか趣味だったり?」
ストローでかき混ぜるのを止めてストローに口を付けて飲む沙由莉。
「うーん、得意なのかもな。沙由莉がうちの学校に来たときの推理を俊にしたことあるんだ」
「え!? あの日ですか!?」
「ああ、あの時初めて沙由莉を見たんだ。
それを聞いた沙由莉は顔を赤く染めて恥ずかしがる。
何故彰吾はその事で恥ずかしがるのか分からなかった。
「な、なんで恥ずかしがってんの?」
「だ、だって……、ラブレターの件とあの岡野さんを振る所も見ていたんですよね?」
「ああ、ばっちりとね」
彰吾の発言を聞いた沙由莉は更に顔を赤く染める。
「てか、よく岡野の事覚えているよな。もう二ヶ月位会ってない筈だよな?」
「は、はい。私、人を覚えるのがとても得意で……、それにあの様にラブレターを貰ったので更に覚えています」
彰吾と沙由莉の最初の出会いは彰吾が通っている高校であった。※一話参照。
そこで沙由莉が岡野と言う男に告白され、それ以来会っていないのにも関わらず覚えている辺り凄いと思った彰吾。
これもSランクのおかげなのかな?と思う彰吾であった。
「あ、沙由莉ー。それと彰吾さーん」
思うと、声を掛けられ彰吾と沙由莉の二人は声の聴こえた方へ向く。
「お疲れ様、凛花。はいこれ」
「ありがと」
声の主は凛花であった。凛花は沙由莉からメニュー表を受け取る。
メニューに目を軽く通すと、
「すみませーん」
注文の品を決めた凛花は店員を呼ぶ。
凛花に呼ばれた店員は早足で近付き、ポケットからPDTを取り出す。
「アイスティー一つお願いします」
注文すると店員は「アイスティーですね。かしこまりました」と言ってその場を去った。
凛花は注文を終えるとふぅ……と一息付いてバッグからタオルを取り出して汗を拭う。
「これ飲んでも良いですよ?」
沙由莉は自分が頼んだシークワーサージュースを凛花に差し出す。
「ありがとっ」
少し弾んだ声で沙由莉のジュースを受け取り、一口飲む。
「――!? すっぱ!?」
一口飲んだ瞬間に飲むのを止めて自分の飲んだジュースを見てから沙由莉を見る。
「……、何これ?」
「ジュースですよ」
「何ジュース?」
「シークワーサーです」
それを聞いた凛花はため息を付いて、頭に手を付ける。
「何でそういうジュースが好きなの……?」
「美味しいじゃないですか」
と言いながら沙由莉はストローに口を付けてジュースを飲む。
それを見た凛花はため息をまた付いてから彰吾を見た。
「……、俺何かしました?」
「何で、止めて普通のにしてあげなかったんですか……」
「好きなもの飲ませて上げても良いんじゃ?」
「……、そうですね。でも、罰です」
凛花は彰吾の頼んだアイスコーヒーを取ってどこから出したのか分からないが、ストローを取り出して彰吾のコーヒーを飲む。
それを見た彰吾はアハハハ……と乾いた笑みで凛花を見る。
凛花は容赦無しに彰吾のアイスコーヒーを大量に飲んでいる。
「いや、さすがに飲みす――」
ジッ!!と鋭い視線を彰吾に送り、彰吾を黙らせる凛花である。
「はぁ……、好きなだけ飲んで下さいな……」
彰吾が言うと嬉しそうに彰吾のアイスコーヒーを飲む凛花。
飲んでいると凛花が注文していたアイスティーが来た。
アイスティーが来ると凛花は残り少ないアイスコーヒーを彰吾に返してアイスティーを飲む。
「返されてもなぁ……」
「では、私のをどうぞ」
沙由莉は自分のジュースを彰吾に差し出す。だが、
「いや、それは大丈夫」
「そうですか」
(´・ω・`)みたいな表情を浮かべて沙由莉はジュースを飲む。
彰吾は仕方なく店員を呼ぼうと手を上げようとした時に凛花がアイスティーを渡してくる。
「飲んだのは私なので、これをどうぞ」
ストローを抜いた状態でアイスティーのはいったガラスのコップを彰吾に渡す凛花。
凛花に渡されたガラスのコップを受け取り、ストローを入れて飲んだ。
紅茶の風味が口の中に広がり、その後に乾いた喉を潤した。
「ふぅ……、とりあえず飲み物注文するかな」
彰吾はメニュー表を取り出し、品を決めてから店員を呼んで注文した。
店員は「かしこまりました」と言ってからその場を去る。
「そういえば彰吾さんってかなりの実力者ですよね」
突然沙由莉が言い出し、驚く彰吾。
「ん、ま、まぁ……」
「どこであの武術習ったんですか?」
