~ 放たれた悪意編 ~

第11話 放たれた悪意Ⅰ

「ハァ、ハァ……」

『彰吾さん、そこを右に曲がってください。そこに行けばゴールまで最短で行けます』

 耳に付けているインカムからアリスがルート案内をして彰吾を導く。

 彰吾は言われた通りにそのルートを通ろうとしたが、

「いたわあああああああああああああ!!」

 脇道から現れた女性の一人が大声を出しながら彰吾に指をさす。

 見つかった彰吾は全力でその女性から逃げようとする。

「そっちにいったわよ!!」

 大声で言った瞬間、目の前から突然二人に女性がどこからともなく現れ、飛びかかってきた。

 それを彰吾はうまく避け、一気に駆け抜ける。

「あー!! 早く目的地か時間経たないかな!!」

 走りながら愚痴をこぼす彰吾であった。

 この事態になる一週間前の出来事である。




 横浜で起きた事件から一か月半経ち、季節は夏になった。

 彰吾と俊は真夏の学校から帰宅の途中。

「あちーよ……」

「あぁ……それは思うわ……」

「それで学校とか地獄だわ……」

「仕方ないだろ、授業があるんだから」

「教室にエアコンがあればなー」

「それなぁ……」

 真夏の暑い中二人で、学校から家に向かう彰吾と俊。

 下校していると、彰吾の横に誰かが駆け寄ってきた。

「よぅ……」

「有原か……」

 有原が彰吾の横に着き、彰吾に挨拶し彰吾も挨拶し返す。

「うす……」

 顔から汗を流し、前屈みになりながら挨拶する俊。

「で、彰吾。腕は治ったのか?」

「あぁ、完治した」

「相変わらず治りが早いな」

「まぁな」

「無視かよ!!」

 俊の挨拶をスルーし、有原は彰吾と会話していた。

 それに我慢できず、俊はツッコミを入れる。

「相変わらず暑苦しい顔してるから、大丈夫だと思いましたマール」

「馬鹿にしてんのか? ゴラァ……」

「いや、馬鹿にしたつもりはない」

「じゃあ、なんだよ……!」

 眉を額に寄せ、物凄い形相で有原を睨む俊。

 有原は呆れた表情を浮かべながら俊に言って、フッと鼻で笑う。

「何笑ってんだ、あぁ?」

「馬鹿にしねぇよ。本気で言ってんだ」

「そろそろ、決着つけるか? クソアホ毛……!!」

「アホ毛じゃねぇよ……! 寝癖だ、脳筋の低脳が……!!」

 彰吾を間に挟みながらにらみ合う二人。

 だが、にらみ合う事数秒でお互いにやめる。

「今回は早いな二人とも」

 学校指定の半袖ワイシャツの胸元を掴み、パタパタ振って扇ぎながら言う彰吾。

「「暑くて相手にしてられねぇ」」

 二人は声を合わせて彰吾に言う。

「そうか、そりゃあ良かった」

 さすがに彰吾は二人の喧嘩の仲裁に入るのも面倒くさくなる暑さであった。

 三人は黙って下校していると、近くに自動販売機を見つけ三人で近寄る。

 自動販売機の前に立った三人は何にしようか迷う。

「俺はとりあえず、水」

 彰吾は自動販売機にお金を入れてボタンを押す。

 ボタンを押すと、ガコンと音を立て水が下の取り出し口に現れる。

 俊がお金をいれ、サイダーのボタンを押して下の取り出し口から取る。

「んじゃ、俺は」

 そういうと、有原はボタンを押し取り出し口から取り出した。

「……」

「おま、マジか……」

「何がだ?」

 彰吾と俊が有原の買ったものに少し引く。

 有原は手に持っている飲み物を彰吾と俊に見せる。

「男も」

「黙る」

「絶句炭酸。だが、何か?」

 何が可笑しいのか分からない有原に対し、彰吾と俊の二人は驚きつつ引くのであった。

 だが、俊が口を開く。

「いや、だってそれやべぇって」

「何が?」

「飲んだら吐き出すから」

「まずくはねぇだろ」

「炭酸がつえーんだよ」

「それが?」

「喉焼けるような感じだし、むせるし」

「そうか」

「……舌おかしいだろお前」

 俊が呆れて有原に暴言を吐くが、そんなのを気にせずに有原はボトルのキャップを開ける。

 すると、勢いよく中の炭酸が一気に噴き出し有原の顔に直撃する。

 その瞬間二人は口に含んでいた飲み物を噴き出す。

 勢いが弱まると、ボトル内の炭酸が半分以下になったいた。

 さすがに二人は先ほどの光景を目の前で見せられ笑う。

「フフ……」

 と、彰吾は笑うが抑える。だが、

「ブァアハッハッハッハッハッハ!! ブシュー!!って! ブシューっていったぞ! アッハッハッハッハ!!」

 俊はお腹を抱えながら涙を流して有原に向かって大爆笑する。

 むしろ、大爆笑してもおかしくはないが、事故でこうなってしまうと相手の気持ちも分からないでもない。

 それを感じた彰吾は笑ってはしまったが極力抑える事にしていた。

 前髪からポタポタとジュースの水滴が地面に落ちる。

 有原は無言で俊に近づき、そして、

「フンッ!!」

 俊の手に持っていたジュースを蹴り、空中へ飛ばした。

 有原に蹴られたジュースは宙を舞い、回転しながらサイダーを辺りに降り注がせる。

「あああああああああああ!!」

 蹴られた数秒後に反応した俊は叫ぶ。

「つめ、た」

 降り注ぐサイダーに彰吾、俊、有原が掛かった。

 そして、サイダーは地面に落ちて中のサイダーがほとんどなくなった。

「おま! まだ、一口しか飲んでなかったんだぞ!!」

 と、俊が言いながらサイダーを取りに行き有原の方へ振り返る。

「わり、彰吾。これで拭いてくれ」

「ん、サンキュ」

「また、スルーかよ!!」

 と、ツッコミを入れる俊。

 少し怒るが、すぐに怒りが収まる俊に驚く彰吾。

「珍しいな、何も言わないなんて」

「……笑い過ぎたのもある」

「だな」

 少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら彰吾と有原の元へ戻る俊であった。

 それを見た有原は自動販売機に行きボタンを二回押した。

 そして、俊に先ほど蹴り飛ばしたサイダーを投げ、それをキャッチした。

「やる、これでチャラにしてやる」

 そう言いながら、取り出し口から有原自身が飲む飲み物を取り出す。

「「またかよ」」

 彰吾と俊が息を合わせて言う。

 有原はまた同じものを買い、今度はゆっくりと開けて炭酸を少しずつ抜いていた。

「さて、帰るか」

「あぁ」

「有原は?」

 炭酸を抜くのに奮闘中の有原に彰吾が聞いた。

「お、おれは、よう、じがある、か、らさっ、きにかえ、る」

 開けては閉め、開けては閉めの繰り返しながら炭酸を抜いている有原である。

 とりあえず、有原が一緒に帰れないと分かった彰吾は俊と二人で帰る事にした。

「じゃあな有原、夏休み中にどっか遊ぼうぜー」

「お、おう。またな」

「じゃあな、有原ー」

「……」

「結局スルーかよ!!」

 そして、有原と別れて彰吾と俊は昼の商店街に来ていた。

 何やら500円で一回ガラガラを回して、商品を手に入れる事が出来るイベントをやっている。

 たまたま彰吾と俊は買い物があり、スーパーに寄っていた為500円以上の買い物をしようという事になった。

 二人は買い物をしている最中も鐘の音がなり、何個か当たりが出ていた。

 彰吾は別にハズレ賞が何でもよかったが、三等の商品券ぐらいしか欲しい物はない。

 しかし俊だけは違った。