「あ、それ私も気になりますね」
「あ、あぁ……」
沙由莉と凛花は目をキラキラ輝かせながら、彰吾に聞く。
彰吾は少し戸惑うが、
「爺さんに、な」
「お祖父さんにですか!」
「強いお祖父さんですね」
「いや、な。前にも話したけど俺昔の記憶を覚えて無いんだ」
彰吾は以前、この二人に昔の事を覚えていないと話していた。
「でも、お祖父さんの記憶があるって事は覚えて無いだけなんじゃ?」
「いや……、俺はその爺さんに拾われたんだ」
彰吾の発言を聞いた二人は黙り込む。
踏み込んではいけないところまで来てしまったのでは、と思う二人。
「あー、あれだぞ? この話しは暗くなるからあまり話したく無いだけで、俺自身は気にしてないから。聞きたいなら話す」
それを聞いた二人は顔を合わせてコクンと首を縦に振って考えを纏める。
「聞かせて下さい」
と、沙由莉が口を開く。
すると、タイミング良く彰吾が先程注文したアイスカフェオレが届き、彰吾は一口飲む。
「そうだな……、あれは10歳の時だったか――」
――――10歳の時。
俺はあの時、何処かの山の森を歩いていた。
何日も何日も。
お腹が空けば、木に生えているコケを食べたり、虫を食べたりしていた。
だけど、そんな日も限界が近づいていた。
日に日に弱っていく身体、乾いた喉、空腹に襲われる日々。
何日歩いたかは分からない。だけど、疲労の限界でその日に俺は倒れた。
実際、俺は誰なのか分からない。
何が起きて俺はここにいるのかすら分からなかった。
そして、どうしてこんなに服がボロボロなのかも。
そんな時、
「おい! 大丈夫か! ボロボロじゃないか!」
誰が声を掛けていたのか俺は分からず、そのまま意識を失った。
意識が戻っていく感覚の後に何かフカフカした感触が身体全体を覆う。
何かと思い、俺は目を覚ます。
すると、そこには木の天井があり。俺は身体を起こそうとした。
「――ッ!」
だが、体が上手く言うことを効かない。疲労のせいで身体を起こす事さえ今の俺には出来なかった。
しかし、暖かくそのまま睡魔に襲われ俺は目を閉じた。
不意に良い匂いがして、彰吾は眠りから目を覚ます。
先程より身体が上手く動くようになっており、俺は上体を起こした。
疲れがある程度取れた為に、俺は動けていると確信している。
辺りを見渡すと、そこは木造で作られた一人部屋に俺はいた。
窓を見ると、風の強いせいで吹雪になっている。
それを考えると外は寒いが、この部屋は暖かかった。
俺は部屋の扉の隙間から明かりが見え、ベッドから抜け出して音を立てぬ様に扉に近付く。
扉の向こうからいい匂いがする。
俺は警戒しながら、扉をゆっくり開けた。
だが、そこには誰もいない。良い匂いのするかまどに鍋が吊るされている位であった。
「……何が起きてる?」
「お前は倒れたんだ」
「――!?」
突然横から声を掛けられた俺は直ぐにサイドステップをして距離を取る。
声の掛けられた方を見るがそこには誰も居なかった。
「ほぅ、いい動きをする」
背後を取られた俺は振り返ると同時に攻撃を仕掛ける。
まずは、体勢を低くしてから、足払いをしてコケた所にかかとを喉に振り下ろして仕留める。
そのつもりで俺は足払いをした。
背後にいた人物を俺の見事に足払いに引っ掛かる。
「ぐッ!」
ドンッと床に背中を打ち付けた音を確認した俺はそのまま勢いを使って喉に向けてかかとを下ろす。
だが、降りおろされたかかとを素手で受け止められ、
「――ないか」
背後にいた人物、爺さんがそこにはいた。
そして何かを呟いたが俺には聞こえず、俺は仕留める為にかかとに全体重を乗せた。
「痛いじゃないかっ!!」
と一喝、俺は放たれた気迫に押されてそのまま数歩下がろうとする。
しかし、俺は後ろに下がれなかった。
何だと思い足を見るとつかまれている。
俺は足を掴んでいる手に向けて肘を振り下ろす。
降り下ろした瞬間、突然足を引っ張られた。
足を引っ張られた俺はそのままの勢いで床に降りおろされた。
「クソガキめ、恩を仇で返すか」
爺さんが呟くも足を離さない。
「は、離せよッ!!」
俺は何とか両手で床に着地をして、床とのダイナミックキスを避けた。
そのまま片足で爺さんの手を蹴って拘束から逃れる。
「ほほう。本当にいい動きをするな……」
その時初めて爺さんの姿を目視する俺。