「一等の沖縄一等の沖縄一等の沖縄一等―――」

 と、呪いを掛けるのか如く、ブツブツと呟いている。

 二人は買い物を済まし、お互いの合計金額を見る。

 彰吾は514円に、俊は1021円。

 彰吾は一回、俊は二回という事になった。

 二人はレシートを持って抽選場に向かう。

 抽選場に向かうと前に居たおばちゃんが三等を当て、商品券2000円分を貰っていた。

 正直彰吾は、沖縄とか遊園地のチケットよりも商品券の方が嬉しい。

 前のおばちゃんがどき、彰吾の番になりレシートを店員に渡す。

「ありがとうございます。では、一回ですね。どうぞ!」

 元気よく言う店員、彰吾は商品券が出ますようにと思う。

 数回転すると、小さな穴から玉が出てくる。

「あー、こちらはハズレ賞ですね。どうぞ、こちらを」

 白玉が出てくると、店員が残念そうな表情を浮かべながらスポンジを彰吾に渡した。

 彰吾は「あっラッキー新しいの買おうと思ったてたんだよね」と思った。

 彰吾がどき、後ろにいた俊が店員にレシートを渡す。

 俊がガラガラに手を掛ける。

「がんばれー」

 と、棒読み感を出しながらも応援をする彰吾。だが、その声は俊には届いていない。

「二回回してください」

 店員が言うと、俊がガラガラを回し始めた。

 回し始めると、俊の口からかすかに聞こえる。

「沖縄沖縄沖縄沖縄沖縄沖――」

 もはや、ホラーである。辺りにいた雀も何故かその場を去り、鳩もその場を急ぐように去っていく。

 気迫に押されたのか、店員が数歩後ろに下がる。

 数回転ガラガラを回すと、玉がでた。

「……」

「……」

 玉が出ると、数秒の沈黙。そして、

「おめでとうございまああああああす!! 一等賞の沖縄旅行! 一組様二泊三日の旅行券です!!」

 鐘を大きく鳴らしながら、大声で叫ぶ店員に俊はドヤ顔で前髪を払う。

 その時の俊ほど、うざいものは無かった彰吾。

 そして、二人は沖縄に行ったのだ。




 アリスに言われた通り、彰吾は最短ルートを進む。

 何度か妨害があったが、何とか切り抜け走る。

 なぜ、彰吾がこんな事になっているのか。それはこの沖縄でのイベントに参加していたからだ。

 彰吾は乗り気ではなかったが、俊が勝手に参加しそこで強制的に参加させられた。

 参加したこのイベントは15人の男性が参加し、15人が箱の中の紙を取り出しそれを持って女性から逃げると言うイベント。

 しかし、このイベントは紙を取られてはヤバいイベントであった。

 彰吾は道なりに進み、走り続けていると、

「いたわ!! こっちよぉおおおおお!!」

 一人の女性が彰吾を見つけ、大声を上げて仲間を呼ぶ。

 彰吾はすぐにルート変更して女性から逃げようとする。

「まちなさぁあああい!!」

「あなたを捕まえて!」

「私たちは!!」

「「「勇吾さんとニャンニャンすんのよぉおおおおおおおおおおお!!」」」

 と、叫びながら女性たちが彰吾を全力で追っかける。

「知るかッ! 俺は捕まって罰ゲームを受けたくはないッ!!」

 めんどくさかったら簡単にあきらめて捕まれば良いと思っていた彰吾だが、イベント開始直後MCから、

「ちなみに、王様カードは二枚あるからネー! それが一枚あるとこの15人の男性の中から、一日デートをできるゾー!! あと、」

 MCのおっさんが一回転して男性陣、俺たちの方を振り向き、

「捕まった人が早ければ早いほど、罰ゲームからあるからネー! ちなみに、最下位はわさびジュースだYO! 後は、半日ここの海の家でバイトだからネー! んじゃ、王様カードを持ってる奴を発表するぞー! この二人だー!!」

 MCが言うと、画面に彰吾の姿と俊の姿が後ろの大きな画面に表示された。

 その瞬間、女性の目つきが一瞬で変わり狩りをする目になった。

 そんな訳で彰吾は逃げているのだ。

 彰吾は曲がり角を曲がり、更に曲がり角を曲がってから物陰に隠れる。

「ハァハァ……」

 隠れた数秒後、足音が聞こえた。彰吾は息を潜め気配を可能な限り消す。

「どこいったの!」「分からない!」「そう遠くへは行って無いはずよ!」

 女性たちがそういうとどこかへ走り去っていった。

 走り去ったと思い、彰吾は一安心しその場に座り込む。

「超……こえぇ……」

 マジでヤバかった、マジで怖かった。そう思う彰吾であった。

 先ほどの女性が言っていた勇吾さんって言うのは、有名なイケメン俳優でたまたまTV関係でイベントに参加していたのだ。

 女性たちはその勇吾さんと一日デート、海の家で働いてくれたら通うつもりでいたらしい。

 それのもっとも簡単に可能と出来るのが彰吾と俊という訳で、最速で狙われたのだ。

 息を整え、彰吾はその場から出ようと道に出る為に前後を確認してから道に出る。

 ある程度進み、物陰に隠れて周囲を警戒しながらゴール地点を目指す。

 唯一、罰ゲームなどから回避できる方法はゴールまで辿りつくか、制限時間まで逃げ切るかの二択。

 後、逃げられる場所は制限されており進んではいけない場所はロープで通れませんと表示している。

 本気で逃げられるかどうか、分からない。

 ちなみに、女性の参加人数に制限はほとんどない。

 しかし、女性が多くなればなるほど逃げる範囲も広くなる。

 だが、逃げる範囲が広がっても多勢に無勢。

 逃げ切れるか本当に運次第のもあるのだ。

 彰吾が辺りに気配が無いと感じ、道に出て軽く走りながら進む。

 道なりに沿って進むと、

『彰吾さん、ごめんなさい……』

 突然アリスが謝りはじめる。

「突然どうした?」

『電池がぁ……』

「え!?」

 冗談だと思い、彰吾はスマホをポケットから取り出して電池の残量を確認すると、アリスが電池の残量の表示を持ちながら困った表情を浮かべている。

「マジかよ……」

『さすがに逃げる為にさまざまなものを起動していたので、それで消費がとんでも無い事に……』

「だ、だよなぁ……」

『私の案内はこれからは出来なくなります。残り10%なので電話出来るぐらいの残量を残して置いた方が良いと思います』

「で、ですよねー……」

『ご、ごめんなさい……』

「頑張って逃げ切るよ……」

『しょ、彰吾さんなら平気です! 逃げ切れますよ! あ、一応電話したい時は電話した人の名前を言って頂ければ私が自動でそこまで致しますので、そこだけは力を貸すことが出来ます!! ですので、頑張ってください!!』