白髪で体が普通ぐらいの、太ってもなく痩せても無い普通ぐらいの身体の爺さんがそこにいる。
そんな爺さんが意味の分からない事を口走っていると思う俺。
「ボケとらんわぁい。ただたまに、塩と砂糖を間違えるだけだ」
「いや、別にそれ普通だから」
「ふむ、そのツッコミも良いキレだ……」
一体何を言っているんだこの爺さん。
そんなことを思う俺。
「さて、わしは何もせん。ただお前を助けただけだ」
突然言い出し、爺さんは椅子に座り俺を見る。
俺は警戒しながらも話を聞く。
「ほれ、腹が減っただろう? これでも食べなさい」
そう言って爺さんは木製の器にスープを入れて俺に渡す。
だが、俺は警戒していた為スープを飲もうと思えなかった。
「ふぅ……信用ならんか。なら、毒が入ってないかワシが飲む」
爺さんは木の器に入れたスープを飲む。
「うッ!!」
爺さんが木製の皿を床に落とし、膝をつけていた。
「どうした! 爺さん!!」
見知らぬ爺さんに警戒をしていた筈なのに、俺はそんな事を忘れて爺さんに駆け寄った。
爺さんは膝を床に付け、顔が俯いている為表情が確認出来ない。
よく見るとスープにキノコが入っている。
「――!! 毒キノコ……!」
確信した俺は何とか毒キノコを吐かせようと爺さんの背中を
森?か山?に住んでいるくせに毒キノコの見分けもつけられない爺さんだとは思わなかった。
良くこれで生きていけたなと思う俺。
だが、爺さんは一向に吐こうとしない。
「おい! 死んじまうぞ!!」
「――まい」
何か小言で呟く爺さん。
「あ?」
聞こえず聞く俺。
「うまああああああああああああああい!!」
突然顔を上に上げて、叫ぶ爺さんに呆然とする俺。
「……は?」
何が起きたのか分からず、言葉を漏らす。
すると爺さんがこちらを向く。
「力作だ! 飲んでみろ!」
「は!? 嫌だよ! 毒キノコのせいでそんなテンション高いんだろ!」
「は!? 違うわい! 普通に美味しいんじゃ!」
「ぜってぇ飲まねぇからな!!」
「良いから飲め!!」
言いながら取っ組み合いになり、辺りの物を散らかす。
面倒臭い爺さんに少しキレた俺は爺さんに攻撃する。
だが、爺さんはそれを避ける。
「不意打ちで無ければお前の攻撃など当たらん」
「あっそ」
余裕を見せた瞬間に床を強く踏み込んで一気に近付く俺。
一瞬の油断で判断が遅れた爺さんは俺への対処が間に合わず。
「――!」
本気を出したのか、俺がいつの間にか天井を見上げていた。
何が起きたのか全く分からない。
俺は直ぐに立ち上がり、爺さんを見る。
「本気を出させるとはな……」
「……何した?」
「お前の体勢を崩してから足払いをしただけだ」
「簡単に言ってんじゃねぇよ」
また俺は一気に近づく。それを見た爺さんはハァ……と深く溜め息を付く。
「懲りん奴だな」
爺さんは自分の間合いに入った瞬間に先程の足払いをしようと構える。
だが、俺はそれを見切り間合いに入った瞬間に跳躍した。
「――!!」
見事に足払いを外した爺さんに、俺はニヤっと笑いながら爺さんの頭にかかとを振り下ろした。
かかと落としが爺さんの頭にクリーンヒットし、爺さんは数歩後ろに下がりながら頭を押える。
よし! と小さくガッツポーズを取り、そのまま爺さんに猛攻を掛けようとする。
「調子に乗るなよ、ガキ……」
怒気に混じった気迫に押された俺は数歩後ろに下がった。
爺さんから距離を取り、様子を伺った時に気付く。
全身から汗が流れている。
だが、ここで引けないと思い俺は歯を食いしばってから拳を強く握る。
「本当にスジが良い……、気迫で本能的に恐れている身体を自分で克服するとはな」
「うるせぇよ」
「口の減らぬガキめ」
そして二人は一気に近付きぶつかりあった。
ぶつかり合って10分が立ち、お互い床に寝そべっていた。
お互いに息を荒くしながら寝そべる。
「はははは! 久々に面白かったぞ」
「うっせ……」
俺が言った瞬間に腹が大きな音を立て、鳴り出した。
「フッ……何だ。腹減ってるじゃないか」
「……」
「本当にさっきのスープに毒キノコは入ってない。信じてくれ」
「……分かった」
俺が言うと、爺さんが急に起き上がりスープを温め直す。
「なら……あーさっきのケンカで散らかってるな……」
「そ、そうだな」
「スプーンを取ってそこで洗ってこれを食えばいい」
「分かった」
俺は床に散らばっている中、スプーンを探し出して流し場で洗おうとする。
「……」
「どうした?」
「届かない」
俺の身長は130cmで流し場が爺さん様に作られているせいか、届かない。
それを見た爺さんはハッハッハ! と笑いながら、木製の足場を持ってきてくれた。
「これで届くだろ?」
俺は足場に乗ってスプーンを洗い、タオルでスプーンを拭いた。
スプーンを洗い終わり後ろに振り返ると爺さんがテーブルにスープを用意してくれていた。
テーブルに用意されているスープを飲む為、俺は高い椅子に座る。
すると、爺さんも俺の対面に座りスープを飲もうとしている。
お互いにスプーンを出してスープを飲もうとする。
俺は本当に美味しいのか半信半疑でスープに口を付けた。
「――!」
驚いた、先程の爺さんの言っていた事は間違いでは無かった事に。
「美味いだろ?」
「……」
「そうかそうか、美味かったか。沢山あるからな、飲め飲め」
そう言われた俺は爺さんが用意してくれたスープを全て飲み干した。
まともな食料を胃に入れた俺は満腹感に満たされていた。
「さて、と。お前に聞きたいことがある」
と、じいさんが言い出す。
「何処から来た?」
「分からない。ただ歩き続けていただけ」
「……何処でその体術を習った?」
「覚えてない」
「親は? 家族はいるのか?」
「……分からない」
「……」
爺さんはうーんと悩み始めるが、
「なら、ここに住まないか?」
「え?」
「住民登録ならワシがしといてやる。養子としてな」
「……」
「いやか?」
「いや……そうじゃなく、何で正体の分からない存在にそんなに優しくするんだ?」
「何言ってんだ? 当たり前だろう」
多分俺は、
「人が困っているなら助けるのが常識だろう」
ここから、この人に憧れていたのだろう。
普通の人なら出来ない事、言えないことをあたかも当たり前の様に言うこの人に俺は憧れたんだろう。
「だが、まず自分を守れなかったら他人何か守れない」
「……」
「お前には素晴らしい力と才能がある。それはいつ使うのか、多分自分ではわかってないだろな」
「……」
「ワシが教えてやる」
俺は思わず、顔を上げ爺さんの目を見る。
「良いかこれだけは覚えて置くんだ」
爺さんは真剣な眼差しで俺を見る。
「優しさだけじや人は救えない。実力とそれに見合った力、自分を守る力が無くては他をまもっちゃいけないんだ」
「……なんで?」
「例えば殺人犯が銀行で人質を取ったとしよう。そこに殺人犯に何も出来ない人間と殺人犯に有効打を与えることが出来て犯人を捕まえられる人間。どっちをお前は使う」
「そんなの有効打を与えられる人間に決まっている」
「そうだ。それと同じ何だよ。気持ちで動いて助けに行くってのは悪くはない。だが、それで死んでしまったらそこでおしまいだ」
「確かに……」
「そうならない為に、俺が教えてやる。どうだ? 俺の養子にならないか?」
爺さんが片手を俺に差し出して同意を求めようとしている。
普通なら、見知らぬ人にこんな提案だされても拒むのが普通だが、俺の中では既に決まっている。
「よろしくお願いします」
爺さんの片手を掴み握手をした。
「よし! なら、わしの名前はレガシー・フェン・オーゲンだ。好きな様に呼べ」
「じゃあ、爺さんでいいや」
「好きに呼べい。で、お前の名前は?」
「俺の名前は……分からない……」
「何? そこまで記憶が無いのか」
「あ、ああ……」
「ふーむ、お前は日本人とか北、韓とかだよな……」
「それも分からない……」
「待ってろ」
そう言うと散らかった部屋に本棚が有り、その本棚から一冊の本を持ってきた。
「これを知ってるか?」
爺さんが持ってきたのは、
「日本昔話は知ってる」
日本昔話の本を爺さんが持ってきた。
それ見て確信したのか、爺さんはもう一冊の本を持ってきていた。
「だと思ったんだ。孫の夫が日本人でな、その日本人オーラが出ておったからな」
そう言いながら爺さんは本を開く、その本は日本の漢字字典。
「よし、お前の名前をワシが決めてやったぞ!」
「ふざけた名前はやめてくれよ?」
「ハッハッハ。安心せい。お前の名前は」
「彰吾じゃ」
この日に彰吾と言う存在が誕生した。
つづく。
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