 そして、最強のナビゲートのアシストが無くなった彰吾であった。

 とりあえず、彰吾はその場を移動して見つからなさそうな場所へ向かう。

 海岸沿いまで来た彰吾は、洞窟を見つけてその洞窟に入った。

「ここ、多分新しく見つけられた洞窟か……」

 と、呟きながら彰吾は洞窟を進んでいく。

 薄暗いが、前が見えない訳でもない洞窟である。

 所々で天井に穴が開いており、そこから光が差し込んでいるからこそ前が見えるのだろう。

 もしそれがなかったら、多分ここ等一帯が真っ暗のはず。

 彰吾はここまでくれば何とか時間は稼げるだろうと思い、腰を下ろした。

「ふぅ……やっと一息つけるな」

 彰吾はズボンの後ろポケットに入れていたペットボトルを取り出して、蓋を開けて飲む。

 ただの水だが、先程まで走っていて失った水分を補充するのには十分。

「まぁ、勇吾さんは序盤に捕まっただろうな。ファンが触りたいからっていう理由で」

 実際今彰吾の言ったことは間違いではなかった。

 序盤に速攻で勇吾が女性に捕まり、大混乱を巻き起こした。

 そして、女性たちは勇吾を触り終えると即彰吾と俊を探し出して、追っかけはじめた。

 このイベントは3人捕まえた人に一日好き放題の権利を渡す事になっている。

 その中で二人、一人を捕まえれば一日好き放題の権利を獲得する事が出来る。

 三人捕まえるより、一人を捕まえた方が早いため狙われるのだ。

 彰吾はある程度休んだので、立ち上がり奥へと進む。

 いつまでも同じ場所にしては、いずれ見つかってしまう。

 更に道が分からないこの状況で、これはまずい。

 だからこそ、ある程度は地形把握をし、道を把握の後に逃走ルートを考えて置けば万が一な事があっても逃げる事が出来る。

 そう思い、彰吾は奥へ進んでいくと。

「ん……?」

 何か走っている音が聞こえた様な気がした彰吾は後ろを振り向く。

 すると、走っている者の正体が、

「俊……?」

 小さく言うと、物凄い速度で彰吾に近づき足踏みしながら息を荒くしている俊であった。

「よっ……! よう!! ッと! まぁ、いいや! にげっぞ!!」

 俊が言うと彰吾の腕を引っ張って強制的に走らせる。

「な、なんだよ。どうしたんだよ?」

「ヤベェ奴等が追っかけてくる……」

「女だろ?」

「……」

 彰吾が言うと俊の顔が真っ青になりながら無言で走っている。

 何が起きているのか分からない彰吾。

 すると、背後から少し足音の大きい音が洞窟を響かせた。

「きた……!」

 急に真剣な顔つきになり、全速力で走って彰吾より先を行く俊。

 彰吾は体力を少し温存したいため、ペースを落として女性でも逃げらせる位の速度で走る。

 そして、俊が逃げる程の存在を目視した彰吾は全速力で走って逃げる。

 全速力で走った彰吾はいつの間にか、俊の背中を見つけ俊の隣に行こうとする。

 後ろを確認した俊は彰吾だと分かり、少しだけペースを落として彰吾と足並みを揃えた。

「おま……!! あれ、なんだよ!!」

「お、俺に言われてもなぁ……」

「あれ、どうみたって……」

 彰吾は後ろを振り向く、すると薄暗い中から現れた。

「まってぇ~~ん! 可愛いぼうやぁー!」

 と、おっさんボイスで言いながら全力で走っている女装のおっさん達が現れた。

「男だろ!!」

 俊の方へ振り向いてツッコミを入れる彰吾。

「珍しくツッコミだな」

「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ!!」

 二人は全速力でおっさん達から逃げる。おっさん達は彰吾の存在に気づいた。

「あらん、もぅひとりいますわよ! おねぇさまん!」

「どんな子かしらん」

 その時ふいに彰吾は後ろを向く。

「「「良いわぁあああああああああああああああ!!!!」」」

 おっさん達の叫びが洞窟を響かせる。

 彰吾の顔を見た途端に叫んだおっさん達。

「あの、あのこ良いわぁ!!」

「可愛がりたいわぁ……」

「そぅねぇ……でもぉ、私達はぁ……」

 そういうとおっさん達全員で、

「「「あの子が一番ッ!!!!」」」

 俊に指をさしながらおっさんの野太い声で叫んだ。

 その瞬間、俊は鳥肌が立ち背筋が凍った・

 二人は全力でおっさん達から逃げる事に決意した瞬間である。

 間違いなく今この二人は直感していた、これは逃げないと人生終了のコールが鳴らされる。と。

 女性に追っかけられるのなんて、生温かったのだ。

 これが悪夢、ここからが本番であった。と思う二人であった。

「て、てか、女性限定だろ!? なんで、おっさんが混じってんだ!?」

「そ、それがさ、逃げてる最中に聞いたんだよ!」

「誰に!」

「後ろのおっさんに!」

 おま、マジか……と思う彰吾であった。

「このイベント、心が女性か店のママなら女扱いされるらしい! それも、その時は女装しないとこのイベントに参加できないみたいだけど!」

「それ絶対におかしいだろ!!」

 あまりの横暴にツッコミしかなく全力で逃げながらツッコミを入れる彰吾。

 話していると、目の前に右と左の分かれ道が現れた。

 二人は目を合わせて、お互いに確認する。

「信じてるぜ、彰吾……」

「ああ、まかせろ……」


 そして二人は、


 見事、左右に分かれるのであった。


「うそつきぃいいいいい!!」

「いや、そっちかよ!!」

 しかし、もう後戻りはできない二人はそのまま進む。

 薄暗いせいでおっさん達は全力で走っていた二人を見逃した。

 進むと左右に分かれ道が見え、おっさんは、

「左よ!! あたしの! 勘がぁ! そぅ言ってるのよォ!!」

 おっさん達は左に進み、洞窟を走る。

 そして、一人の人影を確認した。

 人影は振り返り、後ろを確認した瞬間、

「「「ビンゴォオオオオオオオオオ!!!!」」」

 俊を見つけた瞬間に、おっさん達は野太い声で俊のいる洞窟を響かせた。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 おっさん達から全力で逃げる俊であった。

 彰吾は完全に俊の方に行ったと確信し、ペースを下げて洞窟を歩き始める。

 洞窟を進むと明かりが見え、彰吾は走って明かりの元へ行く。

 明かりのある場所に行くと、そこは洞窟の出口で向かい側の海岸に出ていた。

 辺を見渡すと、時計を見つけ現在の時間を確認する。

「今は午後3時か……後30分か」

 とりあえず、先程のおっさんに追っかけられた恐怖が今となって彰吾の身体を襲う。

 急に寒くなり、背筋も凍った彰吾は近くの階段に腰を下ろす。

 ふぅ……と一息着き、自分を落ち着かせる。

 何とか逃げ切った彰吾だが、もしこっちに来ていたらどうなっていたかは想像もしたくない。

 改めて、俊ごめん。と思う彰吾であった。

「あれ? 彰吾さん?」

 と、思っていると聞きなれた声が聞こえた彰吾は声のする方へ振り返る。

「驚きました、彰吾さん来てたんですね」

 振り向くとそこには全世界に56人、日本に8人しかいないSランクのその一人。

 通り名は爆弾士ボマー東堂とうどう沙由莉さゆりがそこにいた。

「って、沙由莉もいたのか」

「はい、私だけで無いのですけどね」

「後、誰?」

 と彰吾が聞くと、

「沙由莉ー! 何か面白そうなイベントやってるから参加しない?」

 日本に8人しかいないその二人目のSランクの雷光ライトニングと呼ばれ。

 第四女学院の生徒会長の久能くのう凛花りんかが表れた。

「あら? 彰吾さん!」

 凛花は彰吾を見つけると、彰吾に近づくために階段を降りて砂浜を走る。

 それに続き、沙由莉も後に続き彰吾に近付く。

「何の偶然ですか? 彰吾さぁん?」

 と言いながら不敵な笑みを浮かべながら上辺使いながら彰吾を見る凛花。

「俊が旅行券当ててね、それで一緒に来てるわけ」

「へぇーなるほど……ん?」

 凛花は何かに気づき、ニヤっと笑った。その瞬間、彰吾は嫌な予感を感じる。

 少し後に沙由莉が彰吾の元へ着くと、凛花は沙由莉の元へ行った。

 そして、二人で何か話している。

 その隙に彰吾は逃げようとしたが、

「彰吾さーん、逃げないで下さいね?」

 凛花が言う、彰吾は凛花の表情を伺う。

 その顔を笑っている。だが、何処か笑っている筈なのにも関わらず、威圧感を感じる彰吾。

 凛花から放つ威圧感に圧倒された彰吾はその場から動けず、乾いた笑みを浮かべながら首を縦に振った。

 二人が話終わると、ニコニコと笑顔で彰吾に近付く沙由莉と凛花。

 彰吾は少し後ろに後ずさりしたが、逃げられ雰囲気では無くそのたじろいでしまった。

 ニコニコと笑いながら二人は彰吾の左右に行き、彰吾に近付く。

 そして、

「「捕まえたぁー!」」

 と言いながら彰吾を捕まえると同時に逃げられないように腕をがっしりと拘束された。

「ちょちょ!! 当たってる!」

「言って欲しいのですか?」

 不敵な笑を浮かべながら言う凛花。

「な、なにが?」

「当ててのよ、と」

「言ってんじゃん!」

 凛花にツッコミを入れる彰吾。フフフと笑う凛花に対して沙由莉は軽く赤面しながらも腕を掴んでいる。

「……あれだったら離しても大丈夫だぞ?」

「だ、大丈夫です。放したら逃げそうなので、がっしり!とつ、捕まえさて頂きます」

 言いながらも恥ずかしさを隠せていない沙由莉に彰吾はハァ……とため息を付く。

「もう、捕まったから逃げても意味は無いよ……だから離してくれ」

 すると彰吾の腕を掴んでいる二人は互いに顔を合わせてやった!とガッツポーズを取った。

 だが、結局彰吾は拘束されたまま会場に戻らされる事になった。

「いや、何でだよ……」

「「逃げそうなので」」

「逃げないから……」

「「離しません」」

 見事に息を合わせて言う二人にもうどうしようも無いと思った彰吾は、諦めて歩く。

 会場に着くと、俊以外の男が全員捕まっていた。

 よく見ると当初の女性の人が明らかに数倍と多くなっているのが見ただけで分かった。

 この人数から逃げている俊はもっと凄いと思う彰吾。

 それに俊はまだ捕まって無いと言うことで、更に凄い。

 そして、タイムアップとなり俊は逃げ切った。

 俊はボロボロになりながら魂を抜き取られたかの様に真っ白になっている。

 イベントの優勝者と準優勝の俊と彰吾は海の家で働く事は免除された。

 俊だけは海の家の商品全品無料サービス券を手に入れた。

 彰吾は捕まり、一日好き放題の権利だけ有効となり捕まえた沙由莉と凛花に次の日に付き合わされる事になった。

 イベントが終わった後に俊が、

「お前は! お前は!! 俺は、俺は死にそうになったんだぞ!! ちょおおおおおおおおお! 怖かったんだからな!!」

 と言ってきた。

 どうやら、本気で怖かったみたいの俊に驚く彰吾であった。

 そんなこんなで沖縄旅行一日目が終了しようとしていた。

 彰吾と俊の二人はホテルに戻ってから、汗をシャワーで流して食事にした。

 明日、彰吾は約束通り沙由莉と凛花の二人に一日付き合わされる事になったので、寝ることにする。

 さすがの俊も疲れたのか、食事をとってから有る程度テレビとか見てからいつの間にか寝ていた。

 彰吾は部屋の電気を消し、床元だけが部屋を照らし、ベットに入って彰吾は目を瞑り眠りにつく。




 この後に起きる事に予想も出来ないまま、彰吾はその日を終えた。





 つづく

